【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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バングラデシュの女性スタッフと考える国際女性デー

3月8日は「国際女性デー(International Women’s Day)
1975年に国連により定められ、女性を取りまく経済的、政治的、社会的問題や権利・地位について考えると同時に、女性の働きや貢献を再認識する日です。

恥ずかしながら、これまであまり深く意識したことがなかった日ですが…、今年は偶然情報のレーダーに引っかかりました。カンボジアで担当した母子保健事業の経験、そして昨年7月から駐在員として赴任したバングラデシュの様子を見ながら、以前よりもそうしたメッセージを身近に感じるようになったのかもしれません。

事業地のあるコックスバザール中心部に昨年突然現れた「Gender Equality(男女平等)」のストリートアート

事業地のあるコックスバザール中心部に昨年突然現れた「Gender Equality(男女平等)」のストリートアート

バングラデシュはイスラム教の国として知られていますが、実はさまざまな宗教・民族が共存している豊かな多様性をもった国で、ワールド・ビジョンでもイスラム教、キリスト教、ヒンドゥー教、仏教と異なる宗教のスタッフがともに働いています。

また、勤務歴が長いシニア・スタッフと、近年変化著しい都市部で教育を受け育った若いスタッフとでは様々な意識の違いが見られ、当然ジェンダー観についても感度や理解の深さが異なる場合があります。

このようなダイナミズムの中で、ぼく自身も女性スタッフや事業地の女性・女子を取り巻く環境には特に注意を払うよう心がけています。

とはいえ、頭では分かっていても、外国から来た男性である自分が現地の状況をどこまで深く理解できているのか、どこまでケアできるのか/すべきか自信がないのが正直な気持ちです。。

ということで、国際女性デーを口実に、このたび事業チームに一人しかいない(!)*女性スタッフに直接話を聞いてみることにしました。

*ワールド・ビジョン・バングラデシュ全体では多くの女性スタッフが活躍していますが、事業地があるコックスバザール県(ラム郡)はミャンマー国境に近いため首都ダッカを含む中心部から遠く、生活面や日々フィールドへの移動が求められる等の職務上のチャレンジのため、女性スタッフが比較的少ない現状があります。

女性や女の子が羽を広げて輝ける社会・コミュニティへの願い

事業スタッフのMoumitaさんにインタビューする筆者

事業スタッフのMoumitaさんにインタビューする筆者

[以下、太字が筆者、その後ろがMoumitaさん]

3月8日は国際女性デーだけど、この日について聞いたことはある?
バングラデシュでも企業や団体がたびたび言及するから知っていたし、個人的にはこうした日があることは嬉しい。この日自体がすごく大きな影響を与えているかは分からないけど、人々が女性を取り巻く環境や問題について少しでも知る機会になるし、継続的にこうした日を記念して啓発することが重要だと思う。

Moumitaは2歳近い赤ちゃんを毎日オフィスに連れてきているよね。ママと仕事を両立することは大変?
今は共働きで、子どもを預けられる場所も他にないから職場に連れて来ているけど、始めの頃は毎朝CNG(バングラデシュの三輪タクシー)に自分の荷物と子どもを乗せてくるのが耐えられなくて、特に雨の日は泣いたこともあったかな…。少しでも仕事を楽にしたくて、子どもの面倒を見てくれる人を雇ってオフィスに来てもらっているけど、そのプロセスも自分で地道に良い人がいないか探さないといけなくて、うまくいかなくて正直途中で仕事自体を辞めたいと思う瞬間もあった。家族や周りの人の理解とサポートがあって今はだいぶ慣れたけど、そうしたサポートなしにはこういう働き方はできないと思う。私自身が実際に子育てを経験してみて、改めて子どもという一人の人間を育て上げることの尊さを、社会がもっと理解してくれれば、という思いもある。

そんなに大変だったなんて… 確かに個人や職場だけでなく、社会全体での理解向上が必要だよね。これまでコミュニティの中で女子、女性として生きながら感じた難しさはあった?
幸い家族は基本的に私の選択を尊重してくれたし、私自身も学校で学級委員をやったりして積極的な女の子だったから、大きな問題はそれほどなかったかな。でも、先生や周りの人たちが男女について違う役割とか期待を押しつけているのが気になって、色々質問したんだけど誰も納得いく答えをくれなくて、ストレスに思っていた。今思うと、みんな「そういうものだ」という考えから抜け出すのが難しかったんじゃないかな。

そんな環境で育って、前職は医者だと聞いたけど、女医として働くのはどうだった?
とてもやりがいを感じていたけど、心身ともに本当にしんどかった。私は外科医(手術を行う医師)を志望したんだけど、休みもほとんどなくて夜中まで働くこともあって女性がほとんど選ばない職種だったし、親や周囲からも医療関係の仕事の中でももっと楽な業務内容を選ぶように言われていた。実際、妊娠や出産でキャリアを諦める同僚もたくさんいたし、女性の外科医を快く思わない同僚もいて、職場でハラスメントのようなことを聞いたこともあった。それでも、女性や女の子の患者が多くいるのに医者は男性ばかりなのは問題だと思ったし、実際に居心地が悪そうだったり言うべきことが言えない女性患者も見ていたから、自分の役割が必要なんだと感じながら働いていた。

そこから産休を経て、ワールド・ビジョンで職場復帰することになったんだね。もう半年以上が経ったけど、ここでの仕事はどう?
ワールド・ビジョンに入って、医療の現場とはまた違って、地域に根付いたとても大切な働きができていて、嬉しく感じる。団体のビジョンと倫理観も自分に合っていて、これまで私自身が周りに伝えたいと思ってきたメッセージを発信する自信と機会を今の職場は与えてくれていると思う。正直、医者の時より給料は減ったけど、お金ではない学びと意義をたくさん得られていて、親や家族にもそう伝えて理解してもらっている。

それは聞けて良かった(笑)。普段フィールドに出ることも多いけど、事業地に住む女性や女子の生活環境を見て何か思うことはある?
事業地の女の子の中には、18歳なのにもう子どもが何人もいるケースもあって、彼女たちが人知れず受けているプレッシャーを考えるといつも胸が痛くなる。多くの女性や女の子たちが私たちの事業に興味を示してくれるし、新しいことを学んだり参加することがとても嬉しそうに見えるけど、同時に彼女たちの中にある目に見えないリミット(制約)もすごく感じる。たぶんコミュニティ内で女性として守ることが求められている、これ以上は進めないという範囲があったり、女の子の場合は親がそのうち自分が結婚することを期待しているのも分かっているだろうし、生理のような身体的な変化もあるし。羽を広げて飛び立ちたい気持ちがあるのに、それがどうしてもできなくて後ずさりしている女の子が多いように見えるかな。

それは本当に深い洞察だね…。うちの事業は地域の水衛生環境の改善を目指しているけど、女性・女子グループへの啓発や、学校での月経衛生対処(Menstrual Hygiene Management)に関する活動も含まれているよね。今後この事業がもっとジェンダー・インクルーシブな働きをしていくために、取り組んでいくべきことはあるかな?
さっき話したような問題を解決するために、男性を含めて、もっとコミュニティ全体でジェンダーに対する意識を変える取り組みが必要だと思う。適切な行動を形だけ普及するんじゃなくて、例えば女の子の月経衛生対処がその子の可能性、家族の未来、社会の変化・発展にとってなぜ大切か、そういうプロセスやビジョンをうまく示しながら啓発していけるといいんじゃないかな。完全な男女平等が可能かは分からないけど、結局は個人個人がお互いに対する共感(empathy)の気持ちを持てるかどうかが大切だと思うから、そういう部分でも良いメッセージを届けていきたい。そうして、女性や女の子たちが勇気づけらたら良いなと思っているし、私自身もこの仕事を通じてさらに成長して輝いていきたい。

事業スタッフ、事業地の女性ファシリテーター、啓発活動に参加した子どもたちと

事業スタッフ、事業地の女性ファシリテーター、啓発活動に参加した子どもたちと

一人ひとりの心に触れ、勇気と励ましを与える事業を目指して

気がつけば、インタビューは当初の予定に反して1時間半にもわたっていましたが、それほど彼女の考え方、洞察力、繊細さ、そして力強さに対する感嘆と学びの連続で、話を聞いて良かったと心から思いました。事業としてより良い質的インパクトを出すためにも、形だけのジェンダー的「何か」を含める以上に、コミュニティや住民の内なる部分により深い気づきを与えるような取り組みが必要なのだと。

そして何より、単なる活動実施や外面的な環境の変化を超えて、この事業を通じて一人ひとりの心に触れ、勇気と励ましを与えていきたいという頭にあったアイデアが、彼女の話を聞いてよりクリアな目標として見えてきたことも嬉しかった。プロジェクト・マネジャーとしては、やるべき仕事が増えた気もしますが、、、こういうスタッフが一緒働いてくれて喜んでチャレンジできることは、とても幸いなことだと感じます。

本当はこのブログで事業の活動にももっと触れるつもりでしたが、彼女の話だけでぼく自身もおなか(心)が一杯なので、それはまたの機会ということで…。

2024年、この事業が一人でも多くの人々、特にぜい弱な住民と子どもたちの心に触れられることを願いつつ。

事業チームと訪問した事業地の脆弱な世帯と

事業チームと訪問した事業地の脆弱な世帯と。
一緒に座り彼らのストーリーに耳を傾ける時間を持ちました。
帰りにフルーツとビスケットをもらい、その気持ちが本当に嬉しかった…。

この記事を書いた人

李 義真バングラデシュ駐在 プログラム・コーディネーター
大阪大学法学部卒、東京大学公共政策大学院CAMPUS Asiaプログラム修了。その後、約半年間の民間企業での勤務を経て、2018年10月にワールド・ビジョン・ジャパンに入団。2021年2月から2023年4月までカンボジア駐在。2023年7月からバングラデシュ駐在。
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