日曜日の夕方に他のNGO・国連勤務の外国人職員および、現地の若者と共にサッカーをするのが習慣になっている。もともとサッカーは好きな上、良い運動になり、とりあえず走り回って、ボールを蹴っていれば良いので気分転換にもなり、個人的にはそう多くない週末の楽しみの一つだ。一年以上ブログから離れていたので、今年こそマメにアップデートしようという決意を胸に今回はサッカーで会った人の話から考えさせられたことについて。
ある日曜日のサッカー後に家に歩いて帰ることになり、帰る方向が同じスリランカ人の若者2人と一緒に歩いていくことにした。このうちの一人は以前からよくサッカーに来ており英語も少し喋れる(そして外人にすごく興味があるようで、少々めんどくさい質問をする)人(以下青年A)で、もう一人はサッカーは結構上手いけど話したことがない若者(以下青年B)。
歩き始めて最初は青年AがBより英語を喋れる為必然的に一人で喋りよく質問する展開。青年Bとはあまり話をしたことが無いので、話す機会があればと思っていると、T字路で青年Aは違う方向に去っていき、青年Bは自分と同じ方向に行くようである。黙っていてもしょうがないので自分の2歳児に満たないくらいのタミル語能力をフル回転させ頑張って青年Bと話をすることに。
彼が言うには、彼は20歳で北部出身であり、国内避難民として2008年に家を避難し、最終的にワウニア(自分の居る町)郊外の国内避難民キャンプに収容され、そこから2010年の初めに出てきたこと、家族は現場に戻ったが彼は勉強の為に(現在の北部の学校の状態は概して良くない)出身地には帰らずにこの街に残ったこと、高校3年生に当たる学年を終了し、大学に入る為のテストを受け、結果を待っていることなどを教えてくれた。ちなみに彼の出身地はワールド・ビジョン・ジャパンの活動地から15キロくらいのところであり、「ホニャララ(カタカナにしにくいので仮名)の辺りか?」と聞くと「そこそこ」とうれしそうにうなずき、ホニャララ高校で北部のサッカー大会で優勝したという。スリランカ北部では度重なる戦闘により国内避難民の経験を持った人たちが非常に多いので、「やっぱりここでも居たか」と思っていると、さらに親戚がイギリスに居る為、数年後にイギリスに行く予定だと青年Bはいう。親戚・家族がよりよい生活や安全を求めて海外に移住する人が多いのはタミル人ではよく見られることだ。そういった移住した家族を当てに移住する人、移住した人とお見合い結婚をする人も多い。直接のモチベーションは分からないが、青年Bもまた国外に出て行く一人となろうとしている。
皮肉な事に内戦を20年以上も継続する為に必要な資金の一部は海外にいるタミル人の集めたものである。つまり当初内戦やそれ以前からあったタミル人に対する暴動から逃れる為にスリランカを出た人たちの一部が、自分たちが逃れた原因である戦闘を継続させる手助けをしていたということになる。そして結果的に一番苦しむことになったのはスリランカ北部や東部に今も住んでいるタミル人だ。
青年Bの携帯が鳴り出した(携帯電話の世界における普及率はすごいなといつも思う)。画面を一目見た彼は海外からだと言って会話を始めた。数年後には彼が海外から友達や親戚に電話をかける側になる。その後彼はスリランカに戻るのだろうか?それとも彼を当てにして他の親戚がスリランカから移住するのだろうか?彼自身も分からないのかもしれないし、きっとその時のスリランカの国内情勢によるのだろう。その時に戦争や差別のない、内戦に翻弄されてきた人たちが未来に対する希望を持てるスリランカであって欲しいと思う。
この記事を書いた人
- 米国Washington and Lee大学理学部化学科卒業。在学中にケンタッキー州の都市貧困にかかわるNPOでインターンをした事でNPOの働きに興味を持つ。一般企業で勤務後、帰国し2008年9月にワールド・ビジョン・ジャパンに入団、支援事業部緊急人道支援課に配属となる。2009年から2011年までスリランカ駐在、2013年から2015年5月まで東ティモール駐在。2015年8月に退職し、ロンドン大学公衆衛生学・熱帯医学大学院でMSc. Public Health in Developing Countries(途上国における公衆衛生)修士号を取得。2016年10月に再びワールド・ビジョン・ジャパンに入団、支援事業部開発事業第2課での勤務を開始。現在、バングラデシュ事業担当。2018年3月退団。
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