【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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ONE TEAM

We are ONE TEAM:ドナーの皆さま、WVカンボジア、WVJスタッフと(中央が筆者)

We are ONE TEAM:ドナーの皆さま、WVカンボジア、WVJスタッフと(中央が筆者)

バキッ!
何かが折れる音が、僕にも聞こえるようだった。
目の前で、クラスメイトが顔を覆いながら悶絶する。
そして、教師や友人に担がれながら、救急車で運ばれていく。

終わった・・・浪人だ・・・
センター試験が終わってほんの数日後、僕のクラスメイトは校内行事のラグビー大会中に見事に散った。

僕が通っていた高校は男子校。
春は暗闇の体育館に閉じ込められ、応援団から名指しで校歌の指導を受け、夏は伊豆の海で遠泳、秋は強歩大会(52㎞マラソン)、そして冬はラグビー大会が伝統行事の激熱な場所だった。

入学して間もない頃、ある教師が言った。
「ここに6列机が並んでいる。このうち現役で進学するのは2列、残りは浪人・・・」

「先生、ラグビーで顔面骨折して浪人するなんて・・・そんなこと、聞いてませんよ!」
校庭で負傷したクラスメイトの無念さを思いながら独り言をつぶやく。
僕自身もその1カ月前、体育の授業中、サッカーで脳震盪を起こし、一晩入院し、せっかく覚えた英単語と世界史の偉人の名前がぶっ飛んでいた。

本場イギリスではこう言うらしい。
「ラグビーは紳士のやる野蛮なスポーツ。サッカーは野蛮人のやる紳士的なスポーツ」

「紳士か野蛮人かしらんけど、受験中にラグビーだけはしたらあかん!絶対あかん!」
本場大阪出身の母親の声が聞こえるようだった。
ラグビーは僕にはできないスポーツだと確信した。

あれから17年後の2019年秋。
僕は駐在中のカンボジアで、完全に「にわかラグビーファン」へと変貌していた。
周りのカンボジア人の同僚はラグビーW杯には全く関心がない。
たぶん日本でそんな大会が開催されているなんて知らない。
いくらチャンネルを回しても、「笑わない男」の勇姿は映らない。
プノンペン市内のスポーツバーなら、絶対に観れる!行きたい!と思いつつも、妻の顔が怖くて言い出せない。
腕の中では9月に生まれたばかりの三男がすやすやと眠り、長男と次男はその周りでわちゃわちゃしている。
だめだ、今ここでスポーツバーに行ったら、僕も家族も恐ろしいことになる・・・

同じアパートに住むイングランド出身のおじさんが、「これからバーで日本対スコットランドを観てくる。ちなみにこのTシャツ、気に入ってるんだけど、何て書いてあるんだ?」と聞いてきた。
Tシャツには「雷おこし」の文字。
おじさん、僕の分まで楽しんできて・・・

でも、今の時代、インターネットがあるから本当に助かる。
YouTubeでハイライトを(時々フルバージョンを)観ながら、ネットに溢れる熱狂と感動の記事を読みながら、「この感動は一生に一度だ」というフレーズに心底共感しつつ、僕はカンボジアで、一人、盛り上がっていた。
ラグビー日本代表の姿は、僕の中で勝手に「なりたい男」ランキングの最上位まで一気に駆け上った。

ONE TEAM

この言葉と、それを文字通り体現する Brave Blossoms の姿に、多くの日本人が感銘を受けた。
人は、皆で何かをやり遂げたとき、「一体感」を感じるとき、そして自分自身がその輪の中に存在し、居場所があると実感するときに、この上ない喜びを感じるのではないだろうか。

“ONE TEAM” がこれほど多くの人々に支持された背景には、もしかすると、私たちの多くが、職場、友人関係、あるいは家庭において、”ONE TEAM” を経験することが難しいと感じている、そんな現実があるからではないか・・・なんて、まじめなことも考えたりした。

ワールド・ビジョン(以下WV)は約100カ国で、宗教、人種、民族、性別にかかわらず、すべての子どもたちが健やかに成長できる世界を目指して活動している。
全世界で約39,000人のスタッフが奮闘し、チャイルド・スポンサー(支援者)を紹介されている子どもの数は約300万人もいる。
日本だけでも、48,000人を超えるチャイルド・スポンサーがいて、2,800を超える企業団体と連携させていただいている。
ものすごいことだ。
「”何もかも”はできなくとも、”何か”はきっとできる」という創設者ボブ・ピアスの思いが、約70年後の現在、ここまでの大きな広がりとなった。

私たちは ONE TEAM だろうか?
ONE TEAM になれるだろうか?
ONE TEAM となったとき、どんなに大きな変化や喜びを、子どもたちの人生にもたらすことができるだろうか?

大切なことは、これまで日本で、世界でお会いしたお一人おひとりが教えてくれた。

まだ歩道には雪が残る旭川で、WVカフェ(報告会)に参加するため、バスではなく、わざわざ徒歩で来てくださったシニアの男性。
「徒歩の方がいいんですよ。浮いたお金は募金できるし、健康にもいいからね」と、笑顔で語っていた。

雨降りの日曜日。沖縄でのWVカフェ前に訪問した教会で、牧師先生の奥様(韓国人)が礼拝後にそっと教えてくれた。
「ここに今日来ていた子どもたちの中には、ネグレクトで苦しんでいる子もいる。お預けした募金はささやかですけど、世界の子どもたちへの気持ちがこもっています」と。

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タンザニア では、かつて国を代表するマラソンランナーであり、東京でも走ったことがある男性が、HIV陽性者として、同じく陽性者である妻や他の住民と共に自助グループを組織し、団結し、助け合いながら暮らしていた。WVも彼らと共に歩み、収入向上活動を支援していた。

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ルワンダ では、かつて自分の家族を殺した隣人と肩を組み、毎日、お互いの家を行き交い、それぞれの庭先に植えた「平和の木」に水をやる2人の姿を目の当たりにした。

「愛する家族を殺した人を赦し、共に隣人として生きるなんて、そんなのできっこない」と、心の中で本当は思っていた僕には、目の前の光景が信じられず、でもそれは紛れもない事実として存在していた。

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カンボジアでは、キリスト教主義に基づくWVが、仏教の僧侶やイスラム教の指導者を一堂に集め、子どもたちを虐待、性的搾取、児童労働等から守り、彼らが家庭や地域で愛されながら育つために、共に何ができるかを真剣に考え、実行へと移している。たとえ信じる対象や教えが異なっていても、僕たちは「すべての子どもに豊かないのちを」という一点で、一致することができる。

カンボジアで開催された、チャイルド・プロテクション(子どもの保護)について話し合うフォーラムに集まった地域のリーダーたち

カンボジアで開催された、チャイルド・プロテクション(子どもの保護)について話し合うフォーラムに集まった地域のリーダーたち

現実の世界の姿は、WVの姿は、自分自身の姿は、ときに理想とは程遠く、しょぼくて、残念で、怒りすら感じてしまうものかもしれない。

でも、理想は常に高く掲げたい。
忍耐強く、あきらめ悪く、今よりも次、今日よりも明日、少しでも良くしようと努力を続けていれば、きっと1ミリずつでも理想に近づけるはずだから。
そして、決して一人ではなく、世界中にいる仲間と一緒に歩めるのだから。

僕らはONE TEAM。
一人ひとりの子どもが、豊かないのちを、心ゆくまで生きられるように。

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この記事を書いた人

松岡拓也支援事業第1部 人道・開発事業第1課 課長
東京外国語大学英語科を卒業。民間企業勤務を経て、青年海外協力隊としてボリビアに赴任。帰国後、日本貿易振興機構アジア経済研究所開発スクール(IDEAS)で学ぶ。
2012年にワールド・ビジョン・ジャパンに入団。2017年から2021年までカンボジアに駐在し、日本政府、企業、個人のご支援による複数事業の管理に従事。
現在、スペイン語通訳として地域の学校等でも活動。保育士。防災士。
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