ベトナムのチャンエン地域開発プログラム(Area Programme、以下AP)が、2022年9月末に支援終了を迎えました。ワールド・ビジョンがチャイルド・スポンサーシップを通して、2007年から日本の皆さまにご支援いただいてきた地域です。
ベトナムに駐在中の私が終了直前の事業地を訪問し、地域の人々から話を聞いてくることができました。短い訪問でしたが、3つのインタビューを通して15年間の支援の成果を一部ご報告します。
チャイルドのフェンちゃん
私は現在中学生です。2010年に「チャイルド」としての登録を受け、それからワールド・ビジョンが実施する子どもたち向けの活動に参加するようになりました。
これまで色々な活動に参加してきましたが、一番印象に残っているのは数年前にこの郡の子どもクラブ代表10名に選ばれたことです。郡の外に行く機会もあまりないので、省レベルでの会合に参加できたのはとても良い経験でした。子どもクラブの活動は自分たちで毎月実施できていますし、今後も継続して皆で学びあう機会を持つことができると思います。
将来の夢は、今はまだ決まっていません。高校に進学予定なのでもうしばらくは勉強に集中して、自分のやりたいことを見つけたいと思っています。
これまで支援してくれたチャイルド・スポンサーの皆さま、ありがとうございます。皆さまの健康をお祈りしています。
母親のトゥーさん
ワールド・ビジョンの活動には開始当初から参加しており、生計向上グループや子どもクラブの管理委員会のメンバーをしています。
活動には、語り切れないほどたくさんの思い出があります。一番印象に残っているのは、2009~2018年まで参加していた栄養グループの活動です。開始当時はあまり料理が得意ではなかったのですが、活動を通して正しい食習慣や子どもに必要な栄養について多くのことを学びました。活動のひとつで栄養をテーマにしたコンテストが開催されて私は3位を取ったことがあります。でもあれは審査がちょっとおかしくて本当なら2位だったはずなんです!(笑) もう10年以上前のことですが、当時のメンバーとは今でも時々この話を蒸し返しては盛り上がっています。
ワールド・ビジョンの活動が終わってしまうのは寂しいですが、長年にわたりたくさんの活動を実施してくれたことに心から感謝しています。これからも、私たちで発展に向けた取り組みを続けていきたいと思っています。
生計向上グループのリーダー、マイさん
私がワールド・ビジョンの活動に初めて参加したのは2009年の栄養クラブの活動でした。当時の私は気が弱く、日々農作業をするだけの生活でした。でも栄養クラブのボランティアに選ばれてトレーニングを受けたことで新たな知識を学び、自分に自信が持てるようになりました。それからも色々なことを学びました。
主な農作物である米は、「SRI農法」という新しい農法を取り入れたことで病気が減り、収穫高が増えました。今は市販の薬剤などは使わず、バイオ肥料のみで農作物を育てています。殺虫剤はニンニク、唐辛子、生姜などを混ぜて作るため安全ですし、肥料は家畜の糞を活用するので村の衛生や臭いの問題の改善にも繋がっています。家畜は各世帯に鶏50羽の支給から始まりましたが、餌やりを自動化するなどの工夫を経て、数百〜千羽/世帯を育てられるようになりました。
新しい農法や家畜の育て方を取り入れるのは簡単ではありませんでした。グループで話合いを重ね、まず小規模で試してみたり他の地域の成功例を聞いたりしてその効果を確認しながら進めてきました。今、私たちの農畜産物はViet Gap(生産方法・質が政府の基準に達していることの認定)の商品として郡の中心部で販売しています。これも事業を通してバリューチェーンについて学び、グループの皆で努力を重ねた成果です。
この村の貧困世帯は100世帯のうち37世帯から2世帯に減って、栄養不良の子どももいなくなり、今では他の村の人々がこの村の取組みを視察に来るようになりました。今、私たちのグループはさらに条件の厳しい国レベルの商品認定を受けることを目指し、ビジネスプランを立てて取り組んでいます。
(※マイさんがこの認定制度の詳細を説明してくれたものの、高度な知識を要するようで私には難しすぎました…)
チャイルド・スポンサーの皆さま、これまでの支援に感謝しています。この事業は私たち、特に子どもたちの生活に大きな変革をもたらしてくれました。長年一緒に歩んできたワールド・ビジョンのスタッフのことも一生忘れません。ワールド・ビジョンとのお別れは寂しいですが、私たちは地域のさらなる発展に向けて自分たちで目標を立てて取り組んでいくことができるようになったので、もう大丈夫です。どうか、ベトナムの他の地域の子どもたちにもこの経験を届けてください。
村長のタムさん
ワールド・ビジョンによるAPの活動が始まった直後の2008年、大きな洪水が発生して地域の90%が浸水しました。その時に米などの食糧を支援してくれたのが、ワールド・ビジョンの支援の始まりだと私は記憶しています。
支援開始当時は地域の問題について話し合うこともままならない状態でした。会議は行われていましたが、順番にスピーチを読み上げるだけで解決に向けた議論の仕方が分からなかったのです。そのため、APの初期はボランティアや地域の代表者に対する能力強化トレーニングが多く行われ、地域の課題の把握やファシリテーションスキルの習得などに取り組みました。私が地域のボランティアとしてAPの活動に参加するようになったのもこの時です。
APの最後のフェーズに入る時(2018年)には、この地域は本当に大きく変わっていました。教員への能力強化トレーニングの結果、優秀な成績を修めた生徒は3割から7割に増えました。保護者が子育てと保健栄養の知識を身に着けたことで栄養不良児の割合は大幅に削減し、生計向上の活動を通して世帯の収入源が多様化して家計も改善しました。農畜産業や貯蓄にまつわる活動は、すでにAPに頼らず実施できるようになっていたことを私は誇りに思います。また、課題の特定と解決に向けた計画の立て方や防災、子どもの事故・ケガ予防、障害を持つ子どもへの支援などの取り組みを続けてきました。2018年にこの地域でまた大きな洪水が発生しましたが、事前の備えがあり避難もできたため、2008年に比べると被害を大幅に抑えることができました。
最後のフェーズ中に行われた選挙では、地域の代表者にAPのボランティアが多く当選しました。私もその一人で、今は村長を務めています。効果的な話し合いの仕方すら分からなかった私たちですが、事業を通して学んだ知識が活動だけではなく地域の議会や集会でもこれから活かされていくはずです。
これまでに習得したスキルやこれまで成し遂げてきたことから、私はこの地域の未来は明るいと自信をもって言うことができます。私たちが経験したワールド・ビジョンの働きが、ベトナムの他の地域… いや、ベトナムに限らず世界中のぜい弱な子どもたちのもとに届くことを願っています。
インタビューを終えて
私がチャイルド・スポンサーシップによる支援終了のタイミングで事業地を訪れるのは、実はこれで2回目です(前回はバングラデシュ)。実施期間の長いAPの終了は、スタッフ・地域の人々のどちらにとっても簡単なものではありませんが、特に今回は本当に終了数日前というタイミングだったため、とてもセンチメンタルな訪問となりました。地域・グループを代表して成果を報告してくれたマイさん・タムさんは終盤に向けて涙ながらの発表となり、現地スタッフはもちろん、初めて事業地を訪れた私も思わずもらい泣きしてしまいそうでした…。
APに限らず、支援事業では終了が近づくと成果の持続性について考える必要があります。毎度簡単な課題ではありませんが、今回話を聞く中で「次に目指すべき目標も、それに向けた取り組みとその方法も自分たちで考えて実行できているから、私たちはもう大丈夫」という心強いメッセージがしっかり伝わってきたことはとても頼もしく嬉しいことでした。また「自分たちが学んだこと・経験したことを、国内外の支援を必要としている子どもたちに届けてほしい」という願いを聞いて、喜びと同時に身の引き締まる思いがしました。
チャンエンの人々とはこれでお別れとなりますが、彼女たちの言葉と思いをワールド・ビジョンの今後の働きを通して生かし続けていくことができたらと思います。
改めまして、チャンエン地域をご支援くださったスポンサーの皆さま、また他の地域・国でも同じように地域の変革に向けた取り組みを応援くださっている皆さまに、私からも心から感謝申し上げます。
関連リンク
・チャイルド・スポンサーシップとは
・ベトナム、チャンエン地域が支援卒業を迎えました(2022.10.7)
・チャンエン地域開発プログラム終了報告書(PDF)
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この記事を書いた人
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大学では国際政治経済を学び、卒業後英国ブラッドフォード大学で平和学修士課程を修了。その間NGOでのインターンを経験。
2017年4月にワールド・ビジョン・ジャパンに入団。2022年4月からベトナム駐在、その後2023年5月からラオス駐在。
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