【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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RとL

ひさしぶりに、「やっちまいました」という感じです。
日本人は、RとLの区別がつかないとよく言われます。
たしかに。RもLも「らりるれろ」です。日本語は。
とはいえ、このRとL問題で、こんなジケンに遭遇するとは思ってもみませんでした。
それも遠いアフリカの地、エチオピアで。

3月にアフリカの東にあるルワンダに行ってきました。
どうやって行くのかというと、成田→バンコク→アジスアベバ(エチオピア)→エンテベ(ウガンダ)→キガリ(ルワンダ)、というかなり長いフライトです。飛行機を乗り継ぐこと36時間。

バンコクまではタイ航空ですが、その後は、「アフリカ ナンバーワン エアライン」の誉れ高いエチオピア航空です (先日、不幸なことに悪天候による墜落事故があったばかりですが・・・)。

その最初の経由地、バンコクで、エチオピア航空に乗り込もうとしたときのこと。
飛行機の入り口前で、
「荷物はもう機内に入らない。身の回りのものだけ持って、あとは貨物室に預けてくれ」
と言われました。
「え~っ」とブツブツいいながらも、機内持ち込み用(であるはず)のキャリーバックから、
これから残り27時間くらい必要になりそうなモノをとりだしていると、
私よりもっと大きな声でガアガア文句を言っていた、アフリカ系の頼もしそうな女性が、
「アイム ゴーイング トゥ ルワンダ (私、ルワンダに行くのよ)。」
と(不機嫌そうに)言って、預ける荷物にタグをつけてもらっていました。
そうそう、貨物室にチェックインする荷物には、「どこそこ行き」と書いた荷札(タグ)をつけてもらう必要があります。

私もすかさず、
「ミー トゥ(私も)」
といって、タグをつけてもらい、それと同じものを控えとしてもらい、
そのままダイジにパスポートを入れるケースにしまいこみました。
さらに10時間近いフライトのあと、早朝のアジスアベバに到着。
ここでさらに5時間待ち。なんだか徹夜明けのような、ぼーっとした感じです。
それでも仕事なんかしてみたりして、1時間くらいたったでしょうか。
ふと見ると視線の先に行列。飛行機に乗り込もうとしている人たちの列です。
「へえ、たくさん乗る人がいるんだなぁ。どこに行くのかなぁ」と何気なくスクリーンを見ると、

「ルアンダ行き (To Luanda)」とある。

ふーん、ルアンダかぁ・・・・確か、アンゴラの首都だったよなぁ。

ルアンダ、ルアンダ、、、ルワンダ??
え、ぎょっ。ちょ、ちょっと待ってよ。

急いでパスポートケースからタグを引っ張り出して、祈るようなキモチでみた・・のですが・・・。
うぅ。タグにはなんと、「LDA」とありました。
そう、ルアンダ(Luanda)の略語です。

ということは、私の荷物は、このルアンダ行きの飛行機に入っているということです!
しかも、そのルアンダ行きの出発まで、あと35分!

アタマの中で緊急警報がなり、すっかり目も覚めました。
そこからが必死の取り戻し作戦です。
まず、あたりを見回し、助けてくれそうなヒトを探します。
あ、いたいた。
エチオピア航空の制服をきて、厳しそうな目をしてピシっと立っている、白髪の男性がいます。
普段なら、あまりお話したくないようなタイプだけど、こういうときは、きっとこういうヒトがいい!
事情を説明して、わかってもらえるのに結構時間がかかりました (う~ん、急げーっ)。

でも、わかってくれてからは早かった!
彼は低い声で「Follow me! (ついてきなさい!)」と言いながらダッシュ(若い!)。
若いスタッフからトランシーバーを取り上げたと思うと、
下の空港で荷物の搬入をしているほかのスタッフを呼び出し、なにやら命令口調で話しています。
(その間、何度も、ルアンダ、ルワンダ、キガリ(ルワンダの首都)、の名前がでてきました)
そして、どうやら話がついたのか、満足げに会話を終了すると、
「貴女の荷物の件は、荷物担当のスタッフに説明した。彼がきっと見つけ出し、ルワンダ行きに乗せてくれる。安心しなさい」

といって、私の持っているタグ控えに、上からボールペンで
「KGL(キガリ)」と大きく書き込みます。
「これで、98%OK。保証しますよ」

えええええ~。
ありがたいけど、感謝しますけど、
でも、私の持ってるタグを書き換えたって・・・。
荷物についてるタグを変えてくれなくちゃ、荷物はキガリに届かない!
そういって、私も粘ります。
そう、必死です。
だって、中には、仕事で必要な書類も残ってるし、
何より、ルアンダ(これは、アンゴラの首都です)に行った荷物が、私がルワンダにいる一週間の間に戻ってくるのか・・・
だから、その白髪のエチオピア航空ベテランに、私の荷物を見つけ出し、タグを付け替えた、というところまで、どうしても確認して欲しかったのです。

しつこいくらい何度も聞きました。
いつ行っても「5分後に、また私のところに来い」
というので、見失ってはいけない、と、ストーカーのように、彼の動向を目で追い続けます。
視線を感じていたのでしょう。
しばらくして、彼のほうから小走りにこちらに向かってきました。

「今、連絡が取れた。ちゃんと荷物は見つかった。ルアンダ行き飛行機から降ろして、タグにはKGLと書き込んだから、もう大丈夫」

うわぁー!ありがとうございます!
握手して、何度もお礼を言いました。
彼もなんだかちょっと満足そうです。
どうだ!てな感じ。
彼こそ、ザ・エチオピア版必殺仕事人、です。
あとは、無事に「KGL」行きに乗るかどうかですが、ここからはもうどうしようもありません。
ここまでやったんだから(やってもらったんだから)、
これでダメなら仕方ないか・・とハラがすわりました。
まさに、人事を尽くして、天命を待つ。
それからさらに数時間後。
やっとキガリに到着です。

入国手続きを終えて、あの、荷物が出てくるベルトコンベアーの前で待ちます。
なかなか出てこない・・・。
他の荷物は次々に出てきてるのに・・・。
これで、出てこなかったら・・・。
アフリカ ナンバーワン エアラインの誇りはどこに?
などという考えがちらとめぐります。
ガタン。
大きな音がして、とうとうベルトコンベアーがとまりました。
あー、だめか、やっぱり・・
と思った矢先またガタンとベルトが動きだしました。
すると。
おお。でてきたでてきた!
最後の最後に、私の黒い小さな荷物が、ポツンと現れました。
すごいなぁ、エチオピア航空。やるじゃん!アフリカのベストエアラインだけのことはある!

それより、やっぱりだめか・・と一瞬でも疑った自分はけしからん。
でもなんとなくアフリカの将来が明るく思えたりする自分の調子よさに苦笑い。
白髪のおじさんの顔が、ニマっと笑ったような気がしました。

ニヤニヤしながら空港から出た私を、ワールドビジョン・ルワンダのスタッフが怪訝そうな表情で迎えてくれました。
Welcome to Rwanda! (ルアンダじゃない)

この記事を書いた人

木内 真理子WVJ理事・事務局長
青山学院大学を卒業後、国際協力銀行(JBIC)前身のOECFに入社。途中英国LSE(社会政策学)、オックスフォード大(開発経済学)での修士号取得をはさみ、アフリカ、インドネシア、フィリピンにおいて円借款業務を担当。母になったことを契機に転職。東京大学にて気候変動、環境、貧困など21世紀の課題に対応するSustainability Scienceの研究教育拠点形成に従事。「現場に戻ろう」をキーワードに08年10月よりWVJに勤務。アフリカ、中南米、ウズベキスタンを担当。2011年5月より、東日本緊急復興支援部長。2013年4月より副事務局長。2017年4月より事務局長。2020年4月より現職。青山学院大学非常勤講師、JICA 事業評価外部有識者委員、JANIC理事、日本NPOセンター副代表理事
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