ワールド・ビジョン・ジャパンは、アッパーナイル州ファショダ郡で、初等教育と水衛生に関わる活動を行っている。
この場所は、帰還民の数も多く、子どもたちもたくさんいる。小学校はいくつか存在するのだが、地域に住んでいる子どもたちの全員が学校に通っているかというと、そうではない。
昼間に支援地を歩いていると、お茶屋さんでお茶を出していたり、市場で野菜を売っていたり、水を川から汲んで運んでいるような子どもたちがいっぱいいる。「どうして学校に行かないの?」と何気なしに尋ねたら、「楽しくないから」「仕事をしないと生きていけないから」などなど、たくさんの理由が出てくる。
私は、そういう状況におかれた子どもたちの環境を変えていくのは、そこに住む南スーダンの人々で、私たちができるのはできる限りの手助けすることだけだと思っている。
ただ、人々が環境を変えていくには、まず気づきが必要な時もある。
教育に関して言えば、教育を受けることが子どもにとってどれほど大切なことかを、知らない人々もいる。日々の生活を生き延びるために、子どもたちは働き手として重宝されているし、また女の子は、結婚する時に持参金として家畜を送る習慣(ダウリー)があるため、家の資産を増やすためのアセットと捉えられているケースもある。
私たちの事業の中では、支援地の大人と子どもたちが、教育を受けることが大切であることを認識してもらうために、啓発活動を行っている。
先日行った啓発活動の中で、子どもたちの何名かに、彼らの夢は何かとインタビューをした。「夢がない」という現代風な回答が来たらどうしよう…と半ば不安だったのだが、
「政治家になりたい」「先生になりたい」「お医者さんになりたい」などと、皆それぞれ答えてくれた。
その中でも、一番心に残っているのは「村人になりたい」という男の子だった。
彼が少しためらってから、「村人になりたい」といったときに、聞いていた周りの人々は大笑いしていたのだが、私は少しハッとさせられた。
もしかすると彼は、夢がないから、仕方なくその辺の普通の人、という意味で答えてくれたのかもしれない。そうだとしても、その「普通の人」になりたい、という「普通の考え」が子どもたちに育まれていることが、私にとって素直に新鮮だったのだと思う。
長い長い内戦を経て独立した国で、まだまだ生きることに精いっぱいな人ばかりの中、「軍人になりたい」とか、「お金持ちになりたい」と極端に思う子どもたちだっていっぱいいるかも、と私は勝手に想像していたのだが、その中で、普通に村人でよい、というその子の答えは、私の想像を良い意味で裏切るものであり、コミュニティに根付き始めた平和の象徴のように思えた。
自分の中にある南スーダンへの思い込みと、コミュニティの人々の歩みに気付かされた一日だった。
この記事を書いた人
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イギリス、マンチェスターメトロポリタン大学にて政治学部卒業。
大学在学中にWFP国連世界食糧計画にてインターン。
2010年9月より支援事業部 緊急人道支援課(旧 海外事業部 緊急人道支援課)ジュニア・プログラム・オフィサーとして勤務。2012年9月よりプログラム・オフィサーとして勤務。2016年7月退団。
趣味:読書、映画鑑賞、ダイビング
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