前回から引き続き、11月のフィリピン出張中に出会った人々を皆さまにご紹介します。
今回は、とある母子家庭についてです。
30代半ばのお母さんと4人の子どもの家庭です。お父さんは数年前に内臓にできた急性の潰瘍によって亡くなりました。 生活は非常に厳しく、月収は、村内で洗濯や掃除の仕事をして得られる275ペソ(約550円)だけです。他に政府から支給される教育・保健手当がいくらかあるようで、何とか生活できているとのこと。
長女は高校に進学していますが、次女は家計を助けるために他の家庭で家事手伝いをしており、進学はあきらめたそうです。10歳になる長男はチャイルド・スポンサーシップの支援を受けています。さらにこの下に乳飲み子がいます。
今年度の活動の一部として、ワールド・ビジョンは、支援地の中でも特に貧しい家庭に対して、トイレの設置を支援しました。この母子家庭は支援対象となった20家庭のうちの1つです。現地スタッフと私は、トイレの使用状況や他にどのようなニーズを抱えているのかを把握するために、このご家族にインタビューをしました。
インタビューの間、赤ん坊を胸に抱きながら、お母さんは終始にこやかに応対してくれました。トイレも綺麗に使用されており、「もう家の周りの茂みで用を足す必要がなくなった」と、この支援について非常に喜んでいる様子でした(トイレがないということは、伝染病が蔓延する原因となったり、特に女性にとってはプライバシーや安全が確保されなかったりという問題を生みます)。「生活は貧しくとも、笑顔でたくましく生きているんだな・・・」と、私も少しほっとしました。
しかし、ある質問をしたときに、お母さんの表情が一気に変わりました。それは、「これから先のことが心配になるときはありますか?」と尋ねたときでした。それまで穏やかに話していたお母さんは急にすすり泣き始め、「はい」と、か細い声で答えました。
「あんな質問をするなんて、おれは何て配慮が足りないんだろう・・・」
たった今発した言葉を撤回したい気持ちになりました。
しかし、同時に、「貧しくても笑顔でたくましく生きる人々」という美しいフレーズだけでは終わらすことのできない現実を、一瞬垣間見た気がしました。さっきまでのにこやかな表情を取り戻そうとしながら、お母さんは、「子どもたちには自分と同じような苦しみは味わってほしくない」と語りました。
いつの間にかもう12月中旬・・・日本でも街中がきらびやかなイルミネーションで飾られ、クリスマスムード一色ですね。
フィリピンではなんと9月から(!)クリスマスムードになるようで、私が出張に行ったときにもクリスマスの飾りや音楽を見たり聞いたりしました。私がサマールADPで出会った一人一人にとっても、この季節が幸せを感じるひとときであってほしいと願います。そして、幸せなひとときは、できれば誰かと一緒に共有したいですよね。
「サマールで暮らすチャイルドたちは、きっと日本のスポンサーの皆様から届いたクリスマスカードに目を輝かせているんだろうな・・・」
そんなことを考えながら、近所のスーパーでフィリピン産バナナを手に取る、師走のある日でした。
いっしょに幸せになろう。チャイルド・スポンサーシップ
※12月4日、台風24号(英語名:Typhoon Bopha)がフィリピン南部のミンダナオ島に上陸し、甚大な被害をもたらしました。これに対し、ワールド・ビジョンは緊急援助として、食糧、毛布、防蚊ネット等を被災地で配布しています。なお、サマールADPの支援地では、この台風による深刻な被害は報告されておりません(12月11日現在)。
この記事を書いた人
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東京外国語大学英語科を卒業。民間企業勤務を経て、青年海外協力隊としてボリビアに赴任。帰国後、日本貿易振興機構アジア経済研究所開発スクール(IDEAS)で学ぶ。
2012年にワールド・ビジョン・ジャパンに入団。2017年から2021年までカンボジアに駐在し、日本政府、企業、個人のご支援による複数事業の管理に従事。
現在、スペイン語通訳として地域の学校等でも活動。保育士。防災士。
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