先日ある俳優さんのインタビュー記事を見ていたら、「僕は九州の田舎で育ったので、子どものころは田んぼの中で頭の中の想像の敵と戦って遊んでいました。今(俳優の仕事は)その時の経験が生きているんですよ」と話していました。
今や注目の若手の二枚目俳優の方が、子どもの頃に田んぼの中でキックしたり、走り回ったりしている姿を想像してにんまりとしながら、「でも私も、子どもの頃は想像の世界で大いに楽しんでいたなぁ‥」としみじみと考えてしまいました。
家にあった風呂敷におもちゃを包んで弟と旅に出る旅ごっこ。途中で大きな波にのまれる想定で、「波が来るぞ!!」とお布団の中に潜り込んで「波」をやり過ごしたり。当時住んでいた古い家の子ども部屋は当時の私の目には本当に彩り鮮やかな、大きな空間でした。そして新しい働き方を求められた3月以降は、まさにこの想像力が本当に私の仕事に大きく役に立っているなと思っています。
ベトナム出張から帰国、在宅勤務へ突入
新型コロナウィルス対策のため私の所属する部署が一斉に在宅勤務になったのが今年の3月ですが、3月は私がここ数年温めてきたベトナムの新事業(人身取引予防事業)がようやく開始した月でもあります。ちょうど署名式のため2月末にベトナムへ出張して帰国した時には在宅勤務が始まっていました。そのまま先の見えない在宅勤務へ突入。
私たちの仕事は事務所にいてもスカイプやZOOM、メール、時にはLINEなどの機能を駆使して、現地のチームとやり取りすることがかなりの割合を占めるため、在宅勤務になっても仕事のやり方に大きな変化はなかったのですが、一日中一人で、コンピューターに向かって話をする生活は特に始めは大変疲れました。
真黒いブラックボックスに向かって話をしているようで、言葉と一緒にエネルギーも底の見えない闇に吸い込まれるような感覚があり、一日が終わると本当にぐったりと疲れ果てる毎日。現地のネット環境は安定していないことが多いため音声のみで、また国内でのやりとりも最初は皆ビデオを切って会話をすることが多かったことも一因かもしれません。
事業開始式へのリモート参加
そんな中、6月半ばに現地でようやくカウンターパートの政府の役人などを招待して、半日事業開始式を行うことになりました。もちろん事業地へ出張することはできないため、ZOOMでの参加になります。私は冒頭のあいさつと事業紹介をすることになっており、話をする際には会場のスクリーンに顔が映るといわれていました。私は勝手に会場の方にもコンピューターのカメラが向けられて、会場の様子が分かるようなイメージでいたのですが、実際には私が見えるのはコンピューターを操作する現地スタッフの顔のみ。
そして式が進むと現地の事業部長より「次は質疑応答なので、事業についての質問対応はよろしく」と、突然のムチャブリ(!)。私はしみじみとコミュニケーションというのは言葉だけではなく、話す相手の表情や、その場の雰囲気からたくさんの情報を受け取っていて、それに応じて対応しているんだなぁと考えながら、さてこの会場の様子も、話している人の様子も全くわからないままどうやって自信をもって話せばいいのだろうと思ったわけでした。
想像力をフル稼働!
ZOOMでやりとりしているベトナム人のスタッフ(新人)に「会場はどんな雰囲気?」と尋ねてみましたが、もごもごとしたお返事。
そこに「チグサが去年来てワークショップしたところだよ」と横から別のスタッフが助け舟をくれました。そこで「ああ、人民委員会のお隣のあの私営ホテルの会議室か!」と分かりました。それから計画書ですでにもらっていた今回の会議の参加者数(30人)、参加者内訳などを思い出しながら、現地で出会った政府のお役人の顔を一人ひとり思い出していきました。
背が高く、体格も良い、郡政府ナンバーツーのK氏(オードリーの春日に似ている)、どうしてもあの漫画のスネ夫をほうふつとさせるS氏、強面の公安職員T氏。会場の正面にはホーチミン氏の銅像があって、参加者は前回の会合の時のようにコの字型に座っていて・・。だんだん目の前に現場の情景が広がり、自宅の椅子に座っていても、気持ちはディエンビエン省の会議室に飛んでいくことができました。
その後に投げられた質問は、言葉の壁もあり意を汲んで返答しなければならないポイントもありましたが、あの人であればここはもうちょっと説明しなければダメかなとか、今の質問はきっとこういう意味だなとか想像力を働かせながら一つ一つ回答することができ、無事懸案のQ&Aセッションは終了しました。
今回はコロナ禍での少々特殊な状況でのことでしたが、私たちの仕事は(ほかの職種も同様でしょうが・・)往々にして想像力を求められることが多いなと思います。特に今は日本をベースに仕事をしているので、一日の半分くらい心はベトナムです。自宅の窓から見える東京の住宅街のアスファルトを眺めながら、これまで何回も訪ねたベトナム山岳地帯を思い出して、心を飛ばして、この教材は現地のあの女性グループには難しすぎるのではないか・・とか、このスケジュールではペースが速すぎて実際に活動するには無理があるな‥ということを考えています。
在宅勤務の生活にも慣れ、当初のように先が見えず、疲れ果てることもなくなりましたが、相変わらず自分が現地の女性だったら・・など想像しながら、まだ一度も顔を合わせたことない現地のスタッフとほとんど声のみで会話をする毎日です。近いうちにまた実際に現地を訪れる日が来て、緑に囲まれたディエンビエンの山間を歩けることを切実に待っています。
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・3分でわかるベトナム ~ベトナムって、どんな国?~
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WVJは厳しい環境に生きる子どもたちに支援を届けるため、11月1日~12月28日まで、3000人のチャイルド・スポンサーを募集しています。
この記事を書いた人
- 東北大学大学院修士課程修了後、私立高等学校にて英語講師として勤務。その後タイ王国チュラロンコン大学大学院タイ研究講座を修了。タイの東北地方の農村にて調査・研究を行い、NGOと女性の織物グループの形成をジェンダーの視点から考察した。2003年から2006年までの3年間、タイの国際機関(UNODC, UNAIDS, UNESCAP)や日本のNPOなどでインターン・コンサルタント・国際スタッフとして契約ベースで勤務。帰国後、千葉の財団法人、海外職業訓練協会にて、APEC・ASEAN域内諸国を対象とした、人材育成フォーラムや技能研修などの研修事業に携わった。2008年2月ワールド・ビジョン・ジャパン入団。2010年10月より2016年6月まで人身取引対策事業のためにカンボジアに駐在。日本に帰国後、支援事業部 開発事業第1課配属。2021年9月より休職(別組織より南スーダンに赴任)。日本に帰国後、2023年10月よりワールド・ビジョン・ジャパンに復職。
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