【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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砂漠でレモネードを売る

「いまどき、企業や団体がFacebookで発信して個人に何かを伝えようとするなんて、砂漠でレモネードを売るようなものよ」

バッサリ。

ワールド・ビジョンでデジタル・マーケティングを統括しているSarahさんとのオンライン・セッションでの一言だ。「Facebookを通して世界の子どもたちのことを伝えたい」と、日々の投稿を準備している担当者のワタシとしては、なかなか厳しい一言だった。

“Much needed but no people there to buy it.”
「砂漠という環境でとても求められているはずなのに、それを求める人に中々出会えない」
Sarahさんは、こう説明を加えてくれた。

そうなのだ。Facebookの投稿が表示されるアルゴリズムは数年前に変わってしまった。
元々が個人間のコミュニケーションを目的としているので、企業や法人が発信する投稿は表示されにくくなってしまったのだ。

ワールド・ビジョン・ジャパンのFacebookページには12万人を超える方が「いいね!」をしてくださっている。でも、投稿をして実際に表示されるのはその2パーセント、多くて4パーセント程度だと言われている。もちろん、「表示される」=「読んでもらえる」わけではない。

ある日のFacebook投稿。「たくさんの人に読んでもらえますように」と祈りながら、日々投稿しています

ある日のFacebook投稿。「たくさんの人に読んでもらえますように」と祈りながら日々投稿している

「情報“砂の一粒”時代」

Sarahさんの発言を聞いて、数年前に読んだ「砂」つながりの文章を思い出した。私が(勝手に)師匠とあおぐ「さとなお」さん(佐藤尚之さん)の著書*に書かれていたものだ。

「あなたが伝えたい情報はたった砂の一粒なのだ」
世の中には人が処理しきれないほどの膨大な情報があふれている。
2010年、世界に流れる情報量はゼタバイト(ZB)に突入。
1ゼタバイトとは、「世界中の砂浜の砂の数」だという。

* 『明日のプランニング 伝わらない時代の「伝わる」方法』 2015年 佐藤尚之

* 『明日のプランニング 伝わらない時代の「伝わる」方法』 2015年 佐藤尚之

そう。分かっている。
自分が「大切だ」「伝えたい」と思っていることも、人から見たら「あふれる情報のうちのひとつ」でしかない。どんなにこちらが発信しているつもりでも、ほぼスルーされ、「存在していない」も同じ。関心がない情報は、意識にさえ入ってこないのだ。

どうすれば、まず「目に留めて」もらえるのか。
どうすれば、「伝えたい」情報を、「伝わる」ように発信できるのか。

ワールド・ビジョン・ジャパンに入団した2006年以来、部署が変わってもずっと模索しているテーマだ。

目に留まるのは、身近な友だちの発信

テレビや新聞で企業が発信する情報を個人に届けられた時代から、インターネットやSNSの普及で個人が発信できる時代となった今、世の中に出回る情報量は激増した。その一方で、ひとりの人間が処理できる情報量はほとんど変わっていない。

ほとんどの情報をスルーする中で、目に留まるのは身近な友だちが発信している情報だ。

情報がありすぎる、選択肢が多すぎる中で、本当に自分に役立つ情報として信頼するのが、友だちの意見や体験談だ。「確かに・・・」と、心当たりがある方も多いのではないかと思う。

「この投稿をシェアいただくことも、大きな力になります」
これは、ワールド・ビジョン・ジャパンのFacebook投稿で時々いれる文章だ。

開発途上国とよばれる国で、厳しい貧困や紛争のなかを生きている子どもたちがいること。
その子どもたちのため、日本にいる私たちにできることがあること。
支援による変化を実感し、子どもたちの成長を見守ることができる喜びあること。

団体からの発信には目が留まらない方にも、友だちからのシェアによって目を留めてくださる方が、きっといる。そう願って、こうした一文を入れている。

ワールド・ビジョンは、厳しい環境で生きる子どもたちに支援を届けるため、「チャイルド・スポンサーシップ」という月々4500円の継続寄付に参加くださる方を通年で募集している。

日本では、約5万人の方がチャイルド・スポンサーとして協力してくださっている。
「ワールド・ビジョンのSNS投稿をお友だちにシェアしてください」
「ご自身がチャイルド・スポンサーとして支援をしている中で感じていることを、ぜひお友だちに伝えてください」とお願いをしている。

チャイルド・スポンサーの声

チャイルド・スポンサーの皆さまの声にスタッフも励まされています

「月々4,500円、年間で54,000円もの寄付を、友だちに勧めるのはちょっと…」

そのように感じる方も多いとは承知しつつ、それでも「勇気を出して、お友だちに紹介してみてほしい・・!」 と、私が思うようになった体験がある。

「シェアしてください」と頼んでいる、自分は?

ワールド・ビジョン・ジャパンでは、毎年11月1日から12月25日までを「クリスマスキャンペーン」期間として、チャイルド・スポンサーになってくださる方を大募集している。「クリスマスまでに」という期限を設定することによって、「いつかやろうかな…」と考えている方の背中をそっと後押しできれば、と願いを込めている。

数年前、クリスマスキャンペーン期間にFacebookで「シェア祭り」をしようという案が出た。特定の日時を「シェア祭り」と設定して、「クリスマスまでにあと●●人のチャイルド・スポンサーを募集中です! どうか、あなたもチャイルド・スポンサーになってください」という投稿のシェアをお願いする、というものだった。

当時の私は、ワールド・ビジョンの投稿を時々は自分でもシェアしていたものの、その内容はイベント告知や、災害時の緊急支援募金のご案内が中心だった。「チャイルド・スポンサーになってください」という内容の投稿のシェアは、ほとんどできていなかった。

チャイルド・スポンサーシップというプログラムの良さは理解しつつも、やはり自分の友だちに月々4500円の継続寄付への参加をお願いするのは、気が引けていたのだと思う。

私がFacebookで「友だち」としてつながっているのは、学生時代からの友人、会社員時代の同期や先輩、そしてワールド・ビジョンのスタッフとして出会ったご支援者の方々だ。

「シェア祭り」と称して、ワールド・ビジョンから「チャイルド・スポンサーになってください」という投稿のシェアをお願いしておきながら、自分がシェアをしないのは・・・ 「そりゃないよな」と、気が重いながらも覚悟を決めた。

思いがけない反応

不思議なもので、覚悟を決めると「シェア祭り」が始まるのも待たず、私はチャイルド・スポンサーシップというプログラムのこと、自分が支援地域に行ったときに感じたことなどを投稿しはじめた。これまでの投稿で「いいね」をつけてくれたことがない、思いがけない人からの「いいね」がついたり、ポジティブなコメントをもらったりと、なんだか「伝えたいことが伝わっている・・かも」という手ごたえが感じられた。

そして迎えた12月25日。高校時代からの友だちからLINEが届いた。
「チャイルド・スポンサー、申し込みしたよー! メリークリスマス!!」

12月25日の届いた友だちからのLINE

同じ日、別の友だちは申込フォームの自由記入欄に「與十田さんの書きこみを見て」と書いてチャイルド・スポンサーになってくれていた(同僚が見つけて、教えてくれた)。

「なんというクリスマス・プレゼント・・・」と、涙ぐんでしまった。

「どこの団体に寄付したらいいか分からなかったけど、前からこういう支援に興味あったんだよね」
「子どもの写真が届いて嬉しい。かわいいねー」

後日、それぞれの友だちから、こんな嬉しいコメントをもらった。
今でも、「このまえ新しい写真が届いたよ!」等、チャイルドの近況を教えてくれる。

「嬉しいビックリ」を体験してほしい

「シェアしてみたら、友だちから思いがけない反応があって嬉しかったです!」
「ううう・・・、嬉しい! そうなの!! その嬉しいビックリを、もっとみんなに体験してほしいの!」

これは、筆者と職場の同僚(後輩ちゃん)とのやりとりだ。

ワールド・ビジョンのスタッフでさえ、かつての私がそうだったように、シェアするのはハードルが高いと感じている。

「国際協力NGOで働いている人なんて、まだまだ珍しいんです!
きっと、皆さんのお友だちは、皆さんがどんな気持ちで働いているのかに興味があります!
短くていいので、ご自身のコメントつきでワールド・ビジョンのSNS投稿をシェアしてください!」

私の同僚は、「耳にタコができる」ほど、私からこんな「シェアしてください」アピールを受けている。

ワールド・ビジョンとしての発信を個人に届けようとするのは、「砂漠でレモネードを売るようなもの」かもしれない。でも、その発信を一人ひとりがシェアすることによって、結果はまったく違ってくる。

「砂漠でレモネードを売って、もし買ってくれる人と出会えたら、きっとその人は酸っぱいレモンと甘いハチミツで元気な笑顔になってくれるだろうな」

あまのじゃくな私は、確率は低くても、そんな笑顔に出会いたいなぁと淡い期待を胸に、今日もFacebook投稿の文面を考え続ける。

母校(都立国際高校)のそばにあるフレッシュネスバーガー1号店で買うレモネードがお気に入りの筆者

母校(都立国際高校)のそばにあるフレッシュネスバーガー1号店で買うレモネードがお気に入りの筆者

コミュニケーション課
與十田 喜絵(よそだ よしえ)

 

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この記事を書いた人

WVJ事務局
世界の子どもたちの健やかな成長を支えるために、東京の事務所では、皆さまからのお問合せに対応するコンタクトセンター、総務、経理、マーケティング、広報など、様々な仕事を担当するスタッフが働いています。
NGOの仕事の裏側って?やりがいはどんなところにあるの?嬉しいことは?大変なことは?スタッフのつぶやきを通してお伝えしていきます。
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