【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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バングラデシュ スラムの少女 怖いと感じたら生きていけない

インドと国境を接するバングラデシュ。世界で最も貧しい国の一つといわれる。この夏、私は厳しい環境の中で生きる子どもたちの生活を追ったテレビ番組の取材のために、バングラデシュを訪れた。

唯一の肉親であるおばあちゃんと

唯一の肉親であるおばあちゃんと

首都ダッカのスラムで、ひとりの少女に出会った。名前はモスミ、10歳。年老いた祖母と2人暮らしだ。笑顔がかわいい人懐っこい少女だ。彼女は毎日、1人で歩いて約30分かけてゴミ山へ行く。売れるものを探し、それを売って食べものを買うためだ。車道には大型バスや乗用車が行き交い、その間をバイクと自転車が縫うように走る。交通ルールもないような道を、小さな少女がたった1人でしかも裸足で歩いていくというだけでも心が痛んだ。

1人で怖くない?」 首をふって「ナー(いいえ)」と、モスミは答える。 ゴミ山に到着し、心が張り裂けそうになった。嗅いだことのない強烈な腐敗臭が立ちこめ、大きな水たまりにはポコポコと奇妙な泡が湧き、正体不明のガスが発生している。車で到着した私は、外に出るのを一瞬ためらった。長靴を履いた足にさえ、何か害が及ぶのではないかとの恐怖が襲ったのだ。

裸足の足には傷が絶えない

裸足の足には傷が絶えない

この場所には、残飯から動物の死骸、鋭いガラス片などダッカ市内のすべてのゴミが運ばれてくる。小さな足が傷つくのも日常茶飯事で、この日もモスミは足を切り、血を流していた。傷からの感染症がもとで命を落とす子どもも多いという。大人の男たちが我先にと売れるゴミを探す脇で、何十台ものショベルカーが同時に作業している。「巻き込まれる人も多い。でも、ここでは誰もそんなこと気にしない」 ゴミ山で働く人は「汚い仕事をする者」として差別される。弱い立場におかれた女性や子どもが、ここで暴行や誘拐などの犠牲になることも少なくない。そんな危険な場所で、モスミは毎日1人で働いている。本当に1人で怖くないのだろうか。いや。怖いと感じてしまったら、ここで生きられないのかもしれない。

 

ゴミ山で立ち尽くすモスミ

ゴミ山で立ち尽くすモスミ

≪たとえ小さくても確かな光を届ける≫ ゴミ山で誰かにひどく扱われないか、裸足の足は大丈夫か、彼女の命の危うさを心配しながら、自分だけ快適なホテルに戻ることを後ろめたく感じた。「とにかく、生き延びて」。祈るような気持ちで、眠れぬ夜を過ごした。 「ドンノバート」

お母さんのネックレスを見せてくれた。お母さんは貧しさに耐えかねて出て行ってしまった

お母さんのネックレスを見せてくれた。お母さんは貧しさに耐えかねて出て行ってしまった

4日間の取材が終わり、モスミとのお別れが近づく。ドンノバートとは、ベンガル語で「ありがとう」の意味だ。別れの時、私たちはお互いに何度もこの言葉をかけあった。それ以外の言葉が見つからなかった。 帰国後、数カ月たってもこの時のことを思い出すと無力感にさいなまれる。ワールド・ビジョンはスラムで継続的な支援を行っている。しかし、成果が目に見えるようになるには時間がかかる。

モスミが通う教育センター。皆、ここでは子どもの顔に戻る

モスミが通う教育センター。皆、ここでは子どもの顔に戻る

モスミはチャイルド・スポンサーシップの支援によって、「教育センター」に通えるようになった。センターでは、学校に通うことができないスラムの子どもたちのために、勉強の機会と用具を提供している。午前と午後に分かれて1日2時間勉強し、あとの時間はゴミ山で働く。スラムには経済的な事情で学校に通えない子どもが多く、センターで抱えきれないほどだという。   あんなに幼い少女が、裸足で無防備にいていいはずがない。あんなにひどいゴミ山で生きていていいはずがない。あの子を守るすべが教育センターだけというのは、なんと心もとない。それでも、教育センターにいる時間は彼女が唯一、守られ、子どもらしくしていられる時間だ。あなたには生きる価値がある、希望をもって生きる権利がある、それを学ぶことができる唯一の場所だった。

12時間の教育センターは「たったそれだけ」なのかもしれない。小さな光かもしれないが、それがあるのとないのでは、大きく違うだろう。なぜなら、センターにいるときのモスミはとても安心した顔で笑っていた。制服を着て、誇らしげに覚えたての歌を歌ってくれた。それはゴミ山で見た厳しい表情のモスミとは、まるで違った。

洋服を作る人になりたいという

洋服を作る人になりたいという

「“何もかも”はできなくとも、“何か”はきっとできる」ワールド・ビジョンの創設者であるボブ・ピアスの言葉だ。その何かは小さなことかもしれない。でも、小さくても確かな光を子どもたちに届ける力が私たちにはあるはずなのだ。その光は、子どもたちの未来を作り、やがては世界を変える力になる。 そう信じて今日も、自分の置かれた場所で精いっぱいの仕事をする。それが、この子のためにできる最大の「今、私にできること」だからだ。

モスミと山下スタッフ

モスミと山下スタッフ

  ※この記事はワールド・ビジョン・ジャパンの山下スタッフが執筆し、2015年12月4日付SANKEI EXPRESSに掲載されたものです。 ——————-

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この記事を書いた人

WVJ事務局
世界の子どもたちの健やかな成長を支えるために、東京の事務所では、皆さまからのお問合せに対応するコンタクトセンター、総務、経理、マーケティング、広報など、様々な仕事を担当するスタッフが働いています。
NGOの仕事の裏側って?やりがいはどんなところにあるの?嬉しいことは?大変なことは?スタッフのつぶやきを通してお伝えしていきます。
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