私は出張で、再びエチオピアの南スーダン難民キャンプの学校を訪れた。生徒が一生懸命勉強している姿を見て少し感慨にふけってしまった。
2013年12月、南スーダン危機が起き、20万人を超える難民が隣国のエチオピアに避難した。
私が事前調査で現場を訪れたときは、1日1,000人単位で難民が流入していた。難民キャンプには学校はまったく無く、幼い子どもたちは土で泥団子を作ったり、金属ゴミで自作したおもちゃで遊んだりしていた。
そのすぐ傍には沼のような大きな水溜りがあり、誤って子どもが溺れてしまうのではないかと冷や冷やした。
10代の男の子たちは、やることがあまり無いのか、所在なさそうに難民キャンプをうろうろしていた。このような青少年は反政府勢力への勧誘の絶好のターゲットとなりうるため、早急の対応が必要であった。インタビューした5歳くらいの女の子は 「周りが知らない人ばかりで怖い…」 と不安そうだった。
家族とも離れ、コミュニティもばらばらになってしまい、慣れない新たな生活や将来に不安を抱える子どもたちも多かった。そのような中、コミュニティの人々の教育への期待は非常に大きかった。
「私の子どもは紛争のせいでずっと教育を受けられていない」
「こんな時だからこそ、将来のために子どもたちに教育を受けさせたい」
帰国後間もなく、ワールド・ビジョン・ジャパンが教育支援を実施することが決まった。学校づくりは何も無いところから始まった。
学校の予定地が決まったら、草むらを刈り取り、スペースを確保。
プラスチックシートやテントでできた仮の教室を建てた。机や椅子が手に入るまでは木片で簡易なベンチを作った。
仮校舎での学校運営は簡単なものではなかった。当初は生徒数に対して教室数がまったく足りず、1教室に100人以上も子どもがいることもあった。途中で勝手に立ちあがる子どもなど、様々な子どもに一人の教員だけが対応することが難しく、臨時で教員補佐を採用、1教室二人体制で授業を行なった。仮校舎は雨期には雨漏りがひどく、乾季には中が非常に暑くなる。午前・午後の二部制をとっていたが、午後の授業は暑さで休みがちな
生徒も出てきてしまった。強風で仮校舎が完全に倒壊してしまったこともあった。安全で涼しいコンクリート製の本校舎の建設を完成させることが急務だった。乾季で猛暑が続く中、建設現場に毎日足を運ぶ日々が続いた。
完成した本校舎の教室を、一つずつ回った。本校舎は教室数が十分あるため、1教室あたりの生徒数は当初に比べると大分減った。去年8年生だった生徒は、1人を除き全員が進級試験に合格した。ガンベラ州の学校の中でも2番目の成績だ。「もっと色んなことを知りたい」 という思いから、厳しい環境の中でも、学校に通い続けた子どもたちの頑張りが実を結んだ。今は中等教育である9年生課程に進学、勉学に励んでいる。
初めて難民キャンプを訪れたあの日に比べると、子どもたちの表情は明らかに明るくなっていた。
今は、支援対象の学校の教育環境を、エチオピアの教育省の水準まで整備することが目下の課題だ。
子どもたちの受けている教育のレベルが、エチオピアの教育省に認められ、公的に認証されなければいけないからだ。公的に認められるレベルになれば、将来的に政府が学校運営を引き継いでいくことができる。
支援の効果が将来にわたって長く続いていくためにも、先を見据えた支援が必要だ。
和平合意後も各地で武力衝突が続くなど、南スーダンは先行きがまだまだ不透明だ。
小さな学校だけれども、ここで教育を受けた子どもたちが、生まれて間もない国を平和に導く人材に育ってほしいと願っている。
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この記事を書いた人
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【経歴】
2010年、北海道大学法学部卒業。
2012年1月、英国のエセックス大学大学院(人権理論実践学)修了。在学中は札幌のNPO法人やガーナ、バングラデシュの人権関連NGOにてボランティア、インターンを経験。
2012年1月ワールド・ビジョン・ジャパン入団。支援事業部緊急人道支援課 プログラム・オフィサー。2014年8月より10カ月間、南スーダン難民支援事業担当駐在員としてエチオピア駐在。
【趣味】
音楽鑑賞、歌うこと、卓球
【好きな言葉】
ある舟は東に進み、またほかの舟は同じ風で西に進む。ゆくべき道を決めるのは疾風ではなく帆のかけ方である(『運命の風』E.W.ウィルコックス)
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