【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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希望の光~エチオピアの「小さな命」に向き合う人びと

子どもの頃から慣れ親しんできたクリスマス・キャロルの歌詞の深い意味に、大人になってから気がつき、ハッとさせられる――そういうご経験をされる方は少なくないのではないでしょうか。

O Holy Night (さやかに星はきらめき)の英語の歌詞に「主が現れ、魂は自身の価値を知った」という言葉があります。私たちはただ、この世に生まれて喜びや悲しみを経験して死に、無に返るのではない。この命は愛なる神が与えてくださったもので、価値があり意味があるものなのだ。キリストの誕生により、人間の命には新しい意味と希望の光が与えられたのだ、ということを歌っているのでしょう。

主を待ち望む待降節(アドヴェント)になると、世界をお造りになった全知全能の神が人の助けなしには生きることができない、小さな赤ちゃんとしてこの世に来られた、という衝撃的な事実と神秘に毎年感動を覚えます。

ワールド・ビジョンに入団してから、私はお母さんと赤ちゃんの健康を守る事業に携わってきました。2016年から私は東アフリカのエチオピア連邦民主共和国での事業に携わっています。エチオピアで「小さな者たち」の命に向き合う人々をご紹介します。

保健センターの医療従事者と筆者

保健センターの医療従事者と筆者

エチオピアのお母さんを取り巻く事情

エチオピアは約1億1,207万人の人口を有し、80の民族からなる多民族国家です。聖書にも登場するほどの歴史の長い国です。独自の言語・文字、暦、時間、食文化をもつ、知れば知るほど奥深い国です。しかし度重なる干ばつやバッタの被害による慢性的な食糧不足、周辺国からの難民の流入などの影響を受け、一人当たりのGNI(国民総所得)は最貧国の水準にとどまっています。

エチオピアは国連や開発団体、政府の取り組みにより、この10年間で保健指数に大きな改善が見られたものの、いまだに妊産婦および新生児死亡率が高い国のひとつです。ユニセフの報告書「世界子供白書2019」によると、エチオピアの新生児死亡率(出生1000人あたりの新生児死亡数)は28、妊産婦死亡率(出生10万人あたりの妊産婦死亡数)は401に上ります。ちなみに、日本の新生児死亡率は1、妊産婦死亡率は5です。

新生児死亡や妊産婦死亡の原因の多くは適切な医療と予防対策で防ぐことが可能です。しかし医療施設の数や医療人材が不足している医療システムが未整備のサハラ以南のアフリカ地域では、赤ちゃんやお母さんが命を失う割合が高くなっています。

エチオピアでは、たとえ妊婦が保健施設での分娩を望んだとしても、それ自体が近隣にないため遠くの保健施設まで移動し、長期間滞在する必要があります。しかし出産予定前から産後までの滞在費を捻出することができないため、保健施設での出産を断念し、リスクの高い自宅分娩を選ばざるをえない家族も多いのが現状です。

事業地の住民から聞き取り調査をする筆者(手前左)

事業地の住民から聞き取り調査をする筆者(手前左)

人々の心に寄り添う宗教リーダーの存在

ワールド・ビジョンは、エチオピアにおいて医療システムの強化支援を行うとともに、地域住民の意識や行動変容のための啓発活動を行っています。その中でも重要な役を担っているのが、地域の宗教リーダーたちです。エチオピアは、人口の約44%がエチオピア正教徒、約31%がイスラム教徒、約23%はプロテスタントのキリスト教徒で、信仰を大切にする人が多い国です。

エチオピアの宗教リーダーは人々の生活に密接に関わる、地域の人々の心の支えとなっています。赤ちゃんの誕生を祝福する家族の喜びにも立ち会い、子どもや妊産婦の死という家族の悲しみにも寄り添います。

事業の一環で地域の宗教リーダーに対して、母子保健に関する啓発ワークショップを行う機会がありました。エチオピア正教の司祭、イスラム教のイマーム、プロテスタントの牧師の計35名が一堂に会したワークショップでは、数日間にわたり、地域の赤ちゃんとお母さんの健康をどのように改善するか、そして啓発メッセージをどのように地域に広げていくか、ということを話し合いました。

「赤ちゃんやお母さんの死亡原因の多くは防ぐことができ、そしてそのために自分も貢献できる」という事実は、宗教リーダーの方々にとっても朗報だったようです。「信仰は違っても『お母さんと赤ちゃんの健康の改善』という同じ目標に向かって協働することができるのは素晴らしいことだと思う」と一人のイマームが、ワークショップ後に感想を寄せてくださいました。

地域が本来もっている「良さ」

共同体意識の強いエチオピアは、「助け合い精神」が強い国民です。ワールド・ビジョンは、地域が本来もっている「良さ」をさらに強化し、応援するための支援を行っています。そして特に「最も小さき者」である子どもたちが、心身ともに健やかに生きることができる環境づくりを地域自身が目指していくように働きかけを行っています。

支援を開始して10年以上経つ地域では、遠くの村から来た妊婦さんたちが滞在する時のために、保健センターの近所の人たちが穀物や豆や油の寄付をするようになっています。保健センターの倉庫には、数名のお母さんたちがしばらく滞在するのにも十分な量の食糧が常に蓄えられています。また新型コロナ感染拡大の影響を受けて困窮した家庭のために、地域の人々がお金を出し合って母子家庭のためのシェルターを作り、食糧の支援を行っているそうです。

長年の支援の末、地域の人たちが、こうして自らの力で、率先して支え合っている姿を見る時ほどうれしいことはありません。

コミュニティから住居の提供を受けた母子

コミュニティから住居の提供を受けた母子

私が見た「希望の光」

最後に、ある小さな命に向き合った夫婦の話をご紹介したいと思います。

数年前、支援地域にある教会の前に、生後推定15日の一人の男の赤ちゃんが布にくるまれ、置き去りにされるという事件がありました。貧しい家族の苦渋の決断だったかもしれません。赤ちゃんの出自を特定できるものは何もなかったようです。

その子を見つけた女性はあわれに思い、夫を説得し、その赤ちゃんを引き取って、周りのサポートを受けながら自分たちの子どもとして育てています。この夫婦はワールド・ビジョンのプログラムにも参加したことがあるそうです。その子は「聖い(きよい)/祝福された」という意味の名前がつけられ、今も夫婦に大切に育てられています。

「闇の中を歩む民は、大いなる光を見/死の陰の地に住む者の上に、光が輝いた。あなたは深い喜びと/大きな楽しみをお与えになり/人々は御前に喜び祝った」(イザヤ9・1~2、新共同訳)

このような大きな愛を見る時、私はキリストが与えられた「希望の光」を見るような気がします。

新型コロナ感染拡大の影響で現地への出張が長期間できず、遠隔での事業管理を余儀なくされています。エチオピアは近年干ばつや政情不安もあり、心配事や困難は尽きません。現場で頑張る現地のチームと一緒に、どうしたらより良い事業ができるか、受益者とご支援者の期待に応えられるかを考えています。

「神は愛」であり、主は「我々と共におられる」――未来を見通すことはできなくても、不安の中にあっても「主のお言葉どおりになりますように」と、マリアのように信頼のうちに神様の招きに応えられるキリスト者になりたい、と祈る日々です。

*こちらの文章は、いのちのことば社が発行する雑誌「成長」No.176に掲載された記事を転載したものです


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この記事を書いた人

木戸梨紗
木戸梨紗プログラム・コーディネーター
上智大学比較文化学部卒業(専攻:社会学・文化人類学)。ロンドン大学公衆衛生学・熱帯医学大学院でMSc. Reproductive & Sexual Health Research修士を取得。
2010年1月 ワールド・ビジョン・ジャパン入団。2012年12月より2016年3月までベトナム、2016年4月から2018年3月までエチオピア駐在。専門領域は母子保健。
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