大分前に、国際協力に携わる先輩たちと話していたとき、「やっぱり最初の赴任地は思い入れが深い」という話題になった。初めての赴任地は、比べる対象もない上に、日本を離れて初めて自分の足で途上国を歩む経験は、確かに新鮮だし、毎日が想定外なのだと思う。
かくいう私も、南スーダンで感じた優美なナイル川の上を滑る風の生ぬるさや、電気のない真っ暗闇に降り注ぐ星の美しさ、口内の水分を無慈悲に奪っていくパサパサのビスケットの味、日射病でフラフラになりながら歩いた地面のひび割れ具合にいたるまで、いまだにまざまざと思い出しては、決して楽しいことばかりではなかったのに、いつかまた戻りたいと思う。
先日エチオピアに滞在し、現在支援をしている南スーダン難民の通う学校を訪問した。彼らの多くは、私が以前滞在していた地域からは離れたところから避難してきていたものの、私が昔南スーダンに滞在していたことを話すと、相好を崩して昔の南スーダンの話をしてくれる。あそこにはあれがあった、これがあった、何がよかった、今はどうなっている…難民の先生や生徒たちとともに、2年半くらい前の「昔話」に興じた。
2011年7月に、南スーダンとして独立したとき、彼らは「帰る場所」を手に入れた。たった2年後の2013年12月に、国内で内乱が起きたとき、彼らはまた「帰る場所」を失った。
そのときから、南スーダンは、どのように変わってしまったのだろうか。残念ながら、現在も南スーダンでは、首都以外は邦人の立ち入りが推奨されていないので、状況は人づてでしか知らないが、私が滞在していたアッパーナイル州でのむごい話はたくさん聞いた。人でにぎわっていた市場が焼かれ、家々がつぶされ、人々は老若男女容赦なく殺され、暴行され、築いたすべてを失った。2年半くらい前の、私が知っていた南スーダンは、皮肉なことにもう「昔話」だ。
だが当然、南スーダンの人々は「今」を歩んでいる。難民キャンプの学校では、卒業テスト前の補習授業をしている先生の姿と、教室の外に溢れて、窓からでも先生の授業を聞き、ノートを小さく切ったメモ帳にペンを持って、一生懸命数学の問題を解く生徒たちがいる。学校で話をした女生徒たちは、子どもがいたり、家族がまだ南スーダンにいたり、実に様々な環境におかれているが、一様に学校に通い続けたい意思、「未来」を話してくれた。
国に戻って、看護師になって病気の人を助けたい、先生になって難民キャンプで学んだことを子どもたちに伝えたい、英語をしゃべれるようになって、外国の人たちと話がしたい、結婚する前に、学校を卒業したい。学校に通う理由や夢は様々だ。それぞれがすばらしいと思った。
彼らの夢や希望は、残念ながら彼らだけでは実現できる可能性が低い。劣悪な水衛生環境、早すぎる結婚や不安定な教育システム、暴力や犯罪、貧困、インフラの絶対的な不足。さまざまな夢を阻む要因が、彼らの周りには溢れているからだ。
日本に生まれ、彼らよりはるかに恵まれた環境で学校に通えた私は、彼らの背負う課題の何百分の一も、背負ったことはない。私が彼らのような運命をたどったとき、どうなってしまうのか、生き延びられるのか、恥ずかしながら想像すらできない。
どの支援地に行っても、私はそこに暮らす人々に支えられて生きていると感じる。支援を行う側なのに情けない発言かもしれないが、現実は、私は「寄り添わせてもらっている」のだと痛感している。土足で彼らの土地へ踏み込み、彼らよりはるかに恵まれて生きてきた私を、不公平だと怒り拒絶することなく受け入れ、手をつないでくれる子どもたちは、私には到底真似できない尊い心を持っている。私をもてなしてくれて、ハグしてくれる現地の人々は、私が彼らとともに泣き、ともに喜び、ともに怒ることを、許してくれた。
私の日々は、支援地の人々の温かい思いで支えられている。
私は、いつか難民キャンプで出会った生徒たちが先生となり、看護師となる世界が見たい。そして私の「昔話」よりもっともっといい南スーダンを見たい。私はそんな夢を見、国際援助に携わる者として、それが夢で終わらないように、歩んでいきたい。
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6月20日は世界難民の日。
約5,950万人もの人々が、紛争や迫害により故郷を追われ、厳しい環境で生きています。
今、彼らのことを知ってください。
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この記事を書いた人
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イギリス、マンチェスターメトロポリタン大学にて政治学部卒業。
大学在学中にWFP国連世界食糧計画にてインターン。
2010年9月より支援事業部 緊急人道支援課(旧 海外事業部 緊急人道支援課)ジュニア・プログラム・オフィサーとして勤務。2012年9月よりプログラム・オフィサーとして勤務。2016年7月退団。
趣味:読書、映画鑑賞、ダイビング
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