「うっ…」
8月のある日、運ぼうとしたモノが予想以上に重く、思わずうめき声をあげた。
モノを運ぶ先までは10mもない(おそらく7mほど)のだが、遠い。遠すぎる…。
こんにちは、コミュニケーション課の加藤早紀です。
先日、グローバル教育での講師派遣に同行し、子どもたちと一緒に水汲み体験をしました。グローバル教育は、日本の子どもたちが世界の現状をよく理解し、積極的に国際協力に参加していくことを願い、小学校・中学校・高校向けに実施している教育プログラムです。
今回は学校ではなく、目黒にあるE-Parkという場所で開催される「夏休み自由研究ゼミ」の一コマとして、 世界の子どもたちの暮らしを紹介する機会をいただきました。その中で、ケニアに暮らすチャリちゃんという女の子の生活を紹介する紙芝居と、水汲み体験を行いました。冒頭の「うっ…」は、その水汲み体験の準備時にもらした声でした。
では、ご紹介します! 運ぼうとして思わず声が出たモノはこちら、ウガンダで実際に水汲みに使われていた「水タンク」です。22リットルの水が入ります。
22リットル=22kg。とても重いのです。しかし、学生時代チアリーディングをやっていた私は「人間より軽いから余裕で持てる」と思い込んでいました。
冷静に考えると、最近私が持ったものの中で一番重かったのは大きなキャベツ2玉でした。私の日常生活では、22kgよりずっと軽いものでも「重い」と感じているのだと思い当たりました。
水を汲んだ場所から、水汲み体験をする場所まで約7m。持ち方では重さは変わらないとは思いつつ、①腕をまっすぐにして体を傾けて運ぶ ②腕の力で持ち上げてみる 等、なんとか軽く感じる方法を模索しながら何度も持ち直しながら目的地にたどり着きました。
途上国の子どもたちが水汲みのために歩く平均距離は6kmだと言われています(皇居1周:5kmより長い!)。往路はタンクが空で軽いのですが、復路は水が入って重くなります。
22kgの衝撃冷めやらず、水汲みの大変さを伝える
イベントの準備段階ですでに若干疲れを感じつつ、いよいよイベント開始。松本スタッフに世界の子どもたちの概要を話してもらってから、私が担当する紙芝居の時間がきました。家で何度か練習をしたお話ではありましたが、22kgの衝撃の後では私自身、お話のとらえ方がまったく異なりました。
セリフ:「ケニアのチャリちゃんは、1日に2回、近所にすむ子どもたちといっしょに水をくみにでかけます」
心の声(川が干上がってしまっているけれど、この川があれば6kmも歩かなくていいのかな)
セリフ:「6kmのけわしい道を3時間半かけて歩きます」
心の声(ケニア出張で訪問した支援地に行く道、道がなかったな。道がない道を歩むことも、まわりのお友達と距離があいてしまうことも心細いだろうな)
セリフ:「そして、やかんのふたで少しずつ水をすくいました」
心の声(ふた…これでやかんを満たすのはどれだけ時間がかかるんだろう、しかも水は茶色。私がさっきホースから22リットル汲むのも時間がかかったな…しかも透明な、きれいで安心して使えるお水)
紙芝居のセリフを読みながらチャリちゃんの大変さを想像し、文字通り心が引き裂かれる思いでした。
いざ水汲み体験時間。新たな気づき
このように心の中に様々な想いが飛び交う中で紙芝居を読み終えて、子どもたちの水汲み体験の時間に。事前の準備の際、松本スタッフに「子どもたちが足の上の水タンクを落とさないように配慮しましょう」と教わっていたので、「22kgを子どもの足に落としてはいけない、落ちかけたら落ちる前にキャッチしなければ」と、常に水タンクの近くでそわそわしていました。
そして、子どもたちが運ぶ時に私に新しい気づきがありました。子どもの身長では水タンクは、肘を曲げないと持ち上がらないのです。
先ほど、なんとか軽く感じられるようにと、水タンク運びに2つの方法を試したとお伝えしました。そのうちのひとつ、腕をまっすぐにして体を斜めにする、というのは、小学生の身長と水タンクの大きさではとても難しい(できない)ことだったのです。
参加してくれた子どもたちも、はじめは片手で持つこの方法を試していましたが持ち上がらず、足の間において両手で持ち上げていました。腰をそらせて持って、危険を感じたのか肘を曲げて、腕の力で持ちあげて。しかし、そこまで腕力があるわけではないので、すぐに地面に下ろします。しかし、この水汲み体験のポイントは持ち上げることではなく、それを運ぶこと。持ち上げるだけでも一苦労なのに、それを持って歩かねばならないのです。
なんとか運ぼうとして、少し引きずってみたり。会場は芝生だったので引きずっても水タンクには傷がつきませんが、これがケニアだったら。家に帰りつく時には底に穴が開いて、せっかく汲んだ水がすべてなくなっているでしょう。
道なき道を、6km歩くということ
この時子どもたちに体験してもらった距離は、2mもありませんでした。しかし、実際には6kmもの道なき道を、歩むのです。その道は舗装されておらず、道しるべもなく、足元もウォーキングシューズではない、サイズの合っていないサンダルなどです。誰か(人間に限らず、野生動物の可能性も…)に襲われても、自分たちで身を守るしかない道のりなのです。
以前、6kmを歩いて子どもたちに想いを馳せるイベントに参加したことがありました。自分の好きな時に、好きな場所で6kmを歩く、というものだったので私は家から3km先にある少しおしゃれな街まで歩くことにしました。いつも自転車か電車で行く場所なので、はじめの数分は「こんなお花咲いてる~」など、景色を楽しんでいましたが到着時には少々お疲れモードに。復路は電車に乗るという誘惑を振り切るも、のどが渇き、目の前にあったコーヒー屋さんに吸い込まれるように入り、アイスコーヒーを一気飲み。元気になって、復路は往路と異なる道を進んだところ、家の近所のはずなのに迷子に。Google mapのおかげでなんとか家にたどり着きました。分からない道を歩むことの心細さを感じ、すぐに水分を得られるありがたさ、Google mapや水道など、自分の身の回りの物事すべてに感謝する6kmでした。
さて、話はイベントに戻ります。
紙芝居には続きがあります。チャリちゃんが暮らす地域にワールド・ビジョンが来て、支援で地域に水を汲む場所ができました。山中の水源から地域まで水を運ぶ給水パイプを設置し、大きな貯水タンクに水をため、人々はそのタンクから水を汲めるようになりました。チャリちゃんは遠くまで水汲みに行く必要がなくなり、友達と遊んだり、学校に通えるようになりました。彼女は今、お医者さんになるという夢に向かって歩き出しています。
参加してくれた子どもたちからは「こんなに大変とは思わなかった」という声があがり、イベントが始まる前とはまったく違う眼差しで配布したチャリちゃんの冊子を見つめていました。「自由研究ゼミ」を主催する担当者の方からも、「自分自身感じるものが多かった。知ることはとても大事ですね」とお言葉をいただき、手応えのあるグローバル教育イベントとなりました。
誰かの道しるべになれたら…
さて、「最近私が持ったものの中で一番重かったのは大きなキャベツ2玉」と言いましたが、私が実際に持ったのは、キャベツが入ったかごをカートに乗せるまでの1分足らずの間だけで、帰宅時には家族に運んでもらいました。ちょっと困った時に支えてもらえると、困難が解決する以上に、支えてもらったことに心が温かくなりますよね(私の場合はキャベツでそんな大げさな…と思われてしまうかもしれないのですが…)。
国際協力NGOとして、キャベツを持ってくれた家族のように親身になって世界の子どもたちに寄り添い、迷子の私に家路を示してくれたGoogle mapのように将来への道しるべになれたらどんなにすてきだろう。子どもたちがみんな笑顔で豊かないのちを歩めるように、地球のみんなで歩めたら。活動への想いが一層強くなるひと時でした。
マーケティング第1部 コミュニケーション課
加藤 早紀
関連リンク:
・ワールド・ビジョンのグローバル教育
・グローバル教育 教材のご案内
加藤スタッフの過去のブログ:
・私と「29」と未来ドラフト
・クリスチャンではない私が感じる、ワールド・ビジョンの「キリスト教精神」
・「支援地」はどこにあるの?
この記事を書いた人
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世界の子どもたちの健やかな成長を支えるために、東京の事務所では、皆さまからのお問合せに対応するコンタクトセンター、総務、経理、マーケティング、広報など、様々な仕事を担当するスタッフが働いています。
NGOの仕事の裏側って?やりがいはどんなところにあるの?嬉しいことは?大変なことは?スタッフのつぶやきを通してお伝えしていきます。
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