【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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水をさがす|南スーダン

雨が降ると、とりあえず生活用水をためる ためにバケツを外に出す

雨が降ると、とりあえず生活用水をためる ためにバケツを外に出す

スリランカに駐在されている岡崎スタッフは「牛を探して」いらっしゃるが、私は今回の出張で「水を探す」ことになったので、そのことを書きたい。

今回出張で滞在したのは、南スーダンのジュバから北側に飛行機で1時間半ほどの、マラカルという街だったが、そこに1か月ほど滞在している中で、一番困ったのは水を手に入れることだった気がする。

マラカルに着いて、とりあえず宿泊先で、1週間分の水として渡されたのが1リットルの水6個入りのケースが2つ(生活用水は川の水をある程度ろ過したものを買っているが、飲み水は今のところ、ミネラルウォーターに頼っている)。日本だと1日2リットル飲むのもかなり大変な時があるが、乾燥しているマラカルでは気を付けないとすぐになくなってしまう量だ。案の定到着してから私は無計画に飲んでしまい、一週間が終わる週末には同僚の持っている水を「借りる」ことになってしまった。

ナイル川

ナイル川

とりあえず皆水は必要だ、ということで、週末は市場に水を探しに出かけた。

州都であるから、それなりの市場だったり、ホテルやレストランも点在しているのだけれども、何時間市場を探し回っても水が見つからない。紅茶の葉っぱやビスケットのような、口の中から水分をすべて奪ってしまうような物はあるけれども水はない。コーラ(のようなもの)や炭酸飲料を買うオプションは、後から余計のどが渇くため、危険を伴う行為である。

なぜマラカルでこんなに水が足りていないのか、とスタッフに聞くと、どうやら国境が閉じてから物資の量が絶望的に減少したことがそもそもの原因らしい。マラカルは位置的にスーダン側に近いため、ほとんどの物資をスーダンから調達してきた経緯がある。独立後に国境が閉鎖し、物資を手に入れられなくなって以来、人々は違うルート(エチオピアだったりジュバだったり)から物資を手に入れるようになったが、輸送コスト等考えると、物価は急激に上昇した。政府は急激なインフレを恐れて価格統制を行ったが、その価格があまりにも実際の仕入れ値より低いため、ニーズの高い水などは、業者が出し渋りをしているということらしい。

ナイル川の水。コミュニティの多くの人々が、このような水を飲んでいる

ナイル川の水。コミュニティの多くの人々が、このような水を飲んでいる

結局その日は、場末のレストランでケース売りしてくれるところを見つけた。
ところが、この「水さがしの旅」は当然毎週行われる巡礼で、厄介なのは、先週はこの場所で手に入れられた、と思って同じ場所に次の週行っても、もうないというケースが多いことだ。だから毎週、「市場を1時間以上巡って水を探して、ようやくケース売りをしてくれるレストランやお店を見つけて、耳を疑いたくなるような高値にブツブツ言いながらようやく帰途につく」、ということを繰り返すことになる。

一度、全く水が見つからないということがあった。その時、自分用に残っていた水は0.5リットルのボトルのみで、結局それで2日間過ごすことになったが、その時おそらく私は人生で初めて「水がないこと」を経験したんじゃないかなと思う。水がなくて必死な時の人間の心理は、見事なままに水のことしか考えていない。仕事より水、食べ物を食べると水を飲むから食べるのもどうしようか迷うし、水をどこなら手に入れられるか考えたり、就業時間が終わったらすぐに水がありそうなホテルに行こう、とか、とりあえず水のことしか考えていない。しばらくすると途中からイライラしはじめてきて、不安になってくる。このまま水が無かったら物凄く高いけどばら売りで必要なだけ買い占めてしまおうか、とりあえずジュバから持ってきてもらおうか、ライフストロー[1]を買って川の水を飲むか、とか考えたり、いろんなことに集中できなくなってきて、川の水をろ過する方法とか、真剣にインターネットで検索し始めたりする。結局私の「水が(ほとんど)ない経験」は2日で済んだが、水がないことがこんなにも辛いんだな、というのを身を持って学ばされた。

水を運ぶ南スーダンの子ども

水を運ぶ南スーダンの子ども

水がない体験を通して、事業地の人に本当に寄り添うってどういうことかなぁ、と改めて思わされた。私たちが支援をしている人々は、きれいで安全な飲み水が毎日ない人々だ。私は2日間だけでも相当辛いと思ったが、安全な水を手に入れるだけのお金と、手に入れるためのそれなりの方法は考え付くし、私が脱水症状に陥ることがないように、心配してくれて助けてくれる人々も(幸いなことに)いる。支援地では、それがない人々がほとんどだ。私の経験したことなんて、支援地の人の日常にしてみれば本当にたいしたことないのだが、明日水がないかもしれない、というのは本当に怖い。自分の命を脅かす恐怖だ。どうすれば、飲んでも下痢をしない水が手に入るのか分からない、手に入れることができない、というのが、支援地の人々の現状でもある。その時の人々の気持ちは、私のような者がおこがましくお伝えできるようなレベルの気持ちではないと思う。けれども今回水がなくなるかもしれない怖さを曲りなりとも知った者としては、今回のことはできる限りの支援を精一杯やろう、と背筋を正す、良い経験となったと受け止めている。


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[1] ストローのような形をしている携帯用浄水装置。主に緊急用に使われる。

この記事を書いた人

國吉美紗プログラム・オフィサー
イギリス、マンチェスターメトロポリタン大学にて政治学部卒業。
大学在学中にWFP国連世界食糧計画にてインターン。
2010年9月より支援事業部 緊急人道支援課(旧 海外事業部 緊急人道支援課)ジュニア・プログラム・オフィサーとして勤務。2012年9月よりプログラム・オフィサーとして勤務。2016年7月退団。
趣味:読書、映画鑑賞、ダイビング
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