これは、なんという動物でしょうか?
草食動物で、足は四本。毛は短く、長い耳があります。尻尾は長く、前足に比べると後ろ足が発達しています。
― 答えはカンガルー!
お分りになった方はいるでしょうか?
これは外務省のNGO 連携無償資金協力によって、ベトナムのディエンビエン省において実施している「妊産婦と新生児の健康改善事業」の一環で行った活動の一つです。
このクイズは、地域のお母さんたちに啓発活動を行う人材「コミュニケーター」を育成するトレーナー研修で行われました。トレーナーとなる省や郡、コミューンの保健スタッフや女性連合の人たち計20名が今回の研修を受けました。
答えの動物は、豚か水牛か犬ではないかと考えた人が多いようです。(中には未知の動物も描かれていますが…)上記のように説明が足りないと、聞き手は、話し手が意図した物とは全然違う物を想像してしまうようです。
今回の研修は、受講者にコミュニケーション・スキルを身に着けてもらうことを目的としています。
事業地では、産前健診や保健スタッフによる出産介助を受けない女性が多くいます。少数民族が多く住むこの地域では、公用語のベトナム語を話せない女性が多く、言葉や慣習の違いから保健施設に行く必要性を感じていない、また行きたがらない人が多くいます。
事業地では、村落保健員や女性連合などの「コミュニケーター」が、地域住民、特に女性に対し、いかに産前健診が大切か、保健スタッフによる分娩介助が必要かを伝える役目を担っています。
コミュニケーターの多くはモン族やターイ族のため、ベトナム語も少数民族の言葉も話すことができる貴重な存在です。しかしコミュニケーション技術が限られていることが事業事前調査で指摘されていました。今回の研修は、そのコミュニケーターの育成を行う、トレーナーの育成を目指すものです。
研修の間、講師が実際にどこかであった話を受講者にシェアしてくれました。
ある医師が、病院に赤ちゃんを連れてきた母親に「赤ちゃんは、今は元気のようですね。でももし危険サインが出たら、すぐに病院に連れてきてください。大きな危険サインは8つあります。発熱および低体温、黄疸、多呼吸、目の充血、けいれん、母乳を飲みたがらない、嘔吐、へその緒の異常です」と伝えました。
数日後、母親が大慌てで赤ちゃんを病院に連れてきましたが、すでに非常に危険な状態でした。
「なぜ、こんな状態になるまで病院に連れて来なかったのですか?」
「だって先生、8つサインがあるっておっしゃったじゃないですか!だから8つサインが出るのを確認してから来たんです」
ウソみたいな話ですが、このように伝え方の違い一つで、人の命に関わることもあるようです。
事業地に住む少数民族の女性の多くが学校教育を受けていないこともあり、コミュニケーターは、いかに正確に分かりやすく、聞き手の記憶に残るようにシンプルに、また行動を促すように伝えるかがとても重要です。
さらに妊産婦の生活改善や出産への準備、育児に関するカウンセリングにおいては良い聞き手となることも求められています。
しかし最終的には、どれくらい相手の気持ちに寄り添い、頭ごなしの批判や説明口調ではなく、話し合いを通した親身なアドバイスを行うことができるか、どれくらい相手と信頼関係を結べるか、にかかっています。
「この人がそう言うなら、保健センターに行ってみようかな」と、地域の住民に思ってもらえるようなコミュニケーターであることが重要です。
今回の研修の受講者の20名中17名は女性で、自身も若い母親の人もおり、地域のために貢献したい、という意欲を持った人ばかりです。研修中には、熱心な話し合いや楽しげな笑い声も多く聞こえました。また研修の後の実力テストでは、高い評価を受けた人も多くいました。
今後は、今回のトレーナー研修を受けた受講生が、コミューンや村落のコミュニケーターに対して啓発方法の研修を行っていきます。今回の受講生が、トレーナーとしてどのような研修を行っていくのか、どのように啓発活動を進めていくのかを見るのが楽しみです。
この記事を書いた人
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上智大学比較文化学部卒業(専攻:社会学・文化人類学)。ロンドン大学公衆衛生学・熱帯医学大学院でMSc. Reproductive & Sexual Health Research修士を取得。
2010年1月 ワールド・ビジョン・ジャパン入団。2012年12月より2016年3月までベトナム、2016年4月から2018年3月までエチオピア駐在。専門領域は母子保健。
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