【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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今、紛争下の子どもたちは ~シリア支援の現場から

9月21日は「国際平和デー」。すべての国、すべての人々にとって共通の理想である国際平和を記念、推進していく日として、国連によって制定されました。

しかし、現在の世界を見ると、紛争は終わるどころか、拡大・深刻化し、多くの人々が恐怖の中を生きています。そして、その中でも最も弱い立場に置かれているのが、子どもたちです。

現在ワールド・ビジョン・シリア危機対応事務所で働く渡邉裕子(わたなべひろこ)スタッフは、長きにわたり難民・避難民の子どもたちに寄り添ってきました。今回のブログでは、シリアでの支援活動の様子や渡邉スタッフの思いを、インタビュー形式でお届けします。

WVシリアのスタッフと筆者(右)

WVシリアのスタッフと筆者(右)

2011年3月に発生したシリア危機は500万人もの人々がシリアを後にし、700万人の人々が国内での避難生活を強いられるなど、少なくとも1,200万人の人々に影響を与えています。13年もの間、想像を絶するような劣悪な環境の中、一日一日を生き延びる、そういった生活を送っています。

渡邊スタッフは、2015年春から2019年夏まではヨルダン国内にいるシリア難民やヨルダン人の子どもたちの支援を、2019年8月からはシリア国内支援を担当しています。

この2019年は、特に紛争が激化した年でした。2019年12月だけでも100万人の人々が家を追われ、新たな避難を強いられる事態となりました。その後2020年3月には停戦合意が結ばれたものの、散発的な紛争が続いています。2023年2月にはトルコ・シリア大地震が発生。不安定な状況で暮らす人々が、さらにぜい弱な立場に追いやられています。

渡邉スタッフにこれまでの働き、シリアの状況、そしてこれからのシリアへの思いを聞きました。

給水の順番待ちをする国内避難民キャンプの子どもたち

給水の順番待ちをする国内避難民キャンプの子どもたち

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立ち止まる間もなく過ぎた10年、現場からのニーズに応え続けて

—入団して間もなく緊急人道支援のスタッフとしてヨルダンに派遣され、10年になろうとしています。なかなか平和は遠く歯がゆいですが、今、どんな風に感じていますか?

「正直、これだけ危機が長引くとは思っていませんでした。支援の必要はまだまだたくさんあり、できるだけ長く支援を続けることができたらいいなと思っています。今は世界のあちこちで危機が起こっているため他の地域や団体に移っていくスタッフも多く、10年経って残っている外国人スタッフは私だけです。でも、日本人である私が同じ事務所に長くいることが、現地のスタッフにとって『見捨てられていない、忘れられていない』という心の拠り所になるかもしれないと感じています」

— どんな10年でしたか?

「あっという間でしたね。特にシリア国内支援の担当になってからは、子どもたちを取り巻く状況がより厳しく危険も多いので、精一杯対応しているうちに一日が過ぎていく感じです。それだけ緊急性が高いということです。また2023年の地震発生時は、今まさに困っている人にどう支援できるか、そればかりを考える日々でした。シリア北西部では、建物が倒壊しても十分に重機があるわけではなく、わずかにあったとしても燃料が尽き、倒壊した建物の下に人がいることが分かっていても救助できない。あるいは隣国のトルコも被災していて道路が寸断していて救援物資が届かないなど…現場からたくさんの悲痛な声を聞きました。被害状況が伝わってくる中で、立ち止まる間もなく動き続けました

シリア北西部は1万軒の建物が全半壊しました。もともと紛争の影響で地震前から脆弱な状態にあった建物に、地震が追い打ちをかけました。

シリア北西部は1万軒の建物が全半壊しました。もともと紛争の影響で地震前から脆弱な状態にあった建物に、地震が追い打ちをかけました。

地震発生後の緊急支援で暖房用の燃料を配布しようとしているスタッフ

地震発生後の緊急支援で暖房用の燃料を配布しようとしているスタッフ

シリアの子どもたちの過酷な生活

— シリアの国内、人々はどのような暮らしをしていますか?

「2015年ごろからコロナ禍にかけて周辺国との国境が閉鎖され、それ以降国外に出ることが難しくなりました。国外に逃れたくてもそうできなかった人たちがいます。シリア国内で避難している国内避難民の数は約720万人と言われており、国外に逃れたシリア難民約500万人よりさらに数が多いのです。そうした国内避難民の方は北部に多く住んでいます。国内避難民の中には、凍死者が出るほど寒い冬を、国内避難民キャンプの中の非常に粗末なテントで過ごしている人たちもいます。日本の多くの方々は“キャンプ”に、自然の中でのレジャーなど、楽しいイメージを抱くと思います。でも、私は“キャンプ”という言葉を聞くと、悲しい気持ちになるんですよね。緊急人道支援者あるあるかもしれません。

シリアにいる人たちは紛争の悪化にも怯えながら過ごさなければなりません。そうなると学校は休校となり、子どもたちは家の周りで過ごさざるを得なくなります。近くで面倒を見られるおとなが十分にいない中で、これは子どもの保護の観点から大きなリスクとなります。特に震災後、少なくない数の子どもたちが、肉親や友達、親しい人を亡くしたり、離別を経験したりして、心理的な傷を負っています。人々が貧困状態に陥って物乞いをする姿や、女性や子どもへの暴力を目撃することも、子どもの心に深刻なダメージを与えています」

国内避難民キャンプの子どもたち

国内避難民キャンプの子どもたち

自分のテントの前に座る男性

自分のテントの前に座る男性

— 現在のシリアの教育事情について教えてください

「私が今見ているシリア北部では、そもそも学校に行っていない子どもたちが多くいます(* シリア北西部のイドリブ県では69%の子どもが不就学状態)。国内避難民の多い地域ですので、頻繁な移動を繰り返しているうちに勉強をあきらめてしまう。また移動した先に学校がないこと、学校が遠くて徒歩で通学できない、交通機関を使って通学するお金がない、学校への道のりが危険、紛争のため学習環境が整っていないといったことが理由です。

学校に通うことのできている子どもたちでも、安心して学校に通えているとは言えません。学校・教室数の不足、学校設備の不備、先生への給与未払い(*イドリブ県の教員の22%には給与が支払われていない)など、最低限の学習環境が担保できない状況にあります。現在支援しているシリア北部は、税金を徴収して公共サービスを行える状況ではないため、どの学校も資金不足です。ボランティアで教えている先生もいると聞いていますが、生活が成り立たないのではないでしょうか…。

現在行っているジャパン・プラットフォーム(JPF)の事業では、2校の学校を支援していますが、この2校については先生のお給料、子どもの文房具、水道光熱費などの管理費などをJPFからの助成金と、ワールド・ビジョン・ジャパンのご支援者の募金で賄っています」

屋根も壁もない校舎で学ぶ子どもたちと先生

屋根も壁もない校舎で学ぶ子どもたちと先生

— 学校設備の問題にはどういうものがありますか?

「まず、破壊や故障した後修理されずに放置され、使用できるトイレがない学校がたくさんあります。そのため、学校の外の草むらなどで済ませることがありますが、子どもにとってこれは不安を感じることです。女の子の場合は特に厳しく、そのような学校に通わせたくないと考える親も多く、教育を諦めてしまう原因になっています。女の子だけでなく、身体に障害を持つ子どもたちにとっても大きな問題です。石鹸や手洗い場などの衛生設備も不足しており、この地域では2022年以降慢性的にコレラが流行しています。

また、冬の寒さも本当に厳しいです。暖房用の燃料が不足していますし、教室は壁や窓が破壊されるなどして、ほとんど外と同じような状態です。子どもたちは寒さに震えて勉強どころではなくなります。そのため、学校の出席率は冬になると極端に下がってしまいます」

— 子どもたちにとって大切な学校が破壊される理由は何ですか?

「紛争で無差別に爆撃されることによって学校も破壊され、多くの校舎が修復できずに放置されています。実は学校を修復するのも一筋縄ではいきません。私たちワールド・ビジョンのような支援団体は学校を直し、子どもたちが通える場にしたいと思いますが、避難してきた方が住みかとして使用している場合もあります。話し合いを重ねて別の場所に移転してもらうことが必要です」

破壊された校舎(地震前に撮影)

破壊された校舎(地震前に撮影)

寒い冬、暖を取る人々

寒い冬、暖を取る人々

いつか平和が訪れたら・・・渡邉スタッフの夢

— 渡邉スタッフが考える教育の重要性とは何ですか?

「今学校にいる子どもたちが教育を続けられること、中断させないことを何より大切に考えています。一度学校教育が中断されてしまうと、学校に戻らなくなる可能性が高くなり、児童労働や児童婚のリスクが高まります。
スタッフが子どもたちにインタビューすると、みんな夢を語ってくれます。多くの子は「エンジニアになりたい」と言います。国の復興に役立ちたいと思うからです。それを支援してあげなければ復興の道が閉ざされてしまいます。
だから子どもたちを学校に行かせてあげたい。教育の機会のない子どもがいないようにしたい。先生への支援や、学校施設の補修への支援も本当に必要です」

— 渡邉スタッフ自身の夢はありますか?

「シリアの難民、国内避難民の人たちがいつか本当に故郷に帰れる状況になったときに、帰還を支援する働きがしたいです。故郷に帰った後の生活再建の支援もしたいと願っています。国内にとどまった人、他国から帰ってくる人、まだ帰れない人と、立場に様々な違いがあり、公平で適切な復興支援がなければ、平和が定着しない可能性もあります。私は2002年、アフガニスタンで支援を行ったことがありますが、その経験からも人々の不公平感が新たな紛争の種にならないように、十分留意をしながら課題に対応していかなければならないと感じています。息の長い支援が必要です。平和は一直線に訪れるわけではなく、良い状態と悪い状態を行ったり来たりしながらゆっくりと訪れるのかもしれません

かつてはアラブ文化の中心地で、美しく豊かだったシリア。いつかその姿を再び見ることができるように、私たちも現地の必要に応え、子どもたちが少しでも健やかに育つことができるような支援を届け続けていきたいと思います。

シリアの子どもたち

シリアの子どもたち

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ワールド・ビジョン・ジャパンは、難民・国内避難民の子どもたちの学びの環境の整備、教育の質の向上、心のケアなどの支援を行うために、【難民支援のための募金】へのご協力をお願いしています。

皆さまのご寄付で、厳しい避難生活の中でも子どもたちが学びを続け、未来の可能性を広げることができます。ご協力をお願いいたします。

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この記事を書いた人

渡邉 裕子ヨルダン駐在 プログラム・コーディネーター
大学卒業後、一般企業に勤務。その後大学院に進学し、修了後はNGOからアフガニスタンの国連児童基金(ユニセフ)への出向、在アフガニスタン日本大使館、国際協力機構(JICA)パキスタン事務所等で勤務。2014年11月にワールド・ビジョン・ジャパン入団。2015年3月からヨルダン駐在。
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