【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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伝統と開発の両立はできる?ベトナムの少数民族の女性たち

仕事をひとことで説明できない

友人に「仕事どう?今何してるの?」と聞かれた場合、答えに窮します。
なぜなら一言では説明しづらいから…。(そういう人は世の中に結構いっぱいいるのではないでしょうか)

「NGOで働いてるよ」「途上国開発の仕事をしてるよ」と説明をしても、事実ではありますが、的を得ないなと思います。少し詳しく「ベトナムの山岳地域で少数民族の女性に対し、人身取引予防の事業をしている」といっても「??(なんかよく分かんないな…)」という反応。まあそれはそうですよね。世の中の人みんなが、国際協力に関心があるわけでもないですし…。

そもそも私が仕事をうまく説明できないのは、開発自体がひとことで説明しにくいからだと思います。
開発援助というと、なんだか一つのゴールに向かって進んでいくイメージがありますが、そうではなく「途上国に暮らす人々の選択肢を広げる」ことが開発ではないかなと個人的に思います。

2022年8月、ベトナムに出張し、北部ディエンビエン省で実施している人身取引防止の事業地に行くことができました。開始から約2年半たち、事業の近況をお伝えします。
(開始時のブログはこちら)

筆者と事業地の子どもたち。ワールド・ビジョンと見るやいなや、元気に集まってきます

筆者と事業地の子どもたち。ワールド・ビジョンと見るやいなや、元気に集まってきます

人身取引予防の活動とは?―女性グループの活動

人身取引というと、大規模なブローカーが国際的に手を引き、闇ルートがあり…という壮大なイメージが浮かぶでしょうか。私も実はそう考えていました。しかし、人身取引は実はとても身近なきっかけで起こります。被害者のほとんどは、いい仕事に就きたい、家族を助けたい、都会へ行ってみたいという誰しもが持ったことのある気持ちを利用されます。近年、その手口は巧妙化しており、インターネットのSNSを通じて、親しくなり友人や恋人のふりをして近づき、騙して強制労働や強制結婚をさせます。

このような被害を防ぐため、ワールド・ビジョンの事業で啓発活動を行っています。どの様な手口でブローカーが誘ってくるか?どのように断るか?誰に相談するか?安全な仕事の探し方は?など様々なことについて学びます。
先生役である村の女性はあらかじめ研修を受け、その内容を村の他の女性に教えます。

人身取引とは何かについて教えている様子

人身取引とは何かについて教えている様子。外部講師ではなく、村の女性が他の女性に教える方式をとっているため、コミュニティ内で持続的に教えていくことができます

実際に、過去に被害に遭った女性2人に話を聞くことができました。彼女たちは、4年前にバス停にある求人広告を見て、良い条件であったために応募をしましたが、その条件は嘘であり、連れていかれた先で性的労働を強制されそうになりました。携帯を取り上げられましたが、もう1台隠し持っていた携帯で泣きながら友人に助けを求めました。その友人が人身取引のホットラインに電話をし、警察が来たため事なきを得ましたが、2人は村へ帰った後も誰にもこの話をせずにいました。4年間誰にも話さず、先日のグループの会合で初めて体験を話したといいます。 今は、女性グループの会合において、他の女性に対し自分の経験を話して、「気をつけなさい、仕事を探すときには十分に情報を集めるように、と言う」と話してくれました。

人身取引予防の活動とは?―世帯訪問(Home visit)

人身取引被害を未然に防ぐためのひとつの方法として、世帯訪問(Home visit)を行っています。経済状況や年齢等から、人身取引の被害に遭いやすい女性の世帯を、同じ村の女性ボランティアが定期的に訪問をします。

世帯訪問を受けている女性。自分の気持ちが話せるようになったといいます

世帯訪問を受けている女性。自分の気持ちが話せるようになったといいます

訪問を受けている女性は、「最初はどのように自分の気持ちを話していいか分からなかったが、何度か訪問されるうちに話せるようになった。私の話を聞いてくれることが嬉しい」と話してくれました。世帯訪問(Home visit)は地道な活動ですが、定期的な世帯訪問によって、人身取引や、危険な出稼ぎに行ってしまう前にその被害を止めることができます。

世帯訪問員が記録をつけているノート。訪問のたびに課題や対応を記録します

世帯訪問員が記録をつけているノート。訪問のたびに課題や対応を記録します

誰にも話せない。だから、被害の把握が難しい

この地域は山岳地帯に住宅が点在しています。農家で生計を立てている世帯が多く、夫が出稼ぎに行っている世帯も少なくありません。そのため1日中ひとりで農作業をしながら子どもを育てる女性が多く、日常的な話し相手がいない等、孤独がこの地域にはあります。また家の中で起きた問題などを他の人に話すような習慣がありません。家の中の問題を他人に話すことが恥という慣習があり、人身取引や家庭内暴力等の被害に遭っても誰にも話さず、ひとりで抱え込んでしまいます。またその被害の内容から他の人には話しにくいという側面ももちろんあります。
公的な支援サービスにつなげると同時に、自分の気持ちを打ち明け、聞いてもらうという精神的な支えのためにも、女性同士で話のできる女性グループや世帯訪問の機会は重要です。

選択肢を広げて伝統と変化を両立させる

活動に参加する女性たちは、活き活きと話し、自分のやりたいことや関心のあることを話してくれました。現地スタッフによれば、「活動を始めた当初は、会合でも誰も話したがらなかった」と言います。今は、女性たちが自分の気持ちを大事にして、それを他の人に話すようになってきているという変化を確かに実感しました。

いくつか世帯訪問を行い、女性に今後何をしたいかと尋ねたところ、「伝統衣装の縫い方を習いたい。伝統を守りながら、暮らしていきたい」と答えていました。てっきり、近代的な暮らしにあこがれを持っている女性が多いのではと思っていた私の予想に反するものでした。たしかに女性たちは美しい伝統衣装を着ていたり、家の中でも民族特有の先祖の祀り方を行っていたりと、伝統的な生活を大切にしていました。

伝統衣装を縫う女の子

伝統衣装を縫う女の子

一方で「家の中の問題を他の人に話さない」「家庭内で何か悪いことや失敗があると、女性のせいだと言われる」など、この地域の慣習がこの地域での人身取引や暴力被害の一因にもなっていると思います。しかし同時に、彼女たちが守ってきた伝統は誇る部分もあります

例えば私やNGOが、勝手にこれは良くない慣習だから変えましょう、などということは開発ではないと思います。大事なことは画一的に慣習を変えてしまうことではなく、この地域の女性たちが、自分たちで変えていくところと守っていくところを考え、彼女たち自身が選んでいけることだと思いました。私たちにできることは、女性たちが考えることのできるスキルや、居場所をサポートして選択肢を広げること

彼女たちが伝統やルーツを大事にしながら暮らしていくその姿はとても素敵だと思いました。

伝統衣装を着た女性たち。とても綺麗ですよね

伝統衣装を着た女性たち。とても綺麗ですよね

この記事を書いた人

野本 理恵支援事業部 プログラム・コーディネーター
青山学院国際政治経済学部卒。英国サセックス大学にて農家の生計向上を学び、Poverty and Development修士課程修了。アビームコンサルティング、アクセンチュアなど民間企業に勤務したのち、日系NGOにてスーダンの開発援助に従事。2019年ワールド・ビジョン・ジャパン入団。政府系助成金の会計担当を経て、現在は開発1課にて主にアジア地域の事業を担当。
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