【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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アンドリュー ― ワールド・ビジョンCEOの横顔

[前回ブログからの続き] ワールド・ビジョン(WV)のCEO、アンドリュー・モーリーが来日した。3日間全日程に同行したので、結果的にウチのCEOの生態?を観察することになった。私の記憶に強く残った「世界100カ国、34,000人のスタッフを束ねる国際NGOのCEOの横顔」を(公表差支えない範囲で)ご紹介したい。

1.じっとしていない

アンドリューの3日間は、日本到着翌日の朝、夫婦で皇居の周りをWVJスタッフ有志とご支援者と走ることから始まった。

海外の同僚からは、「公式日程の初っ端からCEOを走らせるオフィスは100か国の中でもジャパンが初めてだ」と驚かれたが、アンドリューもヴァネッサも5キロをなんということなく、想定タイムをかなり下回って走り切った。その間、スタッフから「33の質問」をされながら(注:一番好きな映画は?好きなジャンクフードは?といった簡潔シンプルな質問をして、ニンゲン的側面をあぶりだそうとする試み)。

質問に答えながら皇居を走るアンドリュー(撮影スタッフ、必死の形相!)

質問に答えながら皇居を走るアンドリュー(撮影スタッフ、必死の形相!)

33の質問をしたうち、10の質問に答えている動画をご紹介します ↓ ↓

これを皮切りに3日間、かなりビッチリ詰まったハードスケジュールだったのに(入れたのは私だが)、一度も「疲れた」という言葉を聞かなかった。それどころか、移動の合間も、日本に関することの質問、次の予定の確認、スマホで仕事のメール/チャット、などなど。とにかくじっとしていない。タクシーより電車か徒歩を好み、電車が満員でスマホがいじれないと、日本語ひらがなで唯一覚えた(なぜか)「し」を、中吊りや動画広告の中に見つけようと目を凝らし、見つけると「あった、『し』!(That’s “Shi”!)」と喜んでいた。上述「33の質問」で「あなたの一番個性的なところは?」と聞かれたとき、隣にいたヴァネッサが「止まらないこと (never stop)」と言っていたのでいつもこんな感じなのだろう。

とにかく、エネルギッシュ。けれど人と会うときは、相手やその場の状況や雰囲気に合わせて、ゆるやかなスローモードになったり、ちゃきちゃきと会話ペースを上げたりと、対話のギアを自在に操れる人なのだなと感嘆した。

対話のギアを自在に操りながら語るアンドリュー

対話のギアを自在に操りながら語るアンドリュー

そんなアンドリューが話していたことで印象に残ったのは、スタッフが「忙しい時間をどうやりくりしていますか」と聞いたときの答えの一部。「忙しい時は、新しい役割や仕事を断りたくなるよね。たとえば◎◎委員会のメンバーになってくれとか、こういう取り組みを始めたいとか。そういう時、自分はなるべく断らないようにしている。新しい仕事や役割は、自分に成長するチャンスをくれるから」
耳が痛い。

2.「希望」を信じている

アンドリューは仕事柄、文字通り世界を飛び回っている。

ほとんどは貧困や紛争に苦しむ国や地域が行き先である。そしてそこで最も厳しい状況にある弱い立場に置かれた子どもたちや人々に会い、話を聞く。現実のものと思えないほどの惨状も目の当たりにする。

ただアンドリューは、その現実の中に小さな希望を見つける。難民キャンプの子どもたちが一番望んでいる「平和と安全」を少しずつでも届けられているという希望。父親を早くに失くし貧困に苦しむ家庭で育った少女が、教育を受け、裁縫を身に着け、ミシンの支援を得て独り立ちできた希望。

アンドリューは言う。「WVがどんなに頑張っても、紛争や貧困が繰り返され、徒労感を覚えたときは、これらの希望を思い出してほしい。そして、これまでに会った一番弱い立場に置かれた子どもを思いうかべ、その子のために前に進んでほしい。その一歩がかならず希望につながるから」

カンボジアの支援地域にある小学校を訪問したアンドリュー

カンボジアの支援地域にある小学校を訪問したアンドリュー

3.ありがとう

アンドリューが最初にジャパンのスタッフに放った言葉は「ありがとう」だった。

WVは世界で最大級の国際NGOだが、というか、だからこそ課題も難しさもそこそこ、というか結構たくさんである。失敗も、足りないところも多々ある。全体を取り仕切り、その責任を負うCEOとしては、「ジャパンにはもっとこの辺がんばってほしい」とか「このくらいはできるだろう」などの期待?注文?が当然あると思う。CEOのスピーチの腕の見せ所は、いかにそこに向かって私を始めスタッフをモチベートするかだろうと思い、「あなたならできる」とか「これぞ使命だ」とか「ビジョンに向かって一緒に走ろう」とか、そういう系の言葉が並ぶことを予想していたのだが。

実は前回ブログで書いたタウンホールの前、初めてスタッフ全員の前に姿を現したアンドリューが何度も口にしたのは、「皆さん一人ひとりが子どもたちに希望を届けています。現場にいなくて手応えが感じられないこともあるかもしれません。でも皆さん一人ひとりの働きがなければ、WVが現場でしている働きはひとつもできないことを覚えていてほしい。子どもたちに、夢を、希望を与えてくれて本当にありがとう 」、という言葉だった。

タウンホールでも、最後の締めの言葉は、前回ブログでご紹介した以下の言葉だった。

「いろいろなほかの選択肢がある中で、この働きを選んでくれていることを感謝しています。タフな市場である日本で活動するのは、簡単ではないと思います。こうして伝えている感謝は、私だけからのものではありません。あなたが仕えている子どもたちからの感謝でもあるのです」

アンドリューの言葉に耳を傾けるWVJスタッフ

アンドリューの言葉に耳を傾けるWVJスタッフ

確かに、私たちの活動は、ご支援者の方々に、途上国のコミュニティの人々や子どもたちに支えられている。でも、そこにはスタッフの、時に献身的で誠実な、あるいは情熱的なココロモチとプロフェッショナリズムも厳然とある。これがすべて合わさって初めて、トータルとして、厳しい現実の中に希望の種をまくことができることを改めて気づかされた。そして、素直にスタッフに「ありがとう」と言えるCEOはステキだ。そんなCEOが世の中にどれくらいいるのだろうか。

新しいロールモデルを見つけたような、刺激的で楽しい3日間だった。

皇居ランのスタート前にあいさつするアンドリュー(左端が筆者)

皇居ランのスタート前にあいさつするアンドリュー(左端が筆者)

関連リンク
アンドリュー・モーリー来日時の報告ページ
アンドリュー・モーリーのブログ 忘れることのない「名前」

この記事を書いた人

木内 真理子WVJ理事・事務局長
青山学院大学を卒業後、国際協力銀行(JBIC)前身のOECFに入社。途中英国LSE(社会政策学)、オックスフォード大(開発経済学)での修士号取得をはさみ、アフリカ、インドネシア、フィリピンにおいて円借款業務を担当。母になったことを契機に転職。東京大学にて気候変動、環境、貧困など21世紀の課題に対応するSustainability Scienceの研究教育拠点形成に従事。「現場に戻ろう」をキーワードに08年10月よりWVJに勤務。アフリカ、中南米、ウズベキスタンを担当。2011年5月より、東日本緊急復興支援部長。2013年4月より副事務局長。2017年4月より事務局長。2020年4月より現職。青山学院大学非常勤講師、JICA 事業評価外部有識者委員、JANIC理事、日本NPOセンター副代表理事
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