宮城県南三陸町と聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろう。美しいリアス式の地形と海や山の豊かな恵み、活気あふれる復興市など、いくらでも挙げることができるのではないだろうか。
私は「南三陸町ボランティアサークル(MVC)ぶらんこ」を真っ先に思い出す。MVCぶらんことワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)との出会いは、2011年3月11日の東日本大震災の発生から半年ほどたった頃のことだ。
WVJは海外での緊急人道支援の経験を生かし、震災直後から避難所で水や毛布、紙オムツなどの配布や、学校再開支援などを進めていた。活動を続ける中で、南三陸町にはMVCぶらんこという団体に所属して活動するジュニア・リーダー(JL)と呼ばれる中高生がいることを知った。震災により活動拠点の公民館を失ったものの、避難所でも自主的に子どもたちのために活動していることを聞いた。
「町のために何かしたい」という熱意と行動力を持つJLの力を生かし将来の担い手である子どもたちの意見を、町の復興に反映する機会を設けてはどうか。「南三陸町まちづくりプロジェクト」(通称「まちプロ」)を協働で開始した。
準備期間も含め約1年間の活動を経て、MVCぶらんこは、町の子どもたちの復興に対する意見を提案書にまとめ、2012年6月30日に南三陸町長に提出した。テーマは、「子どもに笑顔を、地域に夢を~私たちが思い描く将来の南三陸町~」。「MVCぶらんこが実行すること」と「南三陸町への提案」の2部構成にしたところに、MVCぶらんこのこだわりを感じるのは私だけではないだろう。
この提案書の提出は大きな成果だが、ゴールではない。将来、提案が実現するときに向けて、自分たちも地域活動の担い手として力をつけていきたい、そんな思いでMVCぶらんこは今できることは何か考え、取り組みを続けている。
≪子どもも大人も笑顔に 少しずつ積み重ね≫
私がMVCぶらんこと活動をともにした13年度の取り組みの中で、特に印象深かったのは、「語り部(かたりべ)」だ。研修等で南三陸町を訪れた首都圏の中高生に、日頃から個人で語り部の活動をしている2人の高校生JLが自身の被災体験を語ってくれた。
その時まで私は、JLの被災体験を面と向かって聞いたことはなかった。いつも明るいJLからつらい体験談を聞くことに、はじめは緊張を覚えたが、2人の話が進むに連れ、余計な感情は消えていった。そこには、あの日体験したこと、そして今思うことを、自分の言葉で率直に語る2人の姿があった。2人が語った内容は私の想像を絶するものだった。そんな体験を繰り返し語るのは、たやすいことではないはずだ。それにもかかわらず、自分たちが伝えなければならないという信念を持って語り部を続ける2人の勇気を、私は心から尊敬する。2人の話は、その場にいた同世代の首都圏の中高生の心にも深く刻まれたようだった。
MVCぶらんこは、まちプロ以外にも、以前から取り組んできた子ども会の手伝いや地域のイベントのボランティア、ふるさとを学ぶ「南三陸わらすこ探検隊」(南三陸町復興推進ネットワーク)への参加をはじめ、町内外で活躍している。これらの活動は、子どもや大人を笑顔にするものばかりだ。MVCぶらんこが思い描く町の将来像は、そうした活動の積み重ねにより、少しずつ形になっていくのではないだろうか。
「町の復興のために何かをしたい」「この南三陸町が好き」そう語るJLのふるさとを愛する心。それが、未来をつくる種なのだと思う。地域の皆さんに見守られ、大きく育っていってほしいと心から願う。
東日本大震災発生から4年。一日も早い復興が祈念されるなか、来る3月14~18日に、第3回国連防災世界会議が仙台で開催される。世界各国からの参加者が今後の国際的な防災の枠組みについて議論する重要な会議だ。WVJも子どもたちが復興や防災に参画することの大切さについて、志を同じくする世界のパートナーとともに訴え、防災の枠組みへの反映を促す。これは、世界の子どもたちのために働く国際NGOである私たちにできることのひとつだ。復興や防災のために、私たち一人ひとりができることは何か。そのことについて、いま一度思いを巡らせていただけたら幸いだ。
※この記事はワールド・ビジョン・ジャパンの高橋布美子スタッフが執筆し、2015年2月18日付SANKEI EXPRESS紙に掲載されたものです。
※東日本大震災緊急復興支援の活動報告はこちら
※「南三陸町まちづくりプロジェクト」の報告書はこちら
この記事を書いた人
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青山学院大学国際政治経済学部卒業、政策研究大学院大学修了(国際開発学修士)。
国内自治体の行政経営・戦略計画策定支援のコンサルタントとして活動後、国際協力銀行/JICAにて南アジア地域の開発援助に従事。
家族と米国生活中に東日本大震災が発生したことから、復興支援への思いを胸に帰国し、2013年1月にワールド・ビジョン・ジャパンに入団。
東日本大震災緊急・復興支援部を経て、現在は支援事業部国内子ども支援チームのチームリーダーとして、日本社会における子どもの権利の実現に向けて活動中。保育士。
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