ワールド・ビジョンに勤務し始めて2ヶ月が経ったところで初めての海外出張をすることになりました。
行き先はマレーシアとタイ。いずれも会議の出席が主目的でしたが、その合間をぬって担当するタイのチャイルド・スポンサーシップによる支援地域を訪問することができました。
最初の訪問先はタイとカンボジアの国境に接するタプラヤ地区。ちょうど事前調査を終えて、今年度から本格的な活動を始めようとしているところです。
私が担当するミャンマー、ラオス、カンボジア、タイはすべて内陸部分で他国と国境線を交えています。四方を海に囲まれた日本に住んでいると想像しにくいのですが、地続きの柵や小川の向こうは違う国という風景です。
タプラヤ地区に向かう途中にアラヤンプラテートという同じく国境に面した大きな町があります。早朝、この町の中にある国境検問所に連れて行ってもらいました。すると検問所を隔てたとなり町からたくさんのカンボジア人労働者が日雇い仕事のために歩いて来る場面に遭遇しました。反対にタイ側からは、制服を着た小学生とおぼしき子ども達がカンボジア側に歩いていきます。タイ側に定住してしまっていても、親の国籍がカンボジアの子どもたちはタイの学校には原則受け入れてもらえないからです。
地域や国境を越えて移動をする人々の中には望まない労働に従事させられたり、命の危険にさらされたりする危険性、いわゆる人身取引の問題が多く潜んでいる、と言われています。また、仕事を求めて大人が遠方に出かけることによって家族にとっても大きな負担が強いられていることをこの後、垣間見ることになりました。
タプラヤ地区は町から遠く、一見のどかな農村風景が広がっていますが、ここはカンボジアで内戦が起きた昔には、銃声が響き、国境には多くの地雷が埋められたところだそうです。
村を歩くと、いたるところで収穫期を迎えた田畑の人手として働くカンボジア人たちの姿を目にしました。地主たちは高い給与のタイ人よりは、安くても働いてくれるカンボジア人を好んで雇うということ。
現地の状況を良く知るために、子どもたちの通う学校と子どもの家庭を訪問しました。学校では、通ってくる子どもたちの内、半分以上の親が都市部へ出稼ぎに行っているという話を聞きました。では、残された子どもたちは誰と暮らしているのかと尋ねると、おじいちゃん、おばあちゃんに預けられている子どもがほとんど、とのことでした。でも、仕送りが途絶えがちだったり、そのまま音信が途絶えたりしてしまうケースもあるとのこと。
そんな子どもの一人ソンポーン君(仮名)も、年老いたおじいちゃん、おばあちゃんのところに預けられています。お父さんはタイ人、お母さんはカンボジア人ですが、ソンポーン君が生まれた後、二人は離婚。お母さんはそのままタイの町に仕事をすると言って出て行ったということです。お父さんは町に住んで、山で取れたキノコを売ったり、日雇い仕事をしたりして現金収入を得ています。村で安心して従事できる仕事があれば、家族がバラバラにならずに済んだのにと思ったのは私だけではないでしょう。
ソンポーン君たちと一緒に村の田んぼの端にある簡素な国境検問所を尋ねました。夕方、たくさんのカンボジア人が農作業を終えてカンボジア側に帰っていくところでした。
するとそこを通りかかったのがバイクに乗ったソンポーン君のお父さん。カンボジア側で仕事をして帰るところだったそうです。抱えあげられバイクに乗せられたソンポーン君のはにかんだ笑顔が印象的でした。
ソンポーン君のお父さんが出稼ぎに行かないでも、地域で十分な収入を得て安心して暮らせるような地域づくりをすることが、ワールド・ビジョンがこの地域で目指す活動のひとつです。
このチャレンジを私もしっかり応援しようと決意を新たにしました。
この記事を書いた人
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国立フィリピン大学社会福祉・地域開発学部大学院留学。
明治学院大学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士前期課程修了。
社会福祉専門学校の教員を経て、2000年1月より社団法人日本キリスト教海外医療協力会のダッカ事務所代表としてバングラデシュへ3年間派遣。
2004年12月から2007年3月までは国際協力機構(JICA)のインド事務所企画調査員。
2007年9月から2年半は、国際協力機構(JICA)のキルギス共和国障害者の社会進出促進プロジェクトで専門家として従事。
2010年9月、ワールド・ビジョン・ジャパン入団。
支援事業部 開発事業第2課 プログラム・オフィサー。
2020年3月、退団。
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