【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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教育は命を救う~世界難民の日によせて③~

「お母さんは南スーダンで亡くなったんだ。それでも、僕は学校に通い続けることにしたよ」
そう語るのはエチオピアの南スーダン難民キャンプに暮らす、18歳のチュオル君(仮名)。チュオル君は南スーダンの紛争から逃れるため、家族と離れ離れになって、1人で隣国のエチオピア国境に逃げてきた。難民キャンプでの一人暮らしを強いられる中、食糧の配給を受けとり、料理、洗濯などの家事を一人でこなし、簡易な露店を経営して生計を立てている。

意識啓発活動にてコミュニティが子どもを学校に通うように訴えかけている様子

意識啓発活動にてコミュニティが子どもを学校に通うように訴えかけている様子

チュオル君は、ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)がジャパン・プラットフォームの助成や皆さまからの募金を受けて開校した小学校の6年生の男の子である。チュオル君に出会ったのは、学校の出席率調査の時。出席率が良い生徒と話がしたくて、教員に紹介してもらったのが彼だった。なんと、彼は厳しい生活にもかかわらず、ほぼ毎日欠席せずに学校に通っているらしい。チュオル君は、学校に通い始めてしばらく経った後、母国の南スーダンで母親が亡くなったことを知った。その悲しみは、計り知れないものだった。母親のことを考えない日はないという。それでも、チュオル君は学校を休まなかった。理由を聞いてみると、こう答えた。

「学校に通えば、新しいことを知ることができて、社会に貢献できるようになるから。友達にも会えるしね」

風で倒壊した仮校舎で学ぶ子どもたち

風で倒壊した仮校舎で学ぶ子どもたち

「緊急支援」というと、紛争や災害の被災者に対してテントや水、食糧などを配給したり、緊急医療チームが被災者の治療に奔走したりするイメージが強いかもしれない。私も緊急人道支援に関わるようになる前はそうだった。

緊急支援は「Life-saving(命を救うため)」のためのものであり、命をかけて1分1秒を争うもの。そんなイメージが先行する中、「緊急期の教育」と聞くと違和感を持つ方もいらっしゃるのではないか。ところが、緊急人道支援の世界では、この「緊急期の教育」が見直され、ますます重要視されてきている。その重要な意義の一つが、子どもたちの「日常」を取り戻すことだ。

スポーツ・クラブの子どもたち

スポーツ・クラブの子どもたち

私は、そのことを身をもって思い知らされた。難民キャンプには、チュオル君と同じように家族や親戚、大切な友達を亡くした子どもたちが大勢いる。思春期の子どもたちや青年たちは、慣れないキャンプ生活を強いられる中、悲しみに暮れ、また母国のことを思いつつも何もできない無力感にフラストレーションを抱えている。

そのようなストレスや生活上の不満から、暴れまわったり、南スーダンに戻って紛争に加わる者もいるという。私も、酔っぱらった青年たちにひどい暴言を浴びせられたことがある。彼らはフラフラと私が乗っていた車に近づいてきて、ありったけの不満を叫んで去って行った。何を言ったかはよくわからなかったが、心の闇に直接触れ、でもどうすることもできない、やるせない気持ちになった。
教育は、その環境を変える大きなカギだ。

学校ができる。
学校に通うようになる。
学校に通えば、同じような境遇の子どもたちと一緒に、時を過ごすことができる。
友達や仲間ができる。
そこで、新しいことを学ぶことができる。
知識が増し、分からなかったことが分かるようになる。
自分も何かできる気がしてくる。
社会に貢献できるようになるかもしれない、という実感が自信を取り戻す。
前を向けるようになる。
悲しみに浸り、無力感に苦しむのではなく、友達や仲間と将来のために一緒に学ぶ、新たな「日常」ができる。

ある時、学校でスポーツ・クラブを設立した。クラブ活動のような課外活動も教育の重要な一面だ。
何もない草むらを刈り取って、グラウンドを整備し終えると、子どもたちは喜んで、準備体操のためにグランドを走り始めた。南スーダンではよくやる準備運動なのか、皆で手をぐるぐる動かしたり、手を叩いたりしながら、グラウンドを回った。夕日の中での、黄色い制服と子どもたちの笑顔が印象的だった。

チュオル君のように、紛争や災害を体験した子どもたちが人生(Life)を前向きに歩んでいけるようになるのであれば、緊急期の教育も「Life-saving」ではないだろうか。

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シリアや南スーダンで内戦により他国に逃れて難民となり、
教育の機会を奪われている子どもたちのために、
難民支援のための募金を受付けています。

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この記事を書いた人

村松良介支援事業部 緊急人道支援課 プログラム・オフィサー
【経歴】
2010年、北海道大学法学部卒業。
2012年1月、英国のエセックス大学大学院(人権理論実践学)修了。在学中は札幌のNPO法人やガーナ、バングラデシュの人権関連NGOにてボランティア、インターンを経験。
2012年1月ワールド・ビジョン・ジャパン入団。支援事業部緊急人道支援課 プログラム・オフィサー。2014年8月より10カ月間、南スーダン難民支援事業担当駐在員としてエチオピア駐在。

【趣味】
音楽鑑賞、歌うこと、卓球

【好きな言葉】
ある舟は東に進み、またほかの舟は同じ風で西に進む。ゆくべき道を決めるのは疾風ではなく帆のかけ方である(『運命の風』E.W.ウィルコックス)
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