8月。3年ぶりに訪れたカンボジアで、嬉しい出会いがあった。
ワールド・ビジョン・ジャパンは世界の子どもたちが置かれている状況を伝えるため、テレビのドキュメンタリー番組「世界の子どもの未来のために」を制作している。渡航制限でしばらく行けていなかった番組取材に、8月、ようやく行くことができた。
3年前に出会ったのは、厳しい貧困の中で精一杯生きている子どもたち。線路沿いのスラムに住んで、貝売りの仕事をする少女や、売れるゴミを探し、リアカーを引いて夜まで働く少年たちだった。
3年前出会った、市場の片隅で野菜を売る少女
中でも印象に残っているのは、市場の片隅で野菜を売っていた少女ソクナちゃん(当時10歳)だ。

ソクナちゃんと筆者(2019年)
人々が行き交う通路に野菜の入ったタライを置き、小さな八百屋を開いていた。椅子もなく、地べたにしゃがみこみ、買ってくれる人が現れるのを待つ。
市場に店をだすための「場所代」が払えないソクナちゃんは、警備員に見つかると追い出される。その目を逃れるように移動しながら、タライの野菜を売り切るまで働く。何時間座っていても、なかなか売れない日もある。そんな日はもちろん、学校には行けない。仕事に疲れ、少し遠い学校まで歩く体力すら残っていない日もある。
お母さんは別の場所で野菜を売って働いているが、育ち盛りのソクナちゃんや妹に十分な量の食料が買えない日も多い。娘たちがよく風邪をこじらせたり、お腹を壊したりして、寝込んでしまうことを心配しながらも、お母さんはどうすることもできなかった。
「時間があったら、どんなことをしてみたい?」
質問をしてもソクナちゃんは黙ったまま。ただ悲しげな表情だけを浮かべていた。
悲しげな表情の理由の一つは、大好きだったおばあちゃんが亡くなってしまったこと。
ソクナちゃんは、病気のおばあちゃんにマッサージしたり、身体を拭いたりして、毎日看病していた。優しかったおばあちゃんに、ずっと生きていてほしかった。病気の苦しさを、少しでも和らげてあげたかった。
「おばあちゃんみたいな病気の人を治してあげたいから、お医者さんになりたい」
ソクナちゃんが、ハッキリとした口調で答えてくれたのは、「将来の夢は?」と聞いた時だった。

「お医者さんになりたい」と将来の夢を教えてくれたソクナちゃん(2019年)
当時の様子を動画で見る
「ソクナちゃんの夢がかなうように」と祈りながらも、病気がちで学校も休みがちなソクナちゃんが、その夢をどうかなえるのか?と考えると、遥か彼方の夢のようにも思えてしまった。
3年で変わったこと。変わらないこと。
あれから3年。
13歳になったソクナちゃんの人生は大きく変わっていた。
毎日、野菜売りをしていた少女は、チャイルド・スポンサーシップの支援を受けて、毎日学校へ通えるようになっていた。病気がちで笑顔が少なかった姿は一変し、身長はお母さんに追いつくほど成長していた。
学校では、友達と楽しそうに笑っていた。
勉強を続けることで自信がつき、クラスで積極的に発言できるようにもなっていた。
もう一度聞いてみた。「将来の夢は?」
「お医者さんになりたい。おばあちゃんみたいな病気の人を治してあげたいの」
3年間持ち続けたソクナちゃんの、変わらない「夢」 それは、より確かな未来となって彼女の胸に生きつづけていた。

「お医者さんになりたい」と改めて夢を語ってくれたソクナちゃん(2022年)
変わりゆく世界の、確かな光
あれから3年。新型コロナによるパンデミックがあり、大きな紛争が始まり、世界は激変した。立ちはだかる問題が大きすぎて、自分にできることは何もないようにも思えてしまう。
でも。この変わりゆく世界の中で、私は一つ希望の光を見つけた気がした。
それは、少女が学校に通い続けられるようになった。ただそれだけかもしれない。
でもその変化は、彼女の変わらない「夢」を、あの頃より確実に現実に近づけていた。本当にいつか、彼女がお医者さんになって、おばあちゃんみたいな病気の人を治す日がくるかもしれない。
子どもたちの夢をひとつでも、現実に近づけること。それこそが、未来の地球のために私ができる“何か”だと信じている。
新規ファンドレイジング課 山下泉美
* * * * * *
「“何もかも”はできなくとも、“何か”はきっとできる」
ワールド・ビジョンでは、クリスマスまでに3000人のチャイルド・スポンサーを募集しています。
厳しい貧困で苦しむ子どもたちが、あなたの支援を待っています。
ソクナちゃんのように夢に近づく子どもが一人でも多く増え、希望の光が灯りますように。
【山下スタッフの過去ブログ】
・流行語に「SDGs」「ジェンダー平等」がノミネート。世界は「見たい未来」に向かっているの?
・「愛にできることはまだある」心ひき裂かれた日のこと
・テレビ取材の裏側 8歳に押し寄せる悲しいことを乗り越えて
・世界を変えた新型コロナ「三密」のスラムは今
・バングラデシュ スラムの少女 怖いと感じたら生きていけない
この記事を書いた人

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世界の子どもたちの健やかな成長を支えるために、東京の事務所では、皆さまからのお問合せに対応するコンタクトセンター、総務、経理、マーケティング、広報など、様々な仕事を担当するスタッフが働いています。
NGOの仕事の裏側って?やりがいはどんなところにあるの?嬉しいことは?大変なことは?スタッフのつぶやきを通してお伝えしていきます。
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