【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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イラク、モスルでの新規事業スタート! -事業スタッフの想い-

かつて美しい旧市街がシンボルだったイラク北部の街、モスル。
2014年以降、武装勢力の第2の拠点として支配され、その後の奪還作戦では激しい戦闘が繰り広げられました。街は壊滅的な打撃を受け、住民の約半数が家を追われました。逃げ出すこともできず、武装勢力により「人間の盾」として市内に留まることを余儀なくされた人も多くいます。

昨年12月に武装勢力の掃討作戦が完了し、勝利宣言がされて以降、他の地域へ避難していた住民の方々が続々とモスルへ帰還しています。しかし帰った先では、家や病院、学校が破壊され、郊外や市街地には地雷や不発弾の危険が散在。残存する武装勢力への脅威や不安定な政情、地域社会のつながりの喪失など、安心して過ごせる環境には程遠い状況です。

紛争の爪痕が残る街で、人々の生活が再開している

紛争の爪痕が残る街で、人々の生活が再開している

子どもたちの状況も、紛争中、避難中、避難先での生活、帰還とそれぞれの環境で受けた体や心の傷を十分に癒せる環境にありません。暴力を目の当たりにし、家族を失った子どもたちは日常を取り戻すことができないまま。紛争後のモスルがメディアで取り上げられることはずいぶん少なくなりましたが、住民、子どもたちは未だにたくさんの困難と闘い続けています。

そのモスルで、ジャパン・プラットフォーム(JPF)からの助成金と皆さまからの募金を受け、紛争の被害を受けた子どもたちへの支援事業をついに開始しました!この事業では、これまで入域の困難だった、被害が特に甚大なモスル市の西部で活動を行います。
「西部で始めることができて本当にうれしい!最も支援を必要としているのに、まだ届けられていなかったから」
事業開始を心待ちにしていた現地スタッフ、みんなやる気にみなぎっています!

スタートアップワークショップにて、事業スタッフと

スタートアップワークショップにて、事業スタッフと(右から3人目が筆者)

この事業のプロジェクト・オフィサーとして、子どもの保護支援を中心に担うルカイヤは、長年避難民キャンプでソーシャルワーカーとしてモスルやその他の地域から避難してきた子どもたちの支援を行ってきました。

中心メンバーの2人、右がルカイヤ

中心メンバーの2人、右がルカイヤ

親を亡くしたり、暴力を受けたり、武装勢力に関与したり、紛争を経験した子どもたちと向き合ってきた彼女は、この事業にかける特別な想いを持っています。

「避難民キャンプで働いているとき、モスルの西部から逃れてきた女の子が、お父さんが武装勢力に誘拐されたときのことを話してくれたの。『お父さんは目隠しをされて、怖い人たちに連れて行かれた。お父さんを私から奪っていこうとした。お父さんを悪い奴らから守るために叫ぼうとしたら、お母さんが私の口を手でふさいだの。だから叫ぶのをやめて、音をたてないようにじっとしてた』

キャンプに避難してからも、この女の子は怖い夢を見たり、理由もなく泣き出したり、とても苦しんでいた。心の底にある恐怖や悲しみを吐き出してほしくて、彼女に絵を描くようお願いしてみた。何枚も何枚も書かれた彼女の絵は、全てが破壊と暴力にあふれていて、彼女の心がいかに紛争に支配されてしまっているか一目瞭然だった

避難したばかりのころの女の子の絵

避難したばかりのころの女の子の絵

キャンプ内で、ルカイヤのケアや、レクリエーション活動、他の子どもたちと遊ぶことを通して、女の子は少しずつ日常を取り戻すことができました。「彼女の描く絵が、戦車から木に、流血や暴力から川や、鳥や、太陽へと変わっていく様子を見て、彼女が少しずつ、暴力や悪夢だけではない、別の未来を見つめて歩き始めていることを感じた」

変わり始めた女の子の絵

変わり始めた女の子の絵

「たくさんの子どもたちが帰り始めているけれど、戻った先で子どもたちがあらゆる困難と危険に対峙しなければいけないのがモスルの現状。みんなが生きるのに精いっぱいだし、紛争中に地域社会のつながりも失われた今、貧困や無関心によって子どもたちは守られることなく、犠牲となっている」

事業では、子どもたちへの個別支援に加え、地域社会による子どもの保護委員会を立ち上げ、地域社会全体で子どもを守り、必要な支援を届けることができるような仕組みづくりのサポートを行います。

一人でも多くの子どもたちが紛争の経験を乗り越え、未来を見つめて歩き出すことができるように、そして地域社会がもう一度つながりを築き平和を取り戻すことができるよう、熱い想いを持ったスタッフとともに、そしてご支援者の皆さまとともに、モスル復興に向けたパートナーとして、支援を届けていきたいと思います。温かいご支援のほど、よろしくお願いいたします!

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6月20日は世界難民の日
ワールド・ビジョン・ジャパンは、故郷を追われた人々への物資支援とともに、子どもたちへの補習授業による教育支援を行っています。
今、手を差し伸べることで、子どもの未来は変わります。難民支援のための募金にご協力ください

頼れる同僚と一緒にがんばります!(中央が筆者)

頼れる同僚と一緒にがんばります!(中央が筆者)

【イベント情報
・2018年7月25日(水)18:30~ 岩間スタッフがイラクでの新事業についてお話します!
場所:毎日メディアカフェ 東京メトロ東西線 竹橋駅直結 パレスサイドビル1階(地図)
詳細・申込はこちら

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この記事を書いた人

岩間 縁支援事業部 シニア・プログラム・コーディネーター
東京外国語大学外国語学部ペルシア語専攻を卒業後、一般企業勤務。その後英国、イースト・アングリア大学大学院教育開発コースで緊急期における教育などを学び卒業。2016年9月にワールド・ビジョン・ジャパン入団。ヨルダンにおけるシリア難民支援事業、アフガニスタンへの物資支援、WFP(国連世界食糧計画)の食料支援事業を経て、現在ヨルダン・イラクにおける教育支援・子どもの保護事業を担当。
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