世界の国々のなかで、ひときわ思い入れのある国があります。
それは、アフガニスタンです。
大学生のころ、隣国のイランに留学していたとき、アフガニスタンの人たちと出会う機会がありました。特に仲がよかったのは、同じ学生寮に住む、文学を学ぶ大学院生の友達でした。自分より少し年上で、ハザラ族である彼女は顔立ちが日本人とそっくり。一緒に散歩をしたり、買い物へ行ったり、夕食を食べたり、慣れない生活に悪戦苦闘する私を、いつも励ましてくれました。
自分の国で起こっていること、移住した先での生活や差別、個人ではどうしようもない困難や理不尽に、ときどきひどく憂鬱になりながら、それでも目の前の現実を引き受ける姿が心に焼き付いています。ごはんを食べたり、散歩をしたりしながら彼女が話してくれたこと、それは私が人道支援に関わる原点になりました。

友人とテヘランの公園で
ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)に入って、様々な方々や機関と連携し、緊急の食糧支援や越冬支援など、アフガニスタンへの支援を担当することはわたしの大きな喜びでした。WVJでは寒さや飢えなど喫緊のニーズを満たす緊急支援だけでなく、持続可能な農地の回復を目指した水路の再建事業や、困難な地域での出産を支える助産師の育成など、中長期的視野で国やコミュニティの再建に資する事業も実施してきました。
「アフガニスタンの子どもたちが生き延びるだけではなく、より豊かな人生を生きていくための支援をもっと届けていきたい」。今はアフガニスタン復興の通過点であり、地道な努力の先にきっと目指す未来が開ける。そう、確かな希望をもって支援に携わっていました。

コミュニティの人たちと協力して行った水路整備の様子
しかし、アフガニスタンは今、最悪の人道危機に直面しています。
長年にわたる紛争の影響に加え、混迷する政治や不安定な経済状況の中で、国民の半数は日々の食事や物資が十分に賄えないほど困窮しています*1。さらに、洪水や干ばつ、地震などの自然災害や気候変動の影響による被害も頻発し、すでに脆弱な環境で暮らしている人々の生活を追い詰めています。
メディア等で取り上げられることも少なく、日本にいる私たちの目には届きにくいですが、世界の様々な地域で頻発する紛争や自然災害のかげで、アフガニスタンの人々の生活はますます厳しさを増し、改善の兆しが見えない日々が続いています。
このような複合的な危機は、子どもたちの生活にも大きな影を落としています。現在、子どもたちの多くが教育を受けられていません。また、13歳以上の女の子は学校に行くことができません。女の子だけでなく、貧困により多くの男の子が、困窮した家計を助けるため働かなくてはならず、教育を受けられていません*2。アフガニスタンの識字率は37.3%(女性が22.6%、男性が52.1%、2022年時点) *3で、読み書きができる人は人口の4割にも満たず、また女性においては5人に1人しかいません。
*1 Afghanistan Humanitarian Needs and Response Plan 2025 (December 2024) | OCHA p.3
*2 Humanitarian Action, https://humanitarianaction.info/plan/1185/article/education, 2024
*3 UNESCO, Community-based Literacy and Complementary Learning Possibilities,
https://www.unesco.org/en/fieldoffice/kabul/expertise/education/literacy-learning-possibilities#:~:text=The%20literacy%20rate%20of%20Afghanistan,Literacy%20and%20Skills%2Dbased%20Literacy.
現状のまま、多くの人たちが教育の機会を失うことは、子どもたちが読み書きや計算といった、生きていくための基礎となる力を身につけることができないだけでなく、人生を健やかに、豊かに生きる力を育むことを阻み、ひいては国全体の発展への大きな壁となりえます。また、教育を中断した子どもたちは、教育の機会を喪失するだけでなく、児童労働や児童婚などのリスクにさらされているのです。
WVの事業地の一つ、ゴール州は、アフガニスタンの中でも取り残され困窮している地域の一つです。山がちな地理的特徴により、人道支援が届きにくい地域でもあります。
行政が混乱し国際社会の支援も減少する中、女子・男子の双方で、初等教育も受けられていない子どもが増えています。学習に適した、安全で安心して学べる環境の不足が著しく、ゴール州の多くの地域で校舎のある学校が不足しており、子どもたちは野外で授業を行ったり、地域の空きスペースを間借りしたりして、学んでいます。
地域の人たちは、子どもたちに何とか快適に学べる教室や、トイレや水飲み場を備えた学校を作ってあげたいという想いがありますが、村そのものが貧困状態にあり難しい状況です。それでも人々は、「教育こそが未来を作る」と信じています。
わたしたちは、このゴール州で、アフガニスタンの子どもたちに学校を届けるマイルストーン・プロジェクトを立ち上げました。多くのチャレンジがある今だから、多くの課題があるこの土地で、今まさに混乱の中を生きる子どもたちの学びを支えたい、その想いからです。

事業予定地の風景。急峻な山々に囲まれています

支援対象校(予定)の女の子たち

既存の校舎がなく、地域の建物を間借りして学んでいます
マイルストーン・プロジェクトではこれまでも、イラクやシリアなどの紛争影響国を含めた国々で、学校の建設や修繕など行い、子どもたちが安全に、安心して学ぶことができる学習環境の整備を行ってきました。アフガニスタンは、政治的にも社会的にも多くの困難があり、日々の支援活動にも柔軟で忍耐強い対応が求められています。それでも、だからこそ、壁を乗り越え、アフガニスタンの子どもたちに、学校と学ぶ喜びを届けたい。遠い日本から、「みんなの健やかな成長と学びを願っているよ」というエールを届けたい。そのような想いで、現地スタッフとともに事業実施に向け準備をしています。
事業予定地は今、雪に覆われています。
雪がとけ、春が来る頃、この地で学校の建設が始まることを、子どもたちも、コミュニティの人たちも、心待ちにしています。

事業予定地の子どもたち
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この記事を書いた人

- 支援事業部 シニア・プログラム・コーディネーター
- 東京外国語大学外国語学部ペルシア語専攻を卒業後、一般企業勤務。その後英国、イースト・アングリア大学大学院教育開発コースで緊急期における教育などを学び卒業。2016年9月にワールド・ビジョン・ジャパン入団。ヨルダンにおけるシリア難民支援事業、アフガニスタンへの物資支援、WFP(国連世界食糧計画)の食料支援事業を経て、現在ヨルダン・イラクにおける教育支援・子どもの保護事業を担当。
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