今年4月、少数民族が多く住む、ベトナム北部の山岳地域を訪れた。首都ハノイから飛行機で約1時間、そこから車で3時間のところに、ワールド・ビジョン(WV)の事業地がある。
村の集会所では、多くのお母さんたちが、栄養のあるおかゆの作り方を学んでいた。穀類だけでなく、タンパク質や野菜など複数の食材を組み合わせることで、おかゆでも栄養価の高い食事になる。食材も地域で調達できる。お母さんたちは、それを実地で学んでいた。

栄養価の高い料理の作り方を学ぶお母さんたち
おかゆが出来上がるころ、隣の部屋が騒がしくなった。元気な子どもたちが大勢集まっていた。彼らは料理を習っていたお母さんたちの子ども。皆、口や鼻をおかゆでベタベタにしながら、おいしそうに食べている。お母さんたちは、その姿を目を細めて見つめていた。

できたてのおかゆを食べる子どもたち
子どもたちの食事が終わると、村の保健スタッフによる講義が始まった。多くの人たちが、村の中心地にある保健センターから10キロ以上離れた場所に住んでいるため、日常的なけがや病気は家庭で応急処置ができるように基礎知識を伝えている。また、母乳育児や妊娠中の検診の重要性を伝え、定期的に保健センターで受診することも勧めている。

栄養クラブで保健の講義をする保健スタッフ
保健センターに行くことが難しい人々に対する保健のアウトリーチ活動や、栄養に関する知識を普及する「栄養クラブ」の活動は、WVがベトナムの500カ所以上で行っている。
お母さんたちは、子どもたちのために、少しでも栄養のある食事を作りたい一心で十数キロも離れた場所から、栄養クラブに足を運んでいる。子どもに栄養のある食事を食べさせたい、より良い教育を受けさせたいなどの願いは、世界中の親に共通するものであることを、一人の母親として再認識した。
アフガニスタン駐在の際に出会ったアフガニスタン人は、「紛争のため、文化のため、自分は教育を受けられなかったけれども、たとえ女の子であっても、子どもにはより良い教育とより良い未来を与えたい」と、真剣な思いを語った。

事業地があるベトナム・ディエンビエン省に住む女の子。あどけない笑顔が可愛らしい
≪まずは5歳まで生きられるように≫
しかし、教育を受ける以前に、5歳の誕生日すら迎えられずに、命を落とす子どもたちが世界にはまだ大勢いる。その数は、年間660万人。1日当たり、実に1万8,000人以上の子どもたちが命を落としているのが現実だ。しかもやりきれないことに、これらのほとんどが、安価で簡易な予防や対策で救えるはずの命なのである。
私たちは、この現実をただ傍観するしかないのだろうか。

ディエンビエン省に暮らすお母さんと赤ちゃん
答えはNOだ。基本的な衣食住に恵まれ、基礎的な教育を受け、インターネットを通じて世界中に発信できる私たちには、自分たちが思う以上にできることがある。
まずは世界の状況を知って周りの人に広めること。さらに、その状況を改善するために一歩を踏み出すこと。
その一歩として、ワールド・ビジョン・ジャパンでは、「命の木プロジェクト」を実施している。2000年に国連ミレニアム開発目標(MDGs)で約束された5歳未満の乳幼児死亡率を2015年までに1990年の3分の1に下げるという目標の達成を目指すもので、趣旨に賛同した方々から、「子どもたちの命を救いたい」という思いを込めたメッセージや写真などのアクションを募集し、それらを国連総会に出席する日本政府に政策提言書とともに提出する。
5歳まで生きられれば、多くの子どもたちが大人になるまで生きていけることから、プロジェクトは「世界の子どもたちにまず5歳までの命を」と訴える。
政策決定者の決断に影響を及ぼし、政策を変えることは容易ではない。しかし、私たち一人ひとりが世界の課題解決のために行動を起こし、一丸となって政府に働きかけることで影響力が強まり、政策の改善につながり、より良い世界が創られる。どこに住んでいようとも、全ての子どもたちがまずは5歳まで生きられる世界を創るために、ぜひ、皆さんの力を貸していただきたい。
(広報アドボカシー課 課長 柴田哲子)
この記事はワールド・ビジョン・ジャパンの柴田スタッフが執筆し、2014年7月16日付SANKEI EXPRESS紙に掲載されたものです。

事業地の子どもたちと筆者
この記事を書いた人

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