【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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あるNGO職員と紛争、そして10倍返し

テレビが最大の庶民の娯楽の時代に少年期を過ごした私にとって、何故か番組視聴率は日常生活の中で気になる数字なのである。最近の番組視聴率で話題になっているのは、ドラマ「半沢直樹」の〈10倍返しだ!〉という題名で放映された時の関東地区の視聴率が27.6%だったということだ。

国民的番組と言われる大晦日の「紅白歌合戦」の昨年の第一部の平均視聴率が、関東地区で33.2%であり、この数字と比較してもこのドラマの視聴率が驚異的だということが分かる。このドラマに多くの方々がひかれる理由は、“非道な上司の悪事に善良な部下たちが知恵と団結力で復讐し大恥をかかす爽快さ”であろう。

レバノンの難民キャンプにいる シリアの子どもたち

レバノンの難民キャンプにいる
シリアの子どもたち

“やられたら、やり返す”、“やられたら、倍返し”そして今度は、“やられたら、10倍返しだ!”と回を追うごとにドラマはエスカレートし、爽快さも増してくる。

ひょっとすると多くの視聴者が自分の所属する組織や人間関係の中で不条理な扱いに傷つきストレスを抱えている自身と重ねあわせているのかもしれない。

そこに連日の猛暑である。漆黒の夜空に打ち上げられる花火がごとく、一服の爽快感を求める気持ちも理解できる。 私こと、平和と和解を愛するNGO職員でさえ、巨悪に立ち向かう主人公の半沢直樹の信念に爽快感を覚えるのである。

南スーダンの子ども (手にもっているのは携帯型浄水器)

南スーダンの子ども
(手にもっているのは携帯型浄水器)

しかしこの爽快感は、大きな危険もはらんでいる。なぜならば、現実の世界の中では善と悪、正義と不正、誠実と不誠実等は単純明瞭には分けられない。特にこじれた人間関係では、多くの場合自分サイドが絶対的に善であり正義であり誠実であると我々は確信している。そこに、“やられたら10倍返し”の爽快精神を持ちこんだらどうなるだろうか。

極論すれば行き着くところは相手の命を奪うことになってしまうかもしれない。それがグループ間で起これば紛争になり、国家間で起これば戦争となってしまう。今、NGO職員として一番心を痛めていることが、紛争のもとで苦しむ子どもたちのことだ。

シリアでは、2年間の紛争で国民の約半数が、難民・避難民の状態あり、その大半は、子どもと女性である。彼等の多くは、日本の普通の小学生のように毎日家から学校にかよっていた。しかし、今は他国の中に小さなテントでその日暮らしの生活を強いられている。

ウガンダにあるコンゴ民主共和国からの避難民キャンプでの水配給の様子

ウガンダにあるコンゴ民主共和国からの避難民キャンプでの水配給の様子

日本ではニュースとしてあまり取り上げられないが、コンゴ民主共和国東部の紛争状況も改善されていない。そこでは兵士による略奪、暴行で多くの子どもたちや女性が犠牲となっている。

そしてソマリア、アフガニスタン、イラク、南スーダン等の国々では、未だに紛争が完全に収まったとは言えない。

紛争や戦争の原因は、様々であり複雑である。何が正しいかどちらが正しいかわからないことが多い。しかし、紛争の一番の犠牲者は、子どもや女性、そしてお年寄りといった一番弱い人々であるという事実は、どこの紛争でも共通している。紛争の根を断つためにも、子どもたちに、“やられたらやり返す”というような教育は行ってはならないと思う。ワールド・ビジョン・ジャパンでは、チャイルド・スポンサーシップにより紛争後の国々での長期に渡る開発事業の中で平和教育を行っている。

以上

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1日150円、ペットボトル1本分のお金で、今日も少しずつ幸せになっていく子どもたちがいます。
その幸せは、きっとあなたを幸せにする。
一緒に幸せになろうチャイルド・スポンサーシップ
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この記事を書いた人

高瀬一使徒
大学卒業後オーストラリア留学などを経て、青年海外協力隊に参加モロッコに2年間滞在。1989年にワールド・ビジョン・ジャパン入団。タイ駐在などを経て、1997年より支援事業部部長(旧 海外事業部)。現在までに訪れた国数約85カ国。4人の子どもの父親でもある。2014年3月退団。
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