スリランカ内戦が終了してから今年の5月で2年が経過しました。
2年間の間に検問所など内戦の面影を残すものは随分見かけなくなり、過ぎ去った時間を感じさせられます。
内戦の悪化で国内避難民となり、その後生活環境の劣悪なキャンプに収容されていた人たちは2年間の間に大部分が以前に住んでいた場所に帰還しました。帰還という言葉は避難民としての生活の終わりを意味しますが、同時に普通の生活に戻る始まりでもあります。
戦争が終わり家に帰ったからといって問題がなくなったわけではなく、
どの様に通常の生活に戻っていくのか?という新しい問題が待っているわけです。
「普通の生活」というと変化の無い停滞感に満ちた否定的な響きを感じでしまうかもしれませんが、異常な状況の中を生き延びてきた人たちにとっては普通であるということは非常に素晴らしいことです。
何をもって普通というのかは場所や習慣によって違いますが、根本的な部分ではどこでも同じようなものではないでしょうか。
住むところがあり、食べるものがあり、子どもが学校や病院に行くことが出来、生活に必要な収入を得ることが出来る。
そんな生活に戻ることが出来るまでスリランカ北部の帰還民は本当に帰還したことにはなりません。そして帰還民の中には家が無い、食べるものに苦労している、収入源がないといった理由で普通の生活に戻れていない人が沢山います。
ワールド・ビジョン・ジャパンではJPF(ジャパン・プラットフォーム)と連携して帰還民の中でもぜい弱性が高い家庭(女性が世帯主の家庭、扶養家族数の多い家庭、避難前から生活に困難していた家庭など)を優先して生計支援を行っています。
農業、漁業、家畜業といった第一次産業が生計手段の圧倒的多数を占めているスリランカ北部では生計支援も農業や家畜などが多く、農業用のポンプや養鶏一式の配布といった活動を通じ、帰還民が安定した収入を得ることが出来るようになるように支援をしています。また、生計活動から収入を持続的に得るためには、生産物の売り方、帳簿の付け方、活動の計画など経営の基礎知識も重要になる為、受益者に対する経営の基礎知識の研修も行っています。
最近、生計支援でボートと漁業用の網を受け取った受益者の男性と話す機会がありました。彼は内戦悪化以前にボートとエンジンを所有して漁業を行っていましたが、避難した際においていったボートとエンジンを紛失し、昨年ワ-ルド・ビジョンの生計支援でボートを受け取りました。子どもが3人いるという彼は現在の漁業の出来や、家の状況に関して話をしてくれました。
彼が家計に関して話しているときに言った「もし、ワールド・ビジョンからボートを受益していなければ、今自分は借金しているだろう」という言葉を聞き、支援が彼の家族に大きく役立っているため安心しました。
しかし同時に彼の話を聞きながら、彼のように夫婦が両方生存しており、漁業という収入の見込める生計手段の経験を持っている人は、必要な道具や物さえ手に入れることが出来れば、比較的簡単に安定した収入につながるケースであり、夫を内戦で失った母子家庭といった家庭が普通の生活の戻る道のりはそんなに簡単ではないことや、そういった家庭の支援をより効果的に行う為に工夫する必要があることを考えずにはいられませんでした。
大人の場合、普通に戻ることの大部分は生計活動の再開と大きく繋がっていますが、子どもたちの場合は学校に戻ることが大きなステップとなります。ある土曜日の朝、事業地の小学校の一箇所を借りて研修を行う準備をしていると、教室一つに15人くらいの小学生が座って授業が始まるのを待っているのに気づきました。
スタッフと一緒に教室に入ってみると皆ニコニコ笑いながら挨拶してくれました。この少年少女は5年生で奨学金を得るためのテストの授業があり先生を待っているとのことでした。
子どもたちが普通に学校に行くことが出来ているのを見るとホッとしますが、過去2年間に多くの悲惨な物を目にしてしまったこの子たちの心が普通に戻るのはどれだけ時間が必要なのかを考えると心が痛みます。
起きてしまったことを取り消すことは出来ませんが、せめて30年近い内戦が終わったのだから、今後長い間人々が普通の生活を送ることが出来る未来が待っているように願って止みません。
この記事を書いた人
- 米国Washington and Lee大学理学部化学科卒業。在学中にケンタッキー州の都市貧困にかかわるNPOでインターンをした事でNPOの働きに興味を持つ。一般企業で勤務後、帰国し2008年9月にワールド・ビジョン・ジャパンに入団、支援事業部緊急人道支援課に配属となる。2009年から2011年までスリランカ駐在、2013年から2015年5月まで東ティモール駐在。2015年8月に退職し、ロンドン大学公衆衛生学・熱帯医学大学院でMSc. Public Health in Developing Countries(途上国における公衆衛生)修士号を取得。2016年10月に再びワールド・ビジョン・ジャパンに入団、支援事業部開発事業第2課での勤務を開始。現在、バングラデシュ事業担当。2018年3月退団。
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