【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

Read Article

アフリカ・マラウイに寄り添い10年 牢屋のような妊産婦待機所を改善

南部アフリカに位置するマラウイは、ザンビア、モザンビーク、タンザニアなどと国境を接している。ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)は、この3年間は母子保健に重点を置き、2つの産科棟と4つの妊産婦待機所を建設するなどして、10年以上にわたってマラウイの人々に寄り添ってきた。また、水道や電気施設、医療設備の整備も行っている。

マラウイの子どもたち

マラウイの子どもたち

首都リロングウェから、かろうじて舗装された道を車で1時間ほど走ったところに、ンチシという町がある。中心部は比較的にぎわっていて、市場ではほこりでくすんだチテンジェ(アフリカの布)から肉や野菜、工具までが雑多に並ぶ。乗っていたランドクルーザーがにぎやかな通りを過ぎたらすぐに、赤土をならしただけの道に乗り上げた。道路には穴が開いていたり、岩が転がったりしている。傾斜のきつい坂を上り下りし、時には切り立った崖の上にある急カーブを曲がり、3時間くらいで小さな病院に到着した。

少なくなった水をためる女性

少なくなった水をためる女性

その村には長いこときちんとした産科棟がなく、衛生状態の非常に悪い、まるで牢屋(ろうや)のような妊産婦待機所しかなかった。WVは村の人たちと話し合って、きちんと整備され、消毒用アルコールのにおいが漂う産科棟を作った。「これなら、最低限、お産はできる」と、ホッと胸をなで下ろした。

2011~2015年までの統計では、マラウイで生まれた子どもの約6%は、5歳の誕生日を迎えられない。総人口は約1600万人といわれるが、妊産婦(妊娠中から、妊娠終了後満42日未満)が妊娠・出産に関連した病気で死亡する率は、10万人に対して510人。お隣のザンビアは280人、日本では6人である。

≪変革の主役は地元民…意識変化をサポート≫

マラウイのお母さんと赤ちゃん

マラウイのお母さんと赤ちゃん

マラウイでは、自宅で出産する傾向がある。出産所は遠く、女性は家の仕事が多く外出もままならないからという。自宅出産のリスクは非常に高い。いざというときに駆け込める病院もなければ、きれいな水やタオルもないからだ。そのため、産後病気になって亡くなるお母さんや、赤ちゃんが多い。保健施設の衛生状態が悪いこと、電気や水道がないこと、慢性的な医師・看護師不足も、病院でお産をしない大きな原因だ。

新しくできた施設の内部。清潔なベッドが並ぶ

新しくできた施設の内部。清潔なベッドが並ぶ

WVJの関わった保健施設の一つで、井戸から水を引いている場所がある。その施設の院長が、ここ数週間水が出ないと言う。話を聞いてみると、どうやら地元の有力者が、勝手にパイプをつなぎ変えて水を盗んでいるらしい。「子どもたちが生を受ける場所で、きれいな水がなかったらどうするの!」と私は院長にかみついた。すると「その有力者は魔術を使うから、報復されるのが怖くて話をしに行けない」と言う。村人も皆、その人を恐れているとのこと。「それじゃあ何も変わらない。呪うなら私を呪えばいいでしょう」と、パイプの辺りを掘り返して、実際につなぎ変えていることを確かめると、私はその「有力者」に直談判に行こうとした。

感情的になっていた私を引き留めてくれたのは、現地のスタッフだった。「部外者である私たち(WV)がその話をすれば水を返してくれるかもしれない。でもそれはたぶん、私たちが出ていったら元通りになってしまう。本当に必要な人に水を届けるには、コミュニティーが意識を変えて、立ち上がらなくてはいけない」

変革には、長い時間が必要だ。いつかこの地を去る私たちは、その変革の主役になってはならない。変革が起こり、それが続くようサポートするのだ。

妊産婦待機所でお昼を食べるお母さんたち

妊産婦待機所でお昼を食べるお母さんたち

結局、院長と保健局へ報告をし、話し合いを促し、定期的にフォローすることに落ち着いた。頭では分かっていたものの、自分は部外者であることを思い知らされた出来事だった。

アフリカで出会う赤ちゃんは、泣かない子が多い。お母さんの栄養状態が悪いのか、もともとそういう子どもなのか、その場で判別するのは難しい。でも、まるで生を受けた感触を確かめるように、小さな指や足を一生懸命動かしたり、差し出した私の指をギュッと握り締めたりする。どの赤ちゃんも、まっすぐに愛を受け取ろうとしている。どの赤ちゃんも、「生きたい」と強く語りかけてくる。その素直な欲求の力強さに感動するのと同時に、部外者である私に、彼らの重荷を軽くするお手伝いができるのかと、途方に暮れることも多い。

私には、事業を通して彼らの命のリボンの末端を引きのばすことしかできない。本当に微々たるサポートだが、でも、それを丁寧にやろうと思う。それがいつか、長い命のリボンを紡ぐきっかけになるかもしれないから。

※この記事はワールド・ビジョン・ジャパンの國吉スタッフが執筆し、2015年12月12日付SANKEI EXPRESS紙に掲載されたものです。

この記事を書いた人

國吉美紗プログラム・オフィサー
イギリス、マンチェスターメトロポリタン大学にて政治学部卒業。
大学在学中にWFP国連世界食糧計画にてインターン。
2010年9月より支援事業部 緊急人道支援課(旧 海外事業部 緊急人道支援課)ジュニア・プログラム・オフィサーとして勤務。2012年9月よりプログラム・オフィサーとして勤務。2016年7月退団。
趣味:読書、映画鑑賞、ダイビング
Return Top