【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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NGOスタッフが見た光(3)「忘れないで」をスルーしない

フィリピンに大きな被害をもたらした超大型台風ハイヤンの発生から、もうすぐ5年になります。

直撃の約1か月後に現場に入った私は、ある少女と出会います。

そして彼女が、文字通り「ジェットコースター」のような波乱万丈な人生を歩むのを見ることになりました。

台風ハイヤンの被災地で会った少女
小さな小屋

小さな小屋

ジョアンナは、もともとワールド・ビジョンの支援を受けていた少女です。

台風による強風で、家は全壊。

バナナの葉で作った、ほんとうに小さな小屋で、家族や親せきと雨風をしのいでいました。

台風後の混乱でお父さんの仕事はなく、
ジョアンナのお母さんは、妹の赤ちゃんを抱きながら途方に暮れていました。

家族や親せきと住むジョアンナ(右端)

家族や親せきと住むジョアンナ(右端)

私たちは、まずは再建の拠点となる家を建て直そう、と、支援を始めました。
資材はワールド・ビジョンが提供します。建てるのは村の男性たちです。
ジョアンナのお父さんはもともと大工さんだったので、リーダー的存在になりました。
壊れにくい家の建て方のトレーニングもして、村には多くの新しい家が建ちました。
1年後に現場を訪れたとき、ジョアンナの新しい家にお邪魔しました。

新しくできた家

新しくできた家

安堵と希望にあふれたお母さんの顔は、いまでもはっきり覚えています。
ジョアンナもそんなお母さんと、ちょっと誇らしげなお父さんと、とても嬉しそうでした。
私は、これぞNGOで働くことのだいご味、喜びだなぁと感無量になりながら帰ったのです。

嬉しそうなお母さんと

嬉しそうなお母さんと

その後しばらくして、今度は同僚が現場に行きました。
そして、ジョアンナの家を訪ねたところ、お母さんが亡くなったと聞いたのです。
出産―難産が原因でした。赤ちゃんは助かったのですが。
4人の子どもを抱えて、お父さんはまだ呆然自失。
ジョアンナはお母さんがいなくなったあとの家事を一手に引き受け、学校にも行けなくなってしまいました。

なんとかジョアンナを励ましたくて、機会があるごとにワールド・ビジョンのスタッフは彼女に会いに行きました。
親善大使の酒井美紀さんにも行っていただきました。

フィリピンを訪問した酒井美紀さんとジョアンナちゃん(2017年)

そんなある日、ジョアンナのお父さんが再婚したと聞きました。
新しいお母さんはとてもやさしくて、ジョアンナも子どもたちもなついている、と。
そしてジョアンナはまた学校に行けるようになりました。
でも日本でいえば、まだ小学生のジョアンナです。
この数年のうちに起こった激動の出来事を、彼女はどう受け止めたのでしょうか。
まだ小さな彼女には表現できないような、深い感情や思いがあるのだと思います。
彼女と出会い、NGOの仕事とは、こうした一人ひとりの思いや人生とともに歩むことなのだと知りました。

巨大台風ハイエン通過から間もない2013年11月、被災した子どもたちを訪ねた筆者

「忘れないで」 - ジョアンナのお母さんの言葉

ときどき、ジョアンナのお母さんの言葉を思い出します。
台風直後、現場から帰る私に、お母さんはこう言いました。
私たちのことを忘れないで。そして戻ってきて、私たちがどう立ち直っていくのかを見に来てください

この言葉について、最近、よく考えるようになりました。
まず思うのは、お母さんへの約束を守り続ける、ということです。
私たちがジョアンナにできることは限られています。
でもジョアンナのことを、これからもずっと見守っていきたいと思います。
フィリピンだけでなく、他の国にいるたくさんの「ジョアンナ」たちのことも。

ふたつめは、この言葉のパワーです。
お母さんの言葉は、当時の私に力をくれました。
被害の大きさに、私たちに何ができるんだろうと内心途方に暮れていましたが、
そうか、このお母さんと一緒にがんばっていけばいいんだ、というような。
私が励まされるなんて、なんだか立場が逆だよな、と思いながら、妙に仕事する気になって帰りました。

そして最後に、こうも思うようになりました。
災害のあと、被災された方々の「忘れないで」という言葉をよく耳にします。
不謹慎なようですが、私たちの心に「あ、どこかで聞いたことがある言葉だな」という思いはないでしょうか。

でも、私はジョアンナと会ってから、この「忘れないで」、という言葉の向こう側に、
ジョアンナとお母さんが通ってきたような大変な人生が、何万人分も、何百万人分もあるのだと思うようになりました。

その、重みを、決して「よくあること」としてスルーしてはいけない、ということも、
ジョアンナのお母さんは教えてくれました。
ジョアンナにとって、お母さんはきっとこれからも、人生を導く星 - guiding star☆彡でしょう。

もうすぐクリスマスです。

遠くにいる誰かのことを思い、忘れないことは、
遠くにいる相手にもジブンにも、パワフルなんだなぁ、と思うこのごろです。

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【関連ページ】

フィリピン共和国:子どもたちはこんな支援地域で暮らしています

親善大使 酒井美紀さんが見た、フィリピンの「今」

 

この記事を書いた人

木内 真理子WVJ理事・事務局長WVJ理事・事務局長
青山学院大学を卒業後、国際協力銀行(JBIC)前身のOECFに入社。途中英国LSE(社会政策学)、オックスフォード大(開発経済学)での修士号取得をはさみ、アフリカ、インドネシア、フィリピンにおいて円借款業務を担当。母になったことを契機に転職。東京大学にて気候変動、環境、貧困など21世紀の課題に対応するSustainability Scienceの研究教育拠点形成に従事。「現場に戻ろう」をキーワードに08年10月よりWVJに勤務。アフリカ、中南米、ウズベキスタンを担当。2011年5月より、東日本緊急復興支援部長。2013年4月より副事務局長。2017年4月より事務局長。2020年4月より現職。東京工業大学非常勤講師、JICA 事業評価外部有識者委員、JANIC理事、日本NPOセンター理事、タケダいのちとくらし再生プログラム助成事業選考委員
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