前回のブログに書いた結婚式に出席するために、シャルワルを作ってから私はすっかり、この美しい民族衣装の虜になってしまった。
ワウニアの町で見かける女性の大半は民族衣装を着ているが、それには大きく2種類ある。ひとつは日本でも有名なサリー、そしてもう一つがシャルワルだ。
サリーは南アジアの多くの国で女性が着用する民族衣装で、丈の短いブラウスとペチコートを身に付けた後、6メートルほどの長い布を体に巻きつけるように着用する。スリランカではシンハラ人もタミル人も着用し、役所の職員や学校の先生はたいていサリー姿で仕事をしている。大人の女性の正装なのだそうだ。
スリランカのサリーの着方は2種類ある。ひとつはインディアン・スタイルといい、正面の部分にプリーツを作る、上から下へ流れるようなシルエットが美しい、キリリとした着こなしだ。もうひとつはキャンディアン・スタイルという着方で、プリーツは作らず、代わりにウエストのラインにひらひらと花びらのようなフリルを作る華やかな着こなしだ。ワウニアで見かけるのはほぼ100%、インディアン・スタイルだ。
シャルワルの方は、正確には「シャルワール(サルワール)・カミーズ」というらしい。南アジアを中心とする国々で、男女ともに着用される民族衣装で、シャツを意味する「カミーズ」と、ズボンを意味する「シャルワール」の組み合わせだ。女性用はさらにストールが加わった3点セットである。スリランカでは女性しか着ていない。色使いやデザインが豊富で、素材もコットンからやわらかい化繊、レース素材、バティック、刺繍入りやスパンコール付きのものなど様々だ。大半はインドからの輸入品なのだそうだ。色やデザインの組み合わせの妙ときたら、ちょっとした芸術作品のようでうっとりしてしまう。
本来は未婚の若い女性が着るものらしいが、サリーより着こなしが楽で活動的なためか、割と幅広い年代の女性が着ている。このシャルワル、ゆったりしているように見えて実はかなり体にフィットさせて作ってある。ボタンもファスナーもなく、すっぽりかぶって着るようになっているのだが、脱ぎ着はかなり苦労する。閉所恐怖症の私は毎回軽くパニックを起こしそうになるほどである。
ワールド・ビジョンの女性職員もシャルワルを着ていることがほとんどなので、私も普段着用のシャルワルを作ってみることにした。既製品も売っているのだが、多くの人は素材を買って仕立屋で自分のサイズで作ってもらっているようだ。そのため腕のいい仕立屋はどこも繁盛している。
店ではちゃんと3点セットになった素材が売られていて、ワウニアでは普段着用のシンプルなコットンの素材3点セットはだいたい1000ルピー(約700円)くらい、刺繍が入っていたり、スパンコールがついていたりする、ちょっとおしゃれなものは1500ルピー(約1000円)くらいから売っている。これを仕立屋に持っていくと、裏地代250ルピー(約175円)、仕立代350~400ルピー(約250~280円)くらいで仕上げてくれる。
ワウニアの1カ月当たりの貧困線(一人が最低限の生活をするのに必要な所得)が約3400ルピー(約2400円)なので、決して安くはないのだが、布地屋や仕立屋は数も多く、いつもにぎわっている。生計支援を行っている村で、ミシンを受け取った方も、たいてい生活に困らないくらい注文が舞い込んでくるほど需要は多いのである。
貧しい国で人々がしばしば乏しい食費を削って、衣服を買うことが、その昔、私にはよく理解できなかった。そして好まれるのはたいてい、素材は粗悪でも一見華やかに見える「見栄えのいい」服なのだ。
しかし最近になって、ようやく私はその心情が分かるような気がしてきた。苦しい生活の中で、いや、生活が苦しければ苦しいほど、気持ちを明るくし、奮い立たせ、尊厳を保つための何かが必要なのだ。
食糧と水だけでは肉体を維持することはできても、単なる動物ではない人間の心を維持することはできない。どんなに生活が苦しくても、きちんとして見える身なりをすることで、自分は尊厳のある人間だとアピールすること。それは人間の健全なプライドであり、心の支えなのだ。
チャイルド・スポンサーになって下さっている方の中には、きれいに着飾ったチャイルドの写真を受け取って、本当に支援が必要な家庭の子どもなのだろうか?と当惑された方がいらっしゃるかもしれない。
しかしその服はまず間違いなく、その子の一張羅だ。たとえ普段はボロボロの服しか着せられなくても、親は可愛い我が子の最高の姿を見てもらいたいのだ。「恵まれない可哀想な子ども」ではなく、「貧しくても尊厳のある大切な一人の子ども」として見てもらいたいのだ。
さて初めてシャルワルを着て出勤した日、男性スタッフの反応は「おや?」、「あれ?」、「へえ」といった感じだったが、女性スタッフの方は劇的に普段と違った。いつもは挨拶しても遠慮がちに返事が返って来るだけの女性たちが、その日は自分から近づいてきて、ニッコリして「おはよう」と言ってくれたのだ。そして「素敵なシャルワルね」と。その日、私はまた少しスリランカ社会に近づけたような気がした。
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