「語学留学にフィリピンに行く!」と、大学生のいとこから聞いたのは年末だった。ワクワク楽しそうに話す彼女を見ていると、その翌月には自分が「厳しい環境の中に生きる子どもたち」の取材のために、同じ国に行くことが信じ難かった。
今年1月、私は、厳しい環境の中に生きる子どもたちの生活を追ったテレビ番組の取材のため、フィリピンの首都マニラを訪れた。
キレイなシャツを着た人たちが、いそいそと仕事の合間にカフェコーヒーに立ち寄る。東京と見紛う光景を横目に車を走らせると、周りの様子が一段階、暗い色に変わる。
先程と同じマニラ市内。交通量が激しい道路脇に、貧しい人々が暮らすスラムが広がっていた。
“語学留学”と”カフェ”と同じ国。でもそこは、”ワクワク”でも、”いそいそ”でも、ない世界。
ここで出会ったアニンちゃん(7歳)は、笑うと両頬のえくぼがかわいい女の子だ。
シャイでなかなかこっちを向いてくれないが、「What’s your name?(お名前は?)」と聞くと「Anin(アニン)」と元気よく答えてくれた。
アニンちゃんの家は、川にかかる大きな橋の「下」だという。橋にかかる道路のアスファルト部分を屋根にして、その下を住居にしている。子どもでも立ち上がれないほど天井が低い。橋の長さ分の奥行きはあるが、正直、ここに人が住んでいるというのは信じられないスペースだ。
アニンちゃんの「家」への入り口はとても狭い。大人一人がようやく潜れるほどの隙間を抜けて行くのだが、案内されたものの、入り口狭さに一瞬たじろぐ。
これまで世界中で、たくさんの厳しい環境に置かれた子どもたちに出会ってきた。
ゴミ拾いを生活の糧にしていて、家の中がゴミで埋まっていた子。大切な家畜を家の中で飼い、凄絶な環境で暮らしていた子。それらの「家」を訪れる度に胸が傷んだ。でも、それはちゃんと「家」だった。しかもここは、フィリピンだ。“語学留学”と”カフェ”のすぐ隣で、小さな子どもがこんな環境に暮らしていることが、とてもショックだった。
アニンちゃんのお兄ちゃんは家の下の川に落ち、汚い水を飲んでしまって以来、具合が悪く寝込んでいる。
アニンちゃんの妹は家から出る時、コンクリートに頭を打ち、大怪我をしてたくさんの血が出た。それでも、病院に行くお金がなく、治療は受けられなかったという。
アニンちゃんは生活費を稼ぐために、カートを押して周りの家々からゴミを集めて周る。車通りの激しい道路を抜けて、「ゴミありませんか?」と言って歩き続けるのだ。
でも、本当は「ゴミの仕事が一番ツライ」と言う。本当はやりたくない。でも家族のためを思って、自分ができることを精一杯していた。
アニンちゃんのお母さんは話す。
「子どもたちにご飯を食べさせてやれない日もあって、辛い。マニラに出ればいい仕事に就けると思った。でも教育を受けていない私には無理だった。だから、この子には教育を受けさせてやりたい」
アニンちゃんが今すぐ、この危険で汚い橋の下の生活から逃れられたらと願う。
でもそれは、今日の食べ物を渡しても変わらないのだろう。
未来を信じて前を向いて生きられるように、橋の下の生活から自分たちの力で抜け出す力を得られるように、長期的に支えていくことが必要なのだ。一歩一歩は小さい歩みでも、必ず実になり、この子たちを救うことができると信じて。
マーケティング1部
チャイルド・スポンサーシップ課
山下 泉美
<山下スタッフの過去のブログ>
子どもたちの未来を支える支援 チャイルド・スポンサーシップ
バングラデシュ スラムの少女 怖いと感じたら生きていけない
もしもこの子が、私だったら。 ~一人残された少女、キムヤンちゃん~
この記事を書いた人
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NGOの仕事の裏側って?やりがいはどんなところにあるの?嬉しいことは?大変なことは?スタッフのつぶやきを通してお伝えしていきます。
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