よくチャイルド・スポンサーシップの支援者の方から、「私のチャイルドは12歳ですが、手紙はいつも代筆です。なぜ自分で書けないのでしょうか?」というお問合せをいただきます。このようなお問合せへの回答は、もちろんチャイルド一人ひとりの事情や置かれた環境によって様々ではありますが、ウガンダの支援地域を実例として、チャイルドが自分でなかなか手紙を書けるようにならないひとつの背景をお伝えします。
ワールド・ビジョン・ジャパンがウガンダで支援しているナラウェヨ・キシータ地域とキルヤンガ地域は、もともと住民が少なく、開発が進んでいない地域でした。しかし、水や森林などの豊かな資源があったため、政府がほかの地域からの開拓民を積極的にこれらの地域に受け入れてきました。このため、もともとこの地域に住んでいたバニョロ族以外に、現在はバキガ族、ルワンダ系部族、コンゴ系部族など、異なる言語や文化を持つ複数の部族が各村の中で共存しています。
異なる言語を話す複数の部族が、同じ村の中で共存していくのは簡単なことではありません。もともとこの地域に住んでいたバニョロ族にしてみれば、後からやってきた「よそ者」が、自分たちの土地の森を切り開き、水を使って畑を大きくしていくことへの複雑な思いもありました。部族間での緊張が高まる中、ワールド・ビジョンはこれらの地域で活動を始めました。ともすれば対立しがちな住民が、言葉や文化を超えて同じ目的のために協力し合えるよう、ワールド・ビジョンは住民がグループで貯蓄や貸付を行う「村落貯蓄貸付組合」の設立を促し、さらに「村落貯蓄貸付組合」のメンバーが出資し合って養鶏などの小規模ビジネスを始めるというような活動を、積極的に支援しています。
さて、このように複数の言語が話されているナラウェヨ・キシータ地域とキルヤンガ地域で、子どもたちは何語で勉強しているのでしょうか。現地の小学校の先生に伺ったところ、1年生から3年生までは、この地域で依然多数派を占めるバニョロ族の言葉(ルニョロ語)で教え、4年生以降は英語で教えるそうです。「では低学年の子どもたちはルニョロ語で読み書きするのですね?」と聞くと、「そうとも言えない」とのこと。家でもルニョロ語を使っている子どもはまだしも、家で別の言葉を使っている子どもたちにとっては、ルニョロ語も外国語です。学校で3年間だけルニョロ語で勉強しても、読み書きができるまでにはならないことが多く、4年生からは英語に切り替わるため、また別の言語も習得しなければならなくなります。
家でルニョロ語を話している子どもたちにとっても、ルニョロ語での読み書きはそう簡単ではありません。支援地域では就学前教育がまだ一般的ではなく、座って先生の話を聞いたり勉強したりする機会がないまま就学年齢を迎え、いきなり小学校に入るケースが多いためです。慣れない学校生活になじむのに時間がかかる上、100人近い生徒を1人の先生が教えているクラスも少なくないため、低学年の生徒たちがきちんと読み書きできるようになるのは難しいのが現実です。
では支援地域の子どもたちの「書く力」は実際どのくらいなのでしょうか?現地のスタッフに、10歳から13歳くらいの子どもたちを何人か集めてもらい、手紙を書いてもらいました。「手紙を書く」と聞いて自信のない子どもたちは逃げてしまったので、ある程度自信のある子どもたちだけが参加しましたが、その結果は以下の通りでした。
・12歳(5年生・男子)文章は書けず、つっかえつっかえ英単語のみ何とか書ける。
・13歳(6年生・女子)すらすらと一人で英文が書ける。文法は少々間違っている。
・13歳(7年生・女子)考えながらではあるが、正しい文法で簡単な英文が書ける。
・11歳(5年生・女子)考えながらではあるが、短い英文で手紙が書ける。文法・スペルに間違いあり。
・10歳(4年生・男子)短い英文と単語の羅列ではあるが、一応自分で書ける。書く力の問題というより、何を書いたらいいかわからない様子。
・12歳(7年生・男子)すらすらと正しい文法で英文の手紙が書ける。
子どもたちが手紙を書く様子を見ていて、年齢よりも学年によって書く力が決まるという印象を受けました。ウガンダの小学校では毎年学年末に試験があり、合格できないと次の学年に進級できません。小学生でも留年することがある訳です。このため、同じ12歳でも5年生の子もいれば、7年生の子もおり、同じ年齢でも学年によって、書く力にだいぶ差があるようでした。
ワールド・ビジョン・ウガンダの現地スタッフは、手紙はチャイルド・スポンサーと子どもたちをつなぐ重要な通信手段であるだけでなく、子どもたちが書く力や表現力を身につける貴重な機会だと捉えています。実際に一人ひとりのチャイルドを訪問して手紙を届け、返事を書くのを手伝っている地域のボランティアにも、手紙の重要性を伝えつつ、極力代筆を避け、文章が書けない場合は絵を自分で描かせるよう励ましています。
日本では、小学校1年生でもある程度長い文章を自分で書くことができますが、この背景には、保育園や幼稚園で質の高い就学前教育をほぼ全員が受けていること、家で使っている言語で(多くの場合)学校でも勉強できること、1クラス30人前後の教室できめ細やかな指導を受けられることが大きいと思います。他方、ウガンダをはじめ、特にアフリカでは、上述のように状況はまったく異なります。「もう大きいのになぜ代筆?」と疑問に思われることもあるかと思いますが、与えられた環境の中で一生懸命頑張っている子どもたちの成長を、長い目で見守っていただけたら幸いです。
マーケティング第2部 サービス開発課 石坂明日香
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【関連ページ】
・ウガンダ:国情報
・ナラウェヨ・キシータ地域の報告書を見る(PDF)
・キルヤンガ地域の報告書を見る(PDF)
・チャイルド・スポンサーシップとは
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