朝5時15分。外はまだ暗い中、バーンと爆発音が川向うから聞こえた瞬間に、耳が張り裂けるような銃声が宿舎の外に響き、近づいてきた。あわてて同室のジンバブウェ人の同僚リリアンと床にうつぶせになり、非常持ち出し袋を抱え、銃声が鳴りやむのをただただ待った。
携帯無線機では、「緊急時集合場所に逃げろ」と呼びかけが何度もあったが、怖くて外に出れない。銃声は鳴り続けていたが、「逃げろ」という声が聞こえ、同僚と豪雨の中、転がるようにして、非常時の集合場所に走って行った。
これは、セキュリティ研修の実践演習の一コマ。
研修の目的は、自然災害や紛争など厳しい環境と隣り合わせで働くワールド・ビジョン職員の危機管理意識を高めるためのものだ。ワールド・ビジョン・南スーダン、コンゴ民主共和国、マリ、ソマリア、マラウィ、スワジランド、アメリカ、カナダ、スイス、日本などの事務所から39人が受講した。
研修では、銃撃戦、事故や自然災害など緊急時の応急手当(止血、骨折など)、手りゅう弾・地雷・不発弾などに遭遇時の注意点、人質や検問通過時に覚えておくべき基本的な交渉スキル、サバイバル・スキル(身近なもので作る飲み水の浄水法・集め方、コンパスの使い方、身近な道具を使っての火の起こし方)やストレスの対処法など多岐にわたる内容だ。
自分の肉体的にも精神的にも限界に挑戦する研修だった。
人道支援従事者が人質、事故、銃撃戦、自然災害など緊急事態に巻き込まれることはこれまでも多々あるため、危機管理意識を高めるためには、まず個人からということで、ワールド・ビジョン・ジャパンは緊急・復興の現場で働くスタッフはこの研修或いは国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の人道援助活動のための訓練センター「e(=emergency)-Centre」 が主催する同様の研修を受講している。
私は2009年2月23日に南スーダンのマラカルで銃撃戦、その後の緊急避難を経験した。2005年にセキュリティ研修を受講していたため、パニックにならず、冷静にワールド・ビジョン・スーダン事務所マラカル地域事務所スタッフの避難にあたることができた。
雨の中泥だらけになりながらの演習・座学を通して、緊急・復興支援を届けるためには、まず自分の安全管理意識を高めることが大切なんだと改めて感じた一週間だった。
この記事を書いた人
- 大学でスワヒリ語(東アフリカの言語)・アフリカ地域学を学んだ後、在ケニア日本大使館において在外公館派遣員として勤務。そこで、ストリートチルドレンへのボランティアを経験したことから、困難な状況にある子どもたちへの支援がライフワークに。留学、タンザニアでの協力隊を経て、2003年2月よりワールド・ビジョン・ジャパンに勤務。リベリア、スーダン、南スーダン駐在を経て、2010年5月より東京事務所勤務。現在、緊急人道支援課長。関西に住む3人のかわいい甥っ子・姪っ子たちの成長が元気の源。
このスタッフの最近の記事
- アフリカ2018年6月13日18歳、難民居住地で暮らす。将来の夢はジャーナリスト。
- アジア2017年12月15日テクノロジー×食糧支援 | WVのイノベーション
- 事務局2017年11月14日初めの一歩 〜チャイルドへの手紙〜
- 中東2017年5月29日難民・問題・イノベーション | シリア難民の教育現場から