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入団のきっかけ~私を襲った4つの災難 その4

歯の治療が完了して3日後。

私は3つの島がつながって海に浮かぶ回廊のような散歩道を歩いていた。青い海の対岸には遠く首都の摩天楼が蜃気楼のように霞んでいる。道の両側には青く静かな海が光っている。美しい風景だった。私は幸せを噛み締めながら、しかしふと妙なことに気が付いた。20歩ほど歩くたびに、足が自然と止まってしまうのだ。どこも痛くないし、気分も悪くないのに力が入らない。まるで身体のどこか奥深くにエネルギーを吸い取ってしまう小さなブラックホールが生まれたようだった。かすかに嫌な予感がした。

IMG_0381ふと眠りから覚めて枕元の時計を見るとまだ午前4時だった。どうして目が覚めたんだろう?周囲は静かで変わった様子はなく、トイレに行きたいわけでもない。考えを巡らせて、不意に気づく。
あ、お腹が痛いんだ… それは今までに経験したことのない、とても奇妙な腹痛だった。赤痢の激痛とは全く違い、感覚の回路が遮断されているような漠然とした遠い痛み。ただ身体が何かしら危険信号を発しているらしいことが分かった。

しかし町が動き始める時間を待って、ベッドから起き上がってみて愕然とした。体に力が入らず、まっすぐに立つことができない。
自由気ままな一人旅は、自分の身体が思い通りにならない時は、まるで仕返しのように普段の気楽さの裏返しの、誰にも頼れない厳しい現実を思い知らせる。岩のように重いバックパックを引きずるようにフロントまで運び、帰って来るまで預かってくれるよう頼んだ。
宿からタクシーに乗って病院へ向かったが、いつどんな状態で宿に戻って来られるのか、まるで見当がつかなかったのは後にも先にもこの時だけである。

IMG_2975運悪くその日は祝日で、町中の病院が閉まっていた。唯一開いていたのは町で一番高級だという私立病院だった。痛みは刻一刻と激しさを増し、ようやくその受付窓口へ辿り着いた時は立っていることさえやっとだった。助かった!と思ったが、私の顔を見るなり、受付嬢は言った。

「あなた、お金持ってるの!?ここは高いのよ!」

鬼ッ!!
と、心の中で毒づきながら、海外旅行保険に加入していることを伝え、証書を見せたが日本語で書いてある。「分からないわ。」他所へ行ってくれ、と思っているのがありありだったが、何としても引き下がるわけには行かなかった。もうどこへも行き場はないし、立っていられる時間は残りわずかなことが本能的に分かった。ここで諦めれば私に明日はない。そう、かつてないほど文字通りに。相手が鬼だろうと、もうここで闘うしかないのだ!そして命懸けの闘いの末、ついに私は病院の電話を借りて海外旅行保険のヘルプデスクにコレクトコールをかけさせてもらうことに成功した。

短期間のうちに何度もお世話になったので、ヘルプデスクの担当者は既に私の名前を憶えてくれていた。あまりに利用が続いたので、いい加減断られるかと思ったが、事の次第を説明すると、「高い病院でも大丈夫ですよ。信頼できるところで診察を受けてください。必要なら手術や入院の費用も出ますし、その場合は立替でなく、病院へ直接支払いもできますから、ご安心を。」という返事が返って来た。その優しく、頼もしい声に、ありがたくて涙が出そうだった。さらに受付嬢に直接説明もしてくれ、私はようやく診察室に通された。

私を見るなり、医者は言った。

「ここは高いんだぞ!お前、金は持ってるのか!?」

ここは鬼が島かっ!?

もう一度、電話を借りるハメになったが、その30分後、全身麻酔をかけられた私は全てを神と医者の手に委ねて手術台の上でようやく安らかな眠りに落ちた。診断の結果は急性虫垂炎、つまり盲腸であった。

(その5に続く)

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