【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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人の心に平和の種を撒く

2022年10月からワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)の支援事業部で働いています、千葉美奈です。今回のブログでは、私がWVJに入団するまでの道のりについてお伝えしようと思います。

皆さんは子どもの頃、将来、何になりたかったでしょうか。私は、飛行機が好きだったので、パイロットかCAになりたかったです。
ですが、それと同時に心のどこかで気になっていることがありました。
それは、私の父が広島の出身で、祖母が被爆しているということでした。

被爆者の孫として。でも、いったい何ができる…?

広島に原爆が投下された日、祖母はまだ独身で、爆心地からかなり近い広島逓信局に勤めていました。祖母は、爆風に吹き飛ばされて大怪我を負いましたが、当時では珍しい鉄筋コンクリートの建物の中にいたため、九死に一生を得ました。外に出ると、そこはまるで地獄のようだったそうです。祖母が川をつたってなんとか家に戻ってみると、祖母の母は家の下敷きになっており、翌日に亡くなりました。祖母は原爆を生き延びましたが、それから何十年経っても被爆の傷跡は心に残っていました。「水が欲しい、水が欲しい」と言って亡くなったお母さんの仏壇に、祖母はいつも欠かさず水を備えていましたし、蛍光灯が付くときのピカっとする光や雷が苦手でした。原爆投下時の閃光を思い出すからです。

私は子どもの頃、祖母から送られてきた原爆をテーマにした絵本の絵が怖すぎて、その本をまともに見ることもできませんでしたが、祖母の体験を聞くたびに、平和の大切さについて考えずにはいられませんでした。祖母たちの体験が風化していった時、同じことが繰り返されるのではないかという恐れと、被爆者の孫として、自分はただ世界の出来事を傍観して流されていくだけで良いのかと自問自答していました。もちろん、広島にはこうした被爆体験のある方のご家族は多くいらっしゃると思いますが、私は大阪に住んでいたので、自分が被爆者の家系であるという事実が特別に思えたのかもしれません。

けれども、だからと言って具体的に何をすれば良いのかはわからず、大学生になっても進路について迷走していました。この頃、打ち込んでいたことといえば、部活とせいぜい語学の勉強くらいだったように思います。どうしたら世界が平和になるかなんてわからないし、一人でできることはたかが知れている。自分の存在はあまりにも小さく、自分はただの理想主義者なのかな…と思うこともありました。

WVJスタッフリトリートの新人紹介で学生時代の部活動について話す筆者

WVJスタッフリトリートで学生時代の部活動について話す筆者

戦争は人の心の中で生まれる

迷走し続ける中でヒントを与えてくれたのは、1945年に発行された「国際連合教育科学文化機関憲章」(ユネスコ憲章)でした。ユネスコ憲章の前文には、「戦争は人の心の中で生れるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」とあります。そして、この憲章は、戦争を繰り返さないためには、人間の尊厳・平等・相互の尊重が不可欠であることを指摘しています。私にとって、この捉え方は、とても腑に落ちる内容でした。

戦争をなくすために人の心にアプローチしていくという考えは、青年海外協力隊として、中米やアフリカの開発の現場で活動する中でさらに強められました。現地の人々と一緒に、不平等や格差をなくすために、ひとつひとつ課題に取り組んでいく。そして、社会にともに変革をもたらすというところに、希望があると思いました。特に、子どもたちには、格差や理不尽な環境に絶望するのではなく、希望を持てる環境を作りたい。そうした環境は、他者を思いやったり、尊重したりするために不可欠な土壌だと思います。

難民キャンプで暮らすロヒンギャ* の子どもたちから話を聞く筆者(ジェンダーに基づく暴力軽減を目指す啓発センターにて)

難民キャンプで暮らすロヒンギャ* の子どもたちから話を聞く筆者(ジェンダーに基づく暴力軽減を目指す啓発センターにて)

身近な日本の話を挙げると、少し前に、経済的・社会的に脆弱な立場にある人々を差別するような著名人の発言を耳にしたことがあります。その発言の理由は、「自分がいじめられている時に、誰も助けてくれなかったから」というものでした。つまり、誰も自分が助けを必要としている時に関心を示してくれなかったから、自分も他人に関心を持たないし助けないという考えなのでしょう。その考え方の是非はともかくとして、もし誰かがその時、彼に手を差し伸べていたら、もしかしたら彼の心の在り様は今頃違っていたかもしれないとも思うのです。

私の使命は、その逆の循環を作り、人の心に平和の種を撒くことだと考えています。「人は優しい、社会は温かい」と心から思えれば、人は互いを赦し合えるのではないでしょうか。ワールド・ビジョンのミッション・ステートメント** は、こうした私の思いを代弁してくれているかのようだと感じました。紆余曲折ありましたが、最後は本当に不思議なくらい自然とワールド・ビジョンに導かれたと思っています。

無慈悲、憤り、怒り、叫び、そしりなどを、いっさいの悪意とともに、みな捨て去りなさい。
お互いに親切にし、心の優しい人となり、神がキリストにおいてあなたがたを赦してくださったように、互いに赦し合いなさい。
エペソ人への手紙 4章 31-32

このエペソ人への手紙は、使徒パウロがローマでの最初の獄中生活の間に、世のすべての人々に宛てて書いたもので、すべての人々に対しての訴えであると言われています。

この聖句でパウロが言っているように、いっさいの悪意を捨て去るということは、人間にとってとても簡単にできることではありません。ですが、ワールド・ビジョンの活動をとおして、諦めずにこのパウロの求めに応答していきたいと思っています。

 

* ロヒンギャ:現在のバングラデシュ・チッタゴン地域の方言に近い独自の言語文化を持つ民族。その多くがイスラム教を信仰し、ミャンマー・ラカイン地方に多くが集住している。しかし、ミャンマー政府の公式見解は「ロヒンギャはバングラデシュからの不法移民である」というものであり、激しい迫害を受けてきた。バングラデシュ南東部にあるコックスバザール県には、世界最大の難民キャンプであるロヒンギャ難民キャンプがある。2017年8月以降にバングラデシュに逃れた難民の数は100万人を超え、未だにミャンマーへの帰還の道筋は立っていない。

** ワールド・ビジョンのミッション・ステートメント
ワールド・ビジョンはキリスト教精神に基づく国際的なパートナーであり、イエス・キリストにならい、貧しく抑圧された人々とともに働き、人々の変革と、正義を追求し、平和な社会の実現を目指します。

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ワールド・ビジョン・ジャパンは、緊急支援から復興への取り組みまで”今、最も必要な支援”を子どもたちに届けます。厳しい環境下で避難生活を強いられている子どもたちを守り、回復を支え、未来を築くために、難民支援募金にご協力ください。

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この記事を書いた人

千葉美奈支援事業部 プログラム・コーディネーター
早稲田大学法学部卒業、メルボルン大学大学院国際政治学修士課程、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士課程修了。博士(Ph.D)。民間企業勤務を経て、青年海外協力隊として中米・ベリーズおよび西アフリカ・ベナンにてコミュニティ開発に携わる。早稲田大学地域・地域間研究機構にて研究院講師として勤務し、国際開発協力に関する研究と教育活動に従事。2022年10月にワールド・ビジョン・ジャパンに入団。主に、バングラデシュにおけるロヒンギャ難民への支援事業を担当。
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