ワールド・ビジョン・ジャパンは2009年からジャパン・プラットフォームの助成金を得てスリランカ北部で緊急人道支援を行っている。2011年12月末までに約1万2500世帯に支援を届けてきた。
紛争中から紛争後にかけて人々のニーズは刻々と変わっていく。着の身着のままで危険から逃れ、避難民キャンプにたどり着いた人々は多くの場合、食糧を始め生活のほぼ全てを緊急人道支援に頼らざるを得ない。紛争が止み、故郷に戻っても内戦で社会インフラが破壊されていると元の生活に戻るのは容易ではない。
住居は破壊され、耕地は荒れ果て、家畜は死に絶えている。学校や病院、市場や道路、井戸なども破壊され、機能していない。それが故郷へ帰還した人々の多くが直面した現実だった。
膨大なニーズがあることは想像に難くない。しかし人々のニーズは避難民キャンプの時ともう同じではない。その日を生き延びるための支援ではなく、人々の生活が、コミュニティが、地域が、「復興」へと向かうための支援が、つまり人々が持続的に「普通の生活」を送れるようになるための支援が必要になってくるのだ。
人々の帰還が本格的に始まった2010年からは、ワールド・ビジョン・ジャパンは帰還民の生計回復支援を行っている。
帰還民の中でも最も困窮した立場に置かれているのは、内戦で男性の働き手を失った家庭や小さな子どもの多い家庭、障がい者や高齢者らである。これらの特に社会的に脆弱な世帯を対象に、生計を立てるのに必要な資材を配布し、技術研修を実施する。生計活動はそれまでの経験や家庭の事情に合わせて支援を受ける側が自由に選べる。主なものでは農業や家畜飼養(牛、ヤギ、鶏など)、縫製や食品雑貨販売、大工、石工、スナック菓子の調理販売、自転車修理などがある。
生計活動が軌道に乗るように、帳簿の付け方や計画の立て方などの研修も行う。地方政府の担当部署との連携にも力を入れ、職員に講師として講習会に来てもらったり、コミュニティ訪問に同行してもらったりして、住民との関係づくりを図っている。
今年は加えて生産者組合との連携にも力を入れ、生産者が適正な価格で生産物を売ったり、市場を開拓したり、生産者同士が協力し合って活動を続けて行けるような支援も実施していく予定である。
先日、新しく事業が始まる村で住民説明会を行った。ワールド・ビジョンがどういう団体か、この事業の目的は何か、どういう事業を行うのか、どういう基準で支援を受ける方が決定するのか、事業の内容や支援を受ける方の決定方法、あるいは私たち職員の行動や態度に疑問や不満があればそれを表明するシステムがあり、私たちはそれに対して誠実に対応する義務があることなどをひとつひとつ丁寧に説明する。
小さな村だったが100人以上の帰還民が詰めかけ、説明に熱心に耳を傾けていた。まだ膨大なニーズが存在するこの村の人々の、支援団体に対する切実な期待をひしひしと感じないわけにはいかなかった。
このスリランカの北部ではかつては鉄道が通り、整備された農業用水路が張りめぐらされ、家畜もたくさんいたそうだ。生産者組合も活発に活動しており、経済活動もそれなりに盛んだった。長い時間をかけて築き上げられ、積み重ねたものでも、壊してしまうのは何と一瞬のことなのだろう。かつて人々の穏やかな暮らしがあったこの同じ場所で、内戦中は多くの人の血と涙が流された。人間の歴史はなぜこんなにも紛争を繰り返すのだろうか。
でもこの同じ場所で、もう一度、生活を、コミュニティを、地域を、再建していく人々の営みが始まっている。私も一緒に夢を見よう。もう一度この場所で、今度こそ平和な社会を築き、誰もが笑って暮らせるようになることを。
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