今年2015年、日本は戦後70年を迎える。小さな日本が巨大な世界を相手に戦ったという事実を知る人は減り、歴史の1ページになっていくように感じる。かくいう私も、戦争はおろか戦後さえ知らない。ミャンマーで戦ったという祖父は、何度聞いても詳細を語らず、そのまま天国へ行ってしまった。
戦争や内戦には、そこに暮らす一人ひとりの犠牲がある。どうしようもない争いの波にのまれながら、人は困難にどう立ち向かったのか、ずっと知りたかった。人間の強さを確かめたかった。そして、それがかなうときは不意に訪れた。13年、出張で訪れたルワンダで、1994年のジェノサイド(大量虐殺)を生き延びた人の話を聞く機会を得たのだ。
アフリカ中部に位置するルワンダ。90年に顕在化したツチ族とフツ族の内乱は、94年には100日間で約80万人が命を落とすという史上まれに見るジェノサイドへと発展した。ワールド・ビジョン・ジャパンは95年から緊急支援を開始。2008年からは、教育や生計向上、保健衛生などの分野で、子どもを取り巻く環境を改善する長期的な支援活動を続けている。
その活動の一つに、「平和再構築」がある。ジェノサイドの加害者および被害者が、家を失った住民のために協力して家を建てたり、平和の歌に合わせてダンスをしたりという活動を通じて、地域で暮らす者同士の絆の再構築を試みている。
家族を殺した人が隣に住み、ともに生きなくてはいけない状況がどのようなものなのか。答えを想像するには、私はあまりに平和慣れし過ぎていた。
訪れたのは、5人の子どもを持つローズさんの家。ジェノサイドで夫を失い、子どもたちを連れて国外に逃げた。内乱が収まりルワンダに戻ると、家は知らない人に占拠され、一家はホームレスになった。知り合いの家や道端で暮らす日々。病気の子どもを病院に連れて行けず途方に暮れていた矢先、WVと出会い、住む場所を得たという。
「家があるだけでもうれしいけれど、水タンクからきれいな水が出てくるのでおなかを壊さずにすみます。以前はため池の水を飲むしかなかったから」
今は、農地を耕す仕事で現金収入を得ているローズさん。「子どもたちを学校に行かせられるようになったことが一番うれしい」と明るく話す。「ここに来て怖いことを思い出すことが減り、精神的に落ち着きました。たくさん働けるし、子どもに手をかけられるんです。(家があったり勉強できたりすることで)子どもたちの中にも、自信が出てきたように感じています」お母さんの言葉を裏付けるように、長女のアバテシちゃん(9)は「家があるって素晴らしい。友達がいるって幸せなのよ」と笑う。
とはいえ、周囲にはジェノサイドの加害者も住んでいる。ローズさんは、「私たちは調和して生きようとしています」と前を向く。また、両親と兄弟を殺された別の男性はこう言った。「過去に起きたことは変えられない。それに、加害者の方がきっと大変なんだ」。そういう目には、底なしの深い悲しみが宿り、自分の言葉を自身に言い聞かせているようにも見えた。皆、生きるために強くなる、という覚悟をした人たちなのだ。平和再構築の活動は、この地域の人々が前を向いて生きるために必要な活動なのだと、この時知った。
シリア、南スーダン、パレスチナ…今も、世界には争いが絶えない。日々、かつてのローズさんのような人が生まれ、住む家を失い不安な毎日を送るアバテシちゃんのような子どもが増えている。特にシリア難民は300万人を超え、食糧不足に加えて冬の厳しい寒さが追い打ちをかける。遠い外国の話かもしれないが、70年前の日本も似たような状況にあったに違いない。電車で隣に座るおばあさんは昔、アバテシちゃんだったかもしれないのだ。そう考えると、世界は近い。
アバテシちゃんに「将来の夢はある?」と聞くと、小さな声で「看護師さん」と答えてくれた。勉強を頑張っている彼女なら、いつかきっとその夢をかなえられると思った。世界中の子どもが将来に希望を持って生きてほしいと願っているし、大人の都合でそれを途絶えさせてはいけない。世界から争いが無くなることはないのかもしれない。けれど、そこに希望を捨てずに生きる人がいる限り、彼らの背中を押し、希望の光が消えないように支える人が必要だと感じている。その一端を、遠くて近い日本から担っていきたいと思っている。
(コミュニケーション課 市山志保)
※この記事はワールド・ビジョン・ジャパンの市山スタッフが執筆し、2015年1月7日付SANKEI EXPRESS紙に掲載されたものです。
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