「あっと言わせる」とは、人の意表を突いて驚かせる、目をみはらせること。私はグローバル教育の仕事を通して、「あ」ではなく、思わず「え!?」と言ってもらうことをねらっている。安全な水、豊かな食生活、何不自由ない日常を当たり前と感じている日本に住む子どもたちに、途上国の子どもたちの現状を伝える活動を通して、参加する子どもたちの「えー!?」が引き出せるような仕込みに励んでいる。
最近は未就学児向けプログラムの希望が増え、幼稚園や保育園を訪問させていただき、大きな写真紙芝居を使ってルワンダに住むエリックくんという男の子の生活を紹介したりしている。彼の食事は1日に1回。そのことを園児さんにお話しすると大きな「えー!?」が飛んでくる。思わずニヤリ。「ごはんが1かいだけ…」「そんなのいやだよ…」「おなかすいちゃう…」園児さんのささやきが聞こえてくる。帰宅後に親御さんにエリックくんのことを話してくれたという報告を聞くこともある。5歳さんの心に刻まれた「えー!?」が親御さんにも波及している。
お年頃の中学生の「え!?」は意外に素直である。途上国の子どもたちが水を汲む川の写真を見せると、ちょっと控えめな「え!?」。この水で生活し、手洗い、料理、そして飲み水もこの川の水と説明を加えると、さっきより大きな「えー!?」。実際に途上国で使われているタンクを出して「では皆さんに体験してもらいます!」と今度はちょっとワクワクした様子が入り混じった「えー!!」が返ってくる。そして意気揚々とタンクを持ち上げようとした瞬間、予想以上の重さに思わず短い「えっ!?」という驚きの声が漏れる。私はこの声を聞き逃さない。
20リットルのタンクを持って6時間歩くレウィスくんの生活を中学生が実感を持って知ってくれる。聞いた話は忘れられてしまっても、感じたことは忘れないでいてくれるかもしれない、そう願って途上国の水汲みタンクを片手に学校へ向かう(電車内では完全に邪魔な存在になってしまうが、宅急便費用はばかにならない!)
「え!?」と言ってもらうことをねらって活動しているつもりが、逆に「え!?」と言わされる出来事も少なくない。
先日、チャイルド・スポンサーシップにご参加くださっている小学校では児童の皆さんが毎週月曜日に「おかずなしお弁当の日」を設けて、100円等を持ち寄ってくださっていた。このように児童の皆さんが途上国のチャイルドを「もう一人のクラスメイト」と呼んで支援を身近にしてくださっているお話を伺うことは本当に大きな喜びである。しかし、お話はそこで終わらなかった。
12月は特別に頑張る1カ月間として、親御さんと相談し児童の皆さんが支援金を用意してくださっているとのこと。「おやつを無しにして、その分多くお金を持ってきたり、お稽古に行く時にいつもはバスに乗るけど12月は歩いて行ってバス代を持ってくる児童もいるんですよ」このお話を聞いた時、「え!?」と私の口から感嘆の声が漏れていた。「なんて素敵なスポンサーの皆さんに支えられているんだろう」このようなスポンサーの皆さん一人ひとりに私たちの活動は支えられているということを忘れてはならないと改めて感じた。
また、高校での授業をさせていただいた時の出来事。家族を支えるために学校を辞めて7:00から21:00まで工場で働くカンボジアの女の子が将来の夢を聞かれ、黙り込んで考えた末に一言「休みたい」と答えるシーンが出てくる。映像を流し終わった時に一人の女子生徒さんに目がいった。顔をくしゃくしゃにして泣いていたのだ。「ヤバい。見ないで!」メイクが落ちて黒い涙が流れていた。(え!?)私の心の声。明るい雰囲気で授業開始から目立っていた彼女が見せた意外な一面に、「え!?」と言わせる側のつもりでいたこちらが「え!?」と言わされてしまった。
厳しい現実を生きる同世代の女の子の姿と身も心も疲れ切った彼女の言葉が胸に届いたのだろう。学校に行きたいけれどそれが叶わない途上国の子どもたちの現状は、学べることが当たり前の日本の生徒さんに様々な問いかけをしてくれる。「自分にできることは何か」「自分の毎日はこれで良いのか」自問する生徒さんの様子が授業後の感想用紙に溢れている。
「私にできること」、生徒さんから一番多く聞かれることである。私は「たくさんあると思います。考えてみましょう」と答えている。グローバル教育では「知ること」が最初の一歩とも言われている。伝える人がいれば「知ること」は広がっていく。「え!?」と言わせる何かを投げてみるということは、すぐに実行可能な「私にできること」の1つではないだろうか。
例えば途上国の子どもの置かれる現状を1フレーズ覚えるだけで、どこでもできる。おススメは「5秒に1人」言う方も聞く方も覚えやすい。5秒に1人、世界では5歳に満たない命が消えていると伝えたら、なかなか高確率で「え!?」がゲットできる。
ちょっとひねりを効かせたい時には「下痢で1日に何人の子どもが命を落としていると思う?」というクイズもできる。正解は1日に1,000人。これは大き目の「え!?」を期待できる。
人にあっと言わせるような話をすることは難しいかもしれないが、思わず「え!?」と言わせることは、ほんのちょっと勇気を出すとできることだと思う。そしてそれは途上国の子どもたちの現状を伝える「私にできること」の1つだと思う。このブログを読んでくださった皆さま、思わず「え!?」と言わせる投げかけをまずは身近な人にしてみませんか?
クリスマスまでの「この子を救う。未来を救う。」キャンペーン期間中は、ワールド・ビジョン・ジャパンのスタッフ、ボランティア、インターンの支援に携わる想い「今、私にできること」シリーズを週1~2回掲載します。次回は、12月18日、支援事業部部長、青年協力隊OBの今西スタッフの「何もかもはできなくとも、何かはきっとできる」をお届けします。お楽しみに!
この記事を書いた人
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世界の子どもたちの健やかな成長を支えるために、東京の事務所では、皆さまからのお問合せに対応するコンタクトセンター、総務、経理、マーケティング、広報など、様々な仕事を担当するスタッフが働いています。
NGOの仕事の裏側って?やりがいはどんなところにあるの?嬉しいことは?大変なことは?スタッフのつぶやきを通してお伝えしていきます。
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