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あるNGO職員と円安

キャプシ市場で野菜を売るスワジランドの女性

キャプシ市場で野菜を売るスワジランドの女性

最近の円安傾向はNGOの活動の深刻な影響を与えている。ワールド・ビジョンの全体の基本通貨は米ドルである。
円がドルに対して安くなれば、より多くの円を出さなくては予算どおりに支援事業は実施できないことになる。

たとえば、予算立てをする際に1ドルを110円で計算するとする。井戸一基設置するのに10,000ドル掛かるとすれば、110円×10,000ドル=110万円が必要ということになる。

しかし最近のレートで計算すると1ドルが120円程度だ。
即ち110万円で設置できた井戸が、120万円なければ設置できないことになってしまうのだ。これは大変に厳しい。

このよう昨今の状況の中、出張等に掛かる経費もセーブできるところは徹底的にセーブするよう努力している。
先月調査のためにスワジランドに行った際に、スワジランドを兼轄している南アフリカの日本大使館に情報収集のために立ち寄った。

日本大使館は首都プレトリアにあり、宿泊はインターネットで格安ホテルを予約してあった。日曜日の朝9時スワジランドから南アフリカの玄関ヨハネスブルグ国際空港に到着した。 空港から首都プレトリアまでは公共バスがあると思っていたが、それは2002年に廃止されたらしく、今はホテルのシャトル・バスかタクシーしかないと言う。私の予約した安ホテルには当然シャトル・バスはなかった。

空港の到着ロビーで立ち止まって考えていると、「シャトル・タクシーだけど何処行くの?」と数人のドライバーたちが次から次に客引き寄ってきた。個人経営のメーター・タクシーは危険だと聞いていたので、会社経営になっているシャトル・タクシーしか選択肢はないと心には決めていたが、問題は料金である。ドライバーたちは、一様にプレトリアまでは350ランドだと言う。
「ちょっと待って、350ランド? 高っー!」 何と日本円で約7000円である。
確かにインターネットで検索してみたら、空港からプレトリアまでは、タクシーで4、50分のかかり、料金は200~300ランドほどと書いてあった。そのときの時刻は、まだ朝の10時を少し回ったところであった。
「よし、今日は少し時間を掛けてでも粘って料金を安くしよう」と決意した。
以下は、ドライバーたちとのしばしの交渉の様子を時代劇風に綴ってみたが、フィクションではない。

ドライバー1:プレトリアのお泊りのホテルまで、350でお連れいたしやす。
さぁ、さぁ、荷物をお持ちいたしやしょう。

私: 高い!法外な、200ランドしか払えん。

ドライバー1:でも350がプレトリアまでの正規料金ですぜ、だんな。

私: されば250ではどうじゃ?

ドライバー1: だんな、殺生な。

私: ・・・・。

ドライバー1: だんな、わかりやした。300で手をうちやしょう。

私: 250と申しておるに!

ドライバー1:・・・・(無言のまま下手へ退場)

-上手より次のドライバー登場-

ドライバー2:プレトリアまででやしょう、350ですぜ、だんな。

私: 250と申しておるに!

ドライバー2: 300までならなんとかしやすがね

私: そこを何とかならぬか?

ドライバー2:ちぇ、しょうがねえなー。ちょっと待ってくださいよ。
(携帯で会社に電話をかけはじめる。)

ドライバー2:やっぱ親方が300以下は無理だって言ってやす。直接この携帯で親方と話してみやすか、だんな。

私:それにはおよばぬ。

ドライバー2:・・・・(ぶつぶつ言いながら下手へ退場)

-上手より、女性ドライバー登場-

ドライバー3:分かったわよ、250でしょう。
250の領収書を出すから、300払ってくれる。

私:何を申しておる無礼者。話にならん! (ドライバー3はそそくさと下手へ退場)

-再び最初のドイライバー1が上手より-

私:なんだおぬしか。なんの用じゃ。

ドライバー1:だんな、250で手を打ちやしょう。ただし条件がありやす。

私:申してみよ。

ドライバー1:あそこに座っている2人のひめごぜもご一緒させてもらいやす。
つまりだんなが、250で彼女たちが200と言うことで、、。

私: 待て、わしも200にせぬか。

ドライバー1:・・・・。
(ドライバー、ベンチで毛布に包まっている女性たちの方へ行き、しばらく交渉して戻ってくる。)

ドライバー1:だんな、あの方々は100しか持ち合わせていやせんでした。
やっぱだんな、250だしておくんなさいな。

私:うむ、よかろう。

結局、なんとか250(約5,000円)まで料金を落とせたが、それでも安くはなかった。
後で分かったのだが、二人の女性は、ナミビアから国の奨学金でプレトリアの大学に留学にきた学生であった。彼女たちは昨日(土曜日)の午後5時に到着したが、迎えに来る予定であった大学の車は現れず、大学に電話をしたが週末のため連絡がとれず、昨夜は空港の椅子の上で一夜を明かしたと言う。

因みに南半球のヨハネスブルグハは26年ぶりに雪が降るくらい寒い冬を迎えていた。
空港のロビーで過ごす夜はさぞ寒かったであろう。
彼女たちは、もう一昼夜空港で過ごし月曜日になったら大学へ電話をしようと考えていた。ドライバー1は、彼女たちが、空港で一夜を過ごしたことは知っていて、かわいそうに思っていたようだった。そこへ、たまたまプレトリアまで250ランドで粘っている日本人がいたので、両方からの料金を合わせて乗せようと思いついたのだった。ナミビアの留学生はドライバーから事の状況を説明してもらい、救われたような表情で身の回りのものをまとめて、二つのカートに載せた。私たちは互いに挨拶した。彼女たちは、私の事を神様が送ってくれた天使だと言ってくれた。 ドライバー1(彼の名前はジョンだった)を含む私たち4名はプレトリアまでの50分ほどの車中、それそれの国の事を楽しく語りあったのだった。 5000円のタクシー代は安いとはいえないが、当初の提示額7000円を少しでも安くしようと粘った結果、二人の留学生を助けることが出来た。
それは円安がもたらしてくれた私とドライバーとナミビアの留学生の小さな出会いでもあった。

この記事を書いた人

高瀬一使徒
高瀬一使徒
大学卒業後オーストラリア留学などを経て、青年海外協力隊に参加モロッコに2年間滞在。1989年にワールド・ビジョン・ジャパン入団。タイ駐在などを経て、1997年より支援事業部部長(旧 海外事業部)。現在までに訪れた国数約85カ国。4人の子どもの父親でもある。2014年3月退団。
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