【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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世界最貧国ネパール スラムの少女 ~子どもたちの夢が消えてしまう前に~

ワールド・ビジョン・ジャパンは、厳しい貧困に生きる子どもたちのことを日本のみなさまに知っていただくため、ドキュメンタリー番組「世界の子どもの未来のために」を制作しています。この番組の取材を担当する林恭子さんが、ネパールのアイサリちゃん(9歳)と出会った時のエピソードを寄稿してくださいました。

世界最貧国ネパール スラムの少⼥ 〜⼦どもたちの夢が消えてしまう前に〜
ワールド・ビジョン・ジャパン制作テレビ番組「世界の⼦どもの未来のために」
取材・構成 担当 林恭子さん

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「過酷な環境に生まれ、生きる子どもたちの声を聞き、届けたい」
そんな思いをもって、2013年から5年間、ワールド・ビジョンが制作するドキュメンタリー番組の制作に携わってきました。
カンボジアにはじまり、バングラデシュルワンダなど、アジア・アフリカ諸国で訪れた国は6カ国になります。その中で、100人近くの子どもたちと出会ってきました。
その一人ひとりには、この世界に生まれた時、幸せを願ってつけられた名前があり、一つひとつ、その子だけの思い、人生のストーリーがありました。

カンボジアを取材した際の写真(筆者は右上)

カンボジアを取材した際の写真(筆者は右上)

今年7月、雨季まっただ中のネパールの首都、カトマンズで。
ひとりの少女と出会いました。アイサリちゃん、9歳です。
美しい大きな瞳の女の子ですが、初めて会った時、どこか寂しげな暗い目をしていました。
笑顔を浮かべるでもなく、じっとこちらを見返してきます。

濁った川のほとりにどこまでも続くスラムの家並み。
その中にある、ひときわ暗く湿ったところにある、地下の小さな部屋が、彼女の家です。 お母さんときょうだい4人、家族5人で暮らしています。お父さんはいません。

今回ネパールでの取材の旅で出会った、アイサリちゃん(9歳)

今回ネパールでの取材の旅で出会った、アイサリちゃん(9歳)

「子どもたちにじゅうぶん食べられる暮らしをさせてやりたい」
お母さんは、強い思いを抱き、貧しい農村を出て、都会へやってきました。
けれど、学校へ行ったことがないお母さんは、なかなか仕事を見つけることができませんでした。

アイサリちゃんは、姉弟の中で、一番年上です。お母さんを支えるために、アイサリちゃんは毎朝5時に起きて、一日じゅう家の仕事をしていました。家事をしたり、小さい子たちの面倒をみたり。目覚めてからずっと、休むことがありません。
食べることも満足にできない状況で、学校は、やめるしかありませんでした。
9歳の女の子が、したいこともせず、ひたすら疲れたような表情で次から次へと家事を続けるさまに、胸が痛みました。

お気に入りだった髪を刈られてしまう前の写真。雰囲気も表情も今とは違って見える

お気に入りだった髪を刈られてしまう前のアイサリちゃん。雰囲気も表情も今とは違って見える

女の子として大切にしていた長い髪も、シラミが広がったせいで刈られてしまいました。
それからはずっとフードのついた服で頭をかくしています。
「誰にも見られたくない」
目を伏せて、悲しそうにつぶやきました。

小さい子たちを寝かしつけた後、フードを目深にかぶってアイサリちゃんは通りに出てきました。

同じ歳頃の子たちは、本来、学校で勉強している時間です。
ひとりで、じっと何かを読み始めました。
「何を読んでいるの?」と尋ねると、「学校のノート」と小さな声で答えてくれました。
それは、学校に通っていた頃のノートでした。アイサリちゃんの宝物だといいます。
もう新しいことは習えなくなったけど、何度も何度も読み返しているのです。

何度も何度もノートを読み返すアイサリちゃん。学校に行きたい気持ちは今でも変わらない

何度もノートを読み返すアイサリちゃん。学校に行きたい気持ちは今でも変わらない

少し仲良くなったアイサリちゃんは、将来の夢の話をしてくれました。

「学校の先生になりたかったの」

「なりたかった」という言葉が切なかった。
これまで何度も直面してきましたが、厳しい現実に生きる子どもたちは、時々過去形で夢を語ります。
学校に行けない、とわかった時。夢は叶わないんだ、と悟ります。

多くの場合は、そういう気持ちを誰にも言わずに心にしまっています。そしてひたすら、母親のため、家族のために自分の気持ちは封印したまま、一生懸命つくしています。
アイサリちゃんは、少しだけ学校に通っていた頃のことを話してくれました。友だちがたくさんいて、毎日、一緒に勉強したり遊んだり、どれだけ楽しかったか。

その時見せてくれた笑顔は、とてもかわいらしく、はっとさせられました。
それまでの疲れたようなどこか大人びて見えるアイサリちゃんとは別の、無邪気な子どもの顔でした。
ずっとこういう顔で笑っていてほしい…強く思いました。

子どもたちには、子どもらしく、無邪気に笑っていてほしい

子どもたちには、子どもらしく、無邪気に笑っていてほしい

取材を終え、スラムを後にする時、振り返ると…
たくさんの子どもたちが手を振ってくれていました。
アイサリちゃんだけじゃない、そこには、声を聞けなかった子どもたちがたくさんいました。
このスラムだけじゃない、この国の、そして世界中の厳しい貧困の中で。
今、辛い現実の中で苦しんでいる子どもたちがどれだけいるかということを思うと、
途方に暮れるような思いに襲われます。でも…

「すべての人に何もかもはできなくても、誰かに何かはきっとできる。」
取材を始めた時に知ったこの言葉が、いつも胸にあります。
目の前の大きな悲しみ、数えきれない困難を前にすると、ちっぽけな自分ひとりに何ができる?
何もできやしない…と足がすくんでしまいます。
でも、今、自分の持っているものをほんの少し、分けあう。
たったそれだけ、そんな小さなことが、ひとりの子どもにとって、小さな希望の灯火になる。
番組作りを通して、それを、何度も見てきました。
そのことが、わたしを勇気づけてくれます。

「愛しい我が子に食べさせてやれない」
そういって涙を流している母親に、お金をあげる。食べ物をあげる。それだけじゃない。
働くための道筋をつけ、食べ物を自分で得られる「力」を持ってもらう。

「だれも助けてくれない」
何もかも諦めた目をした子。
どうすることもできない貧困と困難の中に生まれたことを自覚したとき、
夢をあきらめていく子どもたちに、教育を受け、自分自身で厳しい現実を変えていく「力」を持ってもらう。
日本に生まれたわたしたちが、自分のもっているものを分け合う、そんな気持ちが様々な国、いろいろな困難の中にある人たちの、生きる「力」になるのをみてきました。

教育を受けることは、自分自身での人生を切り開く原動力となる

教育を受けることは、自分自身での人生を切り開く原動力となる

今回も、アイサリちゃんが、そしてアイサリちゃんのようなたくさんの子どもたちが、学校へ通い、友だちを作り、自分で未来を切り開く「力」を手にする日がきっと来ると信じています。
子どもたちの声を聞いて届ける、わたしの小さな仕事が、そのひとつのきっかけになると信じて続けてきました。

子どもたちの夢がひとつひとつ叶っていけば、きっと世界は良くなる、少しずつでも。
そう思います。

わたしたちには、その小さなきっかけをつくる「力」があるとおもいます。
小さな「力」がたくさんの「力」を生んでいく。その連鎖がずっと続けられていくように。
子どもたちの声を聞きながら、いつも強く願っています。

ワールド・ビジョン・ジャパン制作テレビ番組「世界の子どもの未来のために」
取材担当 林恭子

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この記事を書いた人

WVJ事務局
世界の子どもたちの健やかな成長を支えるために、東京の事務所では、皆さまからのお問合せに対応するコンタクトセンター、総務、経理、マーケティング、広報など、様々な仕事を担当するスタッフが働いています。
NGOの仕事の裏側って?やりがいはどんなところにあるの?嬉しいことは?大変なことは?スタッフのつぶやきを通してお伝えしていきます。
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