シリアで内戦が始まってもう7年も経ってしまいました。
ワールド・ビジョン・ジャパンはヨルダンでジャパン・プラットフォーム(JPF)の助成金と日本の皆さまから頂いた募金で運営する教育事業を行っており、今年で5年目になります。一貫して紛争の影響で勉強が遅れている子どもたちのために補習授業を提供する活動を行っていますが、4年の間にあまり変わらないこともあれば、変わったこともあります。
例えば、同じ7歳のシリア難民の子どもでも、事業を始めた当初はシリアでの紛争で負ったトラウマのような急性期の心理社会的問題を抱えていることが多かったのですが、現在補習授業に参加している7歳の子どもは、シリアの記憶があまりなく、代わりに貧困や長引く難民生活、特に親が抱えるストレスの影響を受けて問題行動を起こす子どもがいます。 そして少し年上の子どもたちは、シリアでのつらい記憶と難民生活で蓄積したストレス、その両方に苦しんでいます。
12歳の女の子、Mちゃんもそんな子どもの一人です。補習授業ではちょっと恥ずかしがり屋でおとなしい優等生に見えますが、家では時々違う様子を見せるとお母さんが言うのです。
シリアではMちゃん一家は経済的な不自由もなく平穏に暮らしていたそうですが、紛争でお父さんが連れ去られ、その後の安否はわかっていません。村にいろいろな派閥の戦闘員たちがやってきて、お父さんもいなくなってしまったため、Mちゃん一家は戦闘を逃れてヨルダンにやってきました。
Mちゃん一家は逃れた先のヨルダンで難民として国連から経済的支援を受けていますが、決して十分ではありません。シリアでは難なく入手できた、子どもたちが喜ぶちょっとしたお菓子や文房具なども「今は買ってあげることができない…」とお母さんは嘆きます。ふてくされたMちゃんや妹、弟たちはつい、「お父さんだったら買ってくれたのに!」と大声で怒鳴ってしまうことがあるのだそうです。同居して今は父親代わりとなっているおじいちゃんも、その話を申し訳なさそうに聞いていました。Mちゃんはお菓子を買ってもらえないからだけではなく、お父さんが突然いなくなってしまったことへのやり場のない怒りを思わずお母さんにぶつけてしまうのだと思います。
お父さんがどこで何をしているのか(酷なことを言えば生きているのか、死んでいるのか)わからない不安、経済的な不安、いつになったらこの生活から抜け出せるのかわからない不安。一家がいろいろな不安に押しつぶされそうになりながら、懸命に生きている様子がうかがえます。
補習授業では勉強だけでなく、子どもたちが抱える悩みになるべく寄り添うことができるよう、少人数制のクラスで先生たちは子どもたちの声に耳を傾けます。抱えている悩みに応じて事業で雇っているソーシャルアドバイザーや外部の支援団体に照会しつつ、解決を図っています。またワールド・ビジョンのスタッフがシリア難民とヨルダン人の保護者を学校に招いてセミナーを開き、ストレスを抱えている子どもたちへの接し方や子育てのヒントなどを研修しています。この活動は、孤立しがちな難民保護者の外出を促し、シリア人とヨルダン人で共通する子育ての悩みについて話し合う場を提供しています。
Mちゃん一家のように、「あの人がいてくれたら・・・」という思いを抱きながら暮らしている方々がたくさんいらっしゃいます。そういった方々の心が少しでも和らぐように、これからも活動を続けていきたいと思います。活動継続のため、ぜひ難民支援のための募金にご協力ください。
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【関連ページ】
・世界の問題と子どもたち:世界の難民危機と子どもたち
・ワールド・ビジョン・ジャパンの緊急人道支援
・TAKE BACK FUTURE キャンペーン
【イベント情報】
・6月16日(土)「世界難民の日」ソーシャル・アクションin渋谷 #難民とともに
【主催】UNHCR駐日事務所、国連UNHCR協会
(UNHCRはTAKE BACK FUTURE キャンペーンに賛同くださっています)
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この記事を書いた人
- 大学卒業後、一般企業に勤務。その後大学院に進学し、修了後はNGOからアフガニスタンの国連児童基金(ユニセフ)への出向、在アフガニスタン日本大使館、国際協力機構(JICA)パキスタン事務所等で勤務。2014年11月にワールド・ビジョン・ジャパン入団。2015年3月からヨルダン駐在。
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