【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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あるNGOスタッフの怒り

途上国の草の根で被災者や貧しい人々と日常的に働いているNGO職員は、この世の不条理になんと怒ることが多いことか、、、。

・権力者たちの私欲からくる紛争により、犠牲になる幼い命や引き裂かれる家族
・開発を妨げる役人やリーダーの汚職・不正により、相変わらず学校にも通えない貧しい地域の子ども達
・古い因習、迷信、部族偏重の中でために差別的扱いをうける弱い人々。特に子どもを産み育てる道具としてしか扱われない女性達
・貧困が主因による家庭内暴力や麻薬の蔓延。そして被害者は、やはり弱い女性や子ども達
・自然災害により一瞬にして家族やコミュニティー全体をうしなってしまう人々
・地雷や戦争により肢体不自由者となった人々を苦しめる社会の差別
・貧困ゆえに学校も行けず、物乞いや売春で家族を支えるく子ども達

日本に目を向けても怒りたくなることだらけだ。 親が子を子が親を殺し、いじめで自殺に追い込まれる子ども達とその親たちの悲しみと怒り。弱者に厳しい社会と止まらない税金の無駄使い。 詳しい事例を挙げるとしたら、延々と書きつづけることになってしまう。

悪や不条理に対する怒りは、正義の追求や改革のエネルギーとなるので、大いにこれを持つべきである。人はその怒りを様々な形で現すが、みのもんた氏のような激昂型の怒りは、事の重大性を視聴者にアピールし、人々から正義のエネルギーを湧き出させる上で大変に効果的である。 また、人権派弁護士のように法的な根拠をもって論理的に怒るのは、時代劇の越後屋のような隠れた巨悪を法の力をもって追い詰めるのに効果的である。 しかし、ずっと怒るのは疲れる。聖書の言葉に「日が暮れるまで憤ったままでいてはなりません。」という言葉がある。人は誰しも怒ったままで朝は迎えたくないし、怒ったままでは、体も害す。因みにNGO職員は、被害者と近い距離で働くために,怒りや感情移入、そして激務で「燃え尽き症候群」に陥ることが多い。

昔のことであるが、ワールド・ビジョン・ジャパンの働きを紹介してくれるテレビ番組に出たとき、どうやって現地の悲惨な様子を番組で伝えようかと緊張している私に司会者が、「高瀬さん、人々に気持ちをお伝えする時に大切なのは、熱意と明瞭な言葉と微笑みです。」という貴重なアドバイスを頂いた。そうだNGO職員は人々の前で世の不条理を怒っても仕方ない。怒りのエネルギーを熱意に替え、微笑み中に明瞭な言葉で弱い人々の状況を伝えなければ、人は実際に支援をしてくれるまでには動いてくれない。 すばらしいアドバスのおかげで何とか無事にテレビの収録を終えた。しかしオン・エア-された番組の中でみた自分は奇妙なキャラクターであった。口は微笑んでいるが目もとは緊張のあまり引きつっており、大変にバランスが悪い。また、話し言葉も明瞭な意味不明のセンテンスの羅列だった。

世の不条理の怒りを熱意に替え、ジャパネットたかたの高田さんのようなオーラを放ちたいものだと、時々鏡の前にたって表情をつくるNGO職員である。

この記事を書いた人

高瀬一使徒
大学卒業後オーストラリア留学などを経て、青年海外協力隊に参加モロッコに2年間滞在。1989年にワールド・ビジョン・ジャパン入団。タイ駐在などを経て、1997年より支援事業部部長(旧 海外事業部)。現在までに訪れた国数約85カ国。4人の子どもの父親でもある。2014年3月退団。
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