【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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難民キャンプでの「ささやかな日常」

バングラデシュの観光地、コックスバザールから車で2時間ほど南下すると、ミャンマー避難民のためのキャンプが現れます。丘陵を切り崩し山肌があらわになった小高い場所に、竹やトタン、強化ビニールなどで建てられた家が所狭しと並んでいます。

ミャンマー避難民のためのキャンプ

ミャンマー避難民のためのキャンプ

初めてこのキャンプに足を踏み入れた際、ちょっと小高くなったところから全体を見渡したのですが、この荒涼とした景色が、見える限りどこまでも続くことに圧倒されたことを思い出します。ここは約100万人の人が住む、世界最大級のメガキャンプです。

ロヒンギャは何世代にもわたりミャンマーで暮らしてきた人々ですが、政府は自国民として認めていません。そのため、国民としての権利が認められず、そのことが軍や住民同士の武力による衝突の原因となってきました。衝突のたびに、多くのロヒンギャが住み慣れた家を追われました。ミャンマー国内だけでなく、国境を接する隣国バングラデシュの難民キャンプに避難する人も多くいます。過去に何度かこの軍や住民同士の武力衝突、それに伴ったロヒンギャの移動がありました。しかし今回、2017年の衝突では70万人を超える人々が国境を越え、7年を経た今も97万人を超える人々がバングラデシュ国内にとどまっています。

※ロヒンギャは現在のバングラデシュ・チッタゴン地域の方言に近いロヒンギャ独自の言語文化を持つ民族です。ミャンマーのラカイン州に多く居住し、ミャンマーとバングラデシュの双方から不法移民とみなされ、事実上の無国籍状態にあります。保護責任を持つ国がなく、人道支援が不可欠です。

ワールド・ビジョンはこの衝突の後、2018年からキャンプとキャンプに隣接したホストコミュニティで「ジェンダーに基づいた暴力」の対策事業を実施しています。

「ジェンダーに基づいた暴力(GBV)」の対策事業の啓発プログラムに参加した女の子たち

「ジェンダーに基づいた暴力」の対策事業の啓発プログラムに参加した女の子たち

今年度は7期目の事業となり、2024年1月から12月の予定で実施しています。事業担当である私はこれまで2回、2月と5月に現地を訪問しました。今回(5月の訪問)では、キャンプで女の子を対象とした啓発研修をモニタリングしたのですが、「みんな同じコミュニティからきているの?」と聞いたところ「違う」とのこと。「この子たちはブロックBで、私たちはブロックAなの」と2-3人の女の子たちがピトッとくっつきあいながら、「私たち仲良しなのよねー」という感じで、にっこり顔を見合わせて答えてくれました。

ロヒンギャの女の子を対象とした研修の様子(中央が筆者)

ロヒンギャの女の子を対象とした研修の様子(中央が筆者)

その様子を見て、楽しそうだな・・と嬉しい気持ちになりながら、私も子どもの頃、ゴム飛びをしたり、交換日記をしたり楽しかったなと自分の子ども時代を思いました。

日本やほかの地域開発の支援地から行くと、避難民キャンプの環境はかなり非日常的に見え、その過酷さにも圧倒されるのですが、何度か通っているうちに、少しずつそこで生活する避難民の人たちの日常が見えてきます。そうすると、そこには普通の日常もあって、住んでいる人たちには楽しいひと時もある様子が少しずつ見えてきます。

難民キャンプ内の敷地で縄跳びをして遊ぶ女の子

難民キャンプ内の敷地で縄跳びをして遊ぶ女の子

私たちの活動で建設したWomen and Girls Safe Space (WGSS: 女性と女の子のためのスペース)は、日中、活動参加者の女性たちに開放しているのですが、時間があるとそこに来て、部屋に座ってコーランを読むのが日課になっていると話してくれた女性もいました。その女性は、ミャンマーで大きな家に住んで、土地を耕し、豊かな生活をしていたらしいのですが、大きな部屋に座って窓から入る風を感じながらコーランを読むのが大好きな時間だったとのこと。WGSSの部屋でコーランを読んでいると、ミャンマーの生活を思い出すと言って、早く故郷に帰りたいと話してくれました。

世界中に多々ある避難民キャンプの中でも、ミャンマー避難民を対象としたこのキャンプはバングラデシュ政府がロヒンギャの人々を受け入れておらず、今後受け入れる計画もないという点で、特異なケースとなっています。アフリカなどにある避難民キャンプでは、政府の方針の中に避難民の受け入れが明記されており、そのため支援団体は長期的な視野をもって、避難民支援を計画することができます。

しかし、バングラデシュ政府から受け入れの方針が出ない以上、私たちNGOや国連機関などの支援団体は、ミャンマー避難民への支援を長期的な視野で計画することができません。そしてその長期的視点(サステイナビリティ)なしには、私たち支援団体が政府資金をもって引き続き支援を続けるのは難しいのが現状です。

キャンプ内の支援がどんどん減り、治安も悪くなっている状況も聞きました。家父長的な価値観の根強いロヒンギャのコミュニティにおいて、ただでさえ行動規制が多い女性や女の子たちは外出もより困難になっています。そして外出ができなければ、WGSSでの活動に参加したり、例えばコーランを読みに来たりすることも難しくなるだろうというのは想像に難くありません。

両親と5人の兄弟と難民キャンプで暮らすサラミちゃん(黄色い服の女の子)

両親と5人の兄弟と難民キャンプで暮らすサラミちゃん(黄色い服の女の子)

キャンプ内で出会った女性や女の子たちのささやかな日常を守りたい。
そのために、何ができるか。
現状をしっかり把握しつつ、小さくとも今、私たちにできるアクションを起こし続けていかなければとの決意をあらたにしてキャンプを後にしました。

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ワールド・ビジョン・ジャパンは、難民・国内避難民の子どもたちの学びの環境の整備、教育の質の向上、心のケアなどの支援を行うために、【難民支援のための募金】へのご協力をお願いしています。皆さまのご寄付で、厳しい避難生活の中でも子どもたちが学びを続け、未来の可能性を広げることができます。

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この記事を書いた人

池内千草支援事業部 プログラム・コーディネーター
東北大学大学院修士課程修了後、私立高等学校にて英語講師として勤務。その後タイ王国チュラロンコン大学大学院タイ研究講座を修了。タイの東北地方の農村にて調査・研究を行い、NGOと女性の織物グループの形成をジェンダーの視点から考察した。2003年から2006年までの3年間、タイの国際機関(UNODC, UNAIDS, UNESCAP)や日本のNPOなどでインターン・コンサルタント・国際スタッフとして契約ベースで勤務。帰国後、千葉の財団法人、海外職業訓練協会にて、APEC・ASEAN域内諸国を対象とした、人材育成フォーラムや技能研修などの研修事業に携わった。2008年2月ワールド・ビジョン・ジャパン入団。2010年10月より2016年6月まで人身取引対策事業のためにカンボジアに駐在。日本に帰国後、支援事業部 開発事業第1課配属。2021年9月より休職(別組織より南スーダンに赴任)。日本に帰国後、2023年10月よりワールド・ビジョン・ジャパンに復職。
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