子どもを中心に支援活動をするワールド・ビジョンの中で近年特に叫ばれているのが、“最も脆弱な子どもたちへの支援”ということである。
最も脆弱な子どもたちとはどんな子どものことか? それは個々の子どもが置かれている状況の中で、物質的、肉体的、精神的なニーズという視点から導き出すことは可能かもしれない。しかし、単純にニーズを数値化して、ある特定の子どもたちが最も脆弱なグループである、と断定的に判断することは困難である。例えば今現在、怪我や病気で死に瀕している子どもたちが最も脆弱ということも可能であるし、一番貧しい地域に住んでいる子どもたちを脆弱な子どもたちと断定することも可能である。また、虐待をうけている子どもが最も脆弱な子どもということも可能なのである。ここではこれ以上は深く考察することはしないが、ワールド・ビジョン・ジャパンが最も脆弱な子どもたちとして焦点を当てている分野に、障がい児に対する支援がある。
障がい児を取り巻く社会の環境は、途上国ばかりではなく日本を含む先進国の中でも良好とはいえない。また、障がい児は虐待の被害に最も多くさらされているグループであるといえる。全国の児童相談所や警察に寄せられる約6万件の児童虐待の事例の中に、自閉症や知的障がいの子どもたちの被害が増加している、という専門家の指摘もある。
日本では2012年10月に「障害者虐待防止法」が施行され、行政の取り組みとして障がい者への虐待の防止を進めている。虐待は一般的には、肉体的虐待、精神的虐待、性的虐待、ネグレクトの4分野に大別されるが、上記の法律によれば、それに加えて経済的虐待が挙げられている。またこの法律では、虐待の起こる現場として、家庭ばかりではなく、福祉施設や職場も想定されているのが特徴的であるといえる。
さて、途上国の障がい児に対するワールド・ビジョンの取り組みは、スタッフや地域の人々に対し、障がい児も健常児と同じ権利があるという権利擁護活動と、ニーズの把握と、保護活動である。ある国では、家族に障がい児がいることが一族の不名誉となり、家の中に隠して外に出さないこともある(日本でも過去には同じような状況が見られた)。そんな地域では、「障がいのある子どもはいますか?」というスタッフの問いに、「そんな子どもは一人もいない」という答えが返ってくるのである。つまり家族も地域の人々も、障がい児/障がい者を地域の一員として認知していなのである。
ワールド・ビジョンでは長期に渡る啓発教育や、権利擁護活動を支援事業の中に組み入れ、障がい児も学校や地域の一員として教育や保健等の開発支援のプロセスに参加してもらい、彼らの意見を聞き、彼らも開発の恩恵にあずかれるよう保護して行くことを勧めている。当然、スポンサー・チャイルドの中にも障がい児が加えられているのである。
この記事を書いた人
- 大学卒業後オーストラリア留学などを経て、青年海外協力隊に参加モロッコに2年間滞在。1989年にワールド・ビジョン・ジャパン入団。タイ駐在などを経て、1997年より支援事業部部長(旧 海外事業部)。現在までに訪れた国数約85カ国。4人の子どもの父親でもある。2014年3月退団。
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