ベトナムのディエンビエン省で行っている「妊産婦と新生児の健康改善事業」では、月に1回、対象村落において「保健クラブ」という小さい子どもを持つ保護者向け(妊婦も含む)の集まりの実施を支援しています。
この集まりでは、村落保健員や村落出産介助者が「妊娠中の危険サイン」、「新生児ケア」「母乳育児」、「幼児食の作り方」など母子保健に関する情報を提供し、参加者が家庭でそれらを実践するように促しています。
ちょうど1年半前くらいになってしまいますが、ムオンチャ地域のとあるモン族の村落での保健クラブの様子をお伝えします。
この日の参加者は、母親や祖母などの保護者約20名。そして参加者が連れてきた乳幼児が約15名。この日は、一人の若い父親も、赤ちゃんを背負って参加していました。
この村落では、村落保健員のほかに、数カ月前に分娩介助研修を終えたばかりの村落出産介助者、コミューンの女性連合、村落の女性連合の女性が、保健クラブの管理者として協力して活動を行っていました。またこの日は、コミューン保健センターの助産師も、活動のサポートとモニタリングのために会場を訪れていました。
この村落保健員のおじさんとは、すでに何回も会っていて顔見知りだったからか、特に緊張もせず、普段通りの活動の様子を見せてくれました。
今日のトピックは「母乳育児について」。最初は、ハキハキと話を進めていた村落保健員でしたが、しばらくすると啓発教材の紙の後ろの説明文をただ読み上げるだけの棒読み状態が始まってしまいました。教材はベトナム語で書かれており(※)、いったんベトナム語で読んでからモン族の言葉に訳すため、参加者の様子はまったく見ていません。
(※モン族には文字がないため、教材はベトナム語で表記されています。この地域では女性の多くがベトナム語の読み書きができません)
数分間その状態が続くと、参加者のお母さんたちも、ボーっと空を見つめたり、おしゃべりを始めたり、赤ちゃんたちも家の中をよちよち歩きまわったり泣きだしたり、会場はだんだんザワザワしてきました。そこでコミューンの女性連合の女性が参加者に、話に集中するように声をかけました。
村落保健員の棒読み説明が一通り終わったところで、コミューン保健センターの助産師にバトンタッチ。とりあえず場の雰囲気を変えようと、助産師は「電車ごっこ」ならぬ「お互いの肩もみ」ゲームを開始。参加者は一気にイキイキとし、笑い声も聞かれるようになりました。
その後、助産師が参加者に質問。「みなさん、今日のトピックの内容は分かりましたか?今日、新しく学んだことは何ですか?」
この助産師はターイ族の人で、モン族の言葉は話せませんが、参加者のモン族の女性たちは簡単なベトナム語なら分かるようで、数名はきちんと質問に答えられていました。それでも理解が難しい女性がいることが分かると、助産師は、村落出産介助者の若い女性に「私の言葉、訳してね」と依頼。それまで心もとなさそうに後ろに立っていた村落出産介助者も、ゆっくりとモン族の言葉に訳し始め、参加者もそれに耳を傾けていました。
無事に説明と質問タイムが終わった後は、子どもたちの身長・体重測定。村落女性連合の女性も測定のために会場を準備して、参加者に移動するように声をかけていました。
保健クラブが終了し参加者が帰った後、その日の集まりの反省会をみんなで行いました。いつもどおりコミューン保健センターの助産師が保健クラブの管理者にアドバイスを行った後、彼女は私にフィードバックを求めてきました。
「皆さん、お疲れ様でした。それでは今日の集まりで良かったと思う点をあげてくださいますか?」という私の質問に、保健クラブの管理者の村落保健員、村落出産介助者、コミューンの女性連合、村落の女性連合の女性は、「今日は遅刻する人が少なくて、時間どおりに始められた」「今日は、いつもより参加者が多かった」「ちゃんと質問に答えられる人が何人かいた」「助産師のCさんからいろいろ勉強することができた」と答えてくれました。
「そうですね。それでは、今後もっと良くしたい点をあげてくださいますか?」と聞いたところ、「今度からは、もっと事前に内容を復習したいと思う」「ちゃんと自分で参加者に質問できるようになりたい」「子どもたちを外で遊ばせたら、母親たちも、もっと集中して話を聞くかも」とそれぞれ答えてくれました。
こう話した後、村落保健員のおじさんが「私は、今まで研修でいろんなことを学んだんだけど、年取って忘れっぽくなっちゃったんだよ。」とポツリ。村落出産介助者も「モン族の言葉に訳せない言葉があるんです。だから難しくって」と打ち明けてくれました。一人ひとり悩みながらも、頑張っているんだな、励ましたいな、という気持ちになりました。
「みなさん、それぞれ強みがありますよね。例えば、村落保健員のおじさんは、村落保健員としての長年の経験があって、みんなに尊敬されている。
コミューンの女性連合のおばちゃんは、声がはっきりしていて聞きとりやすいから、話すとみんながひきつけられる。
村落の女性連合のおばちゃんは、周りで何が起きているか、いろんなことに気が付くことが出来る。
村落出産介助者のお姉さんは、研修から帰ってきたばかりで、いろんなことを吸収して試してみたいという意欲がある。
一人で頑張らなくても、みなさんはチームなんですから、お互いから学びあって、一人ひとりの長所を活かした役割分担をすれば、もっと良い集まりになると思いますよ」
と話したところ、クラブ管理者たちは静かにうなずいていました。
「今度、私が来るときは、この保健クラブはさらに良くなっていると信じていますよ。それでは、がんばった自分たちに拍手~!」
パチパチパチ
こうして、その日の保健クラブの反省会は終了しました。
この日、素晴らしいフォローを入れていたコミューン保健センターの助産師は、普段の医療サービスに加え、毎月計7村落のモニタリングを行っていて多忙なので、彼女に頼ってばかりではいけません。今後は、この村落の保健クラブの管理者だけで、自信を持って保健クラブの集まりを実施できるようになれればいいのですが…。
次のブログでは、この保健クラブが9カ月後にどのように変わったのかお伝えしたいと思います。
この記事を書いた人
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上智大学比較文化学部卒業(専攻:社会学・文化人類学)。ロンドン大学公衆衛生学・熱帯医学大学院でMSc. Reproductive & Sexual Health Research修士を取得。
2010年1月 ワールド・ビジョン・ジャパン入団。2012年12月より2016年3月までベトナム、2016年4月から2018年3月までエチオピア駐在。専門領域は母子保健。
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