さかのぼること約15年。この団体(ワールド・ビジョン・ジャパン:WVJ)で働き始めた頃を思い出します。熱い想いと、パッション、何かはきっとできる!と勢いをもってこの職場に入ったわけですが、ある一本の問い合わせをきっかけに、(途上国の子どもたちに支援を届けることは良いことだけど、本当に、彼らのためになっているのだろうか?)という葛藤が心にしめ、自信をなくし、落ち込んでしまいました。
その内容とは…
世界中の国々には、築き上げられてきた歴史と文化があり、そこに住む人々には、民族ごとの美しい文化がある。支援活動という目的で、彼らの内に入り、ともに歩むことにより、教育や、保健衛生など、生きる力を育む要素が取り入れられると同時に、彼らの美しい歴史や文化を壊すことになるのではないか。それは、彼らにとって本当に幸せな事なのか。私自身のただの自己満足であり、支援という名の偽善なのではないか
と。短くまとめると、このような葛藤でした。
この葛藤を抱え始めると、なんだか心の内に(偽善者)という単語がかけめぐり、平安がなくなりました。そればかりか、自分で、自分の仕事や、日ごろの態度にぎこちなさを感じ、支援活動に自信を持てていない焦りさえも感じるようになりました。
そんなある日、昼食を買いにコンビニへ向かう途中、当時直属の上司だったTさんとたまたま同じエレベーターになりました。
Tさん:「どうや、殿ちゃん。最近は?」
私:「…。」
(どうしよう。聞いていいかな?呆れられるかな?心配されるかな?怒られるかな?)
私:「Tさん、聞いても良いですか? 実は今………。(止まらない弾丸トーク)」
何が何だか分からず、頭に血が上って意味の分からない熱い想いと葛藤をぶつける私を温かいまなざしで見つめ、聴き続けてくださいました。エレベーターを降りて、そのまま進み出た歩道で、Tさんは静かに、冷静に語ってくださいました。
Tさん:「殿ちゃん、確かに、世界中には色々な人がいて、色々な文化があり、宗教があり、それぞれに生かされている。WVの支援はそれを否定するものではないし、壊すものでもない。彼らを尊重し、ともに歩んでいきたいと思っている。
ただし、一番重要なことは〝いのち“や。人に与えられた〝いのち”はすべて尊く、美しいものだから、その国の文化がどんなに美しいものであったとしても、〝いのち“を失うことにつながるものであるならば、そこでは一歩立ち止まって考え、時には見直さなければならない。どんな文化であっても、〝いのち”を失うことを推奨し、良しとするものはないと思う」
私の心の暗闇は、この言葉によって光を得ました。
「いのちを失ってはならない」
私たちの目指すところは、すべての子どもへの豊かないのち。そして、私たちの祈りは、世界中の人々の心に、これを実現したいと思う意思が与えられること。 Tさんは、私の心に回復を与えてくれただけでなく、WVのビジョン・ステートメントに、私を立ち戻してくださいました。
そして、この日から、元気が回復したとともに、壁に貼られているステートメントが、私の心のうちに生きるステートメントへと変わっていきました。
「私たちのビジョンは、すべての子どもに豊かないのちを
私たちの祈りは、すべての人の心にこのビジョンを実現する意思を」
Tさんは今年、23年近いWVJ勤務を終えて退職なさり寂しい限りなのですが、手前味噌ながら、WVJでは、Tさんのようなスピリットを受け継ぐ温かいスタッフに囲まれて働いているなと日々感じています。WVはキリスト教主義に基づいて活動している団体ですが、スタッフの間にも、互いに愛し合い、許し合い、支え合い…喜んで補い合える精神が流れているなと感じるのです。
分からない時に、教え合う。持っている人が、分かち合う。大変な時に、助け合う。
温かい団体に身を置いて働かせていただいていることを感謝し、世界中の子どもたちに豊かないのちのバトンがつながれていくことを祈りつつ、仲間とともにこれからも前進していきたいと思っております。
Tさんへ
ご退職日にさえも、心の内に秘めていた、この感謝をお伝え出来ずに申し訳ございませんでした。
「感謝」は涙でなく、笑顔で伝えたかったのですが、その自信がなくて。
今日、このような形になってしまいましたが、あの時、助けてくださったこと、お昼休みを割いてくださった事の感謝を、お伝えできてホッとしました。あの日、私にも、豊かないのちを届けてくださり、本当にありがとうございました。
(でも、もう、15年も前。覚えていらっしゃらないかもしれませんね…)
You are my STAR.
サポートサービス部
大古殿 美穂
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この記事を書いた人
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