【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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南スーダン 独立から2年 どうか無事に来年の誕生日を

この記事はワールド・ビジョン・ジャパンの國吉スタッフが執筆し、2013年7月9日付SANKEI EXPRESS紙に掲載されたものです。

先日、ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)の活動で赴任している南スーダンのある教会で、生まれたばかりの赤ちゃんに出会った。大きな瞳を黒々とたたえて、とても人懐こい。抱っこしようと手を伸ばすと、外国人の私におびえることもなく、すっぽり腕に収まった。優しいにおいがした。

教会では、みんなでこの子のために祈る機会があった。アラビア語で何を言っているのか分からなかったけれど、みんなでこの子の誕生を喜び、感謝して、考えうる限りの幸せを願っていることはわかった。
私も「どうかこの子が無事に来年の誕生日を迎えることができますように」と祈った。

マラカルの子ども

マラカルの子ども

南スーダンでは、9人のうち1人が、5歳の誕生日を迎えることができないと推計されている。この国では、子どもたちが誕生日を迎えることが家族にとって緊張の時でもあり、新たな試練の年の始まりでもあり、素晴らしい奇跡でもあるのだ。

この赤ちゃんは南スーダンに生きる、たくさんの赤ちゃんの一人だ。抱いたときのぬくもりと、優しい目がいつまでも私の心をとらえて離さない。私がこの国に寄り添う理由を見いだした気がした。

南スーダンは2年前にスーダンから独立した。

今日でちょうど2年を迎える。その間、子どもたちを取り巻く環境に大きな変化があったのか。誤解を恐れずに言えば、目に見えるほどの変化はない。

1983年から長らく続いた紛争で土地は荒廃し、独立後はスーダン側から帰還民も増えた。WVJは、国境のアッパーナイル州で、ジャパン・プラットフォーム(JPF)と協力して活動している。支援を行っている地域では今も散発的な争いが起こる。南北関係が悪化するたび、私たちが活動するコミュニティーでも治安が不安定になる。

「教育受けさせたい」 母の言葉を胸に
井戸から汲んだ水を運ぶ人々。安全な水へのアクセスは、最も重要な課題の一つだ

井戸から汲んだ水を運ぶ人々。安全な水へのアクセスは、最も重要な課題の一つだ

長い紛争の爪痕はいまだに深く、きれいな水を手に入れるのも難しい。そもそも栄養状態が良くない子が多く、下痢で死に至ることもある。なのに、トイレの数は絶対的に不足し、外で排泄(はいせつ)する子を見かけることもある。トイレのあと手を洗わない人もいて、衛生面の問題から感染症の危険性も高い。

こんな状況を少しずつ改善していくためWVJは、公衆トイレの建設などをはじめ、家を清潔に保ち、安全な水を飲み、手を洗うなど、身の回りの衛生の大切さについてコミュニティーの人々へ伝える研修なども行っている。

教育に関しても課題は多い。家事の手伝いが優先され、女の子だからという理由で学校に通えない子、すでに市場で働いている子もいる。

また校舎や設備も十分ではないし、教員研修を受けたことがない先生や、公用語である英語が話せず、教科書が読めない先生もいるような状況だ。

井戸から汲んだ水を運ぶ子どもたち

井戸から汲んだ水を運ぶ子どもたち

一人でも多く学校に通えるようになるには、学校がもっと魅力的な場所になること、学校の重要性を地域の人々が知ることが鍵だ。だからWVJでは、荒廃した校舎に椅子や机、サッカーボールなどの遊具を提供し、PTAが校内環境の改善を主導できるように保護者に向けての研修を行っている。

また教員向けに教授法の研修や英語研修を行い、コミュニティーの人々に向けて、子どもには教育を受ける権利があることを伝えて、特に女子の教育は非常に重要であることに気付いてもらえるように根気強く働きかけている。

こうした活動を通じて感じるのは、日本でも南スーダンでも、親が子どもに与えたいと望むものは同じだということだ。

「私たちはきちんとした教育を受けることができなかったから、子どもたちには必ず教育を受けてほしい。そのために学校をよくしていきたい」
ある学校でPTA組織の母親が言った言葉が忘れられない。

地域をよくするのは、コミュニティーの人々自身だと私は信じている。WVJは、環境を改善する術(すべ)を伝え、経済的に手をさしのべて、地域の人々を助ける。外国人である私にとって、それは簡単なことではないし、いつか出ていってしまう外国人を受け入れることは、コミュニティーの人々にとっても、簡単ではないと思う。

ただ、彼らと私は、ともに子どもたちの進む先を、少しでも明るいものにしたい、という思いで一致している。ゆっくりかもしれない。でも一緒に前に進んでいければいいと思う。

この記事を書いた人

國吉美紗プログラム・オフィサー
イギリス、マンチェスターメトロポリタン大学にて政治学部卒業。
大学在学中にWFP国連世界食糧計画にてインターン。
2010年9月より支援事業部 緊急人道支援課(旧 海外事業部 緊急人道支援課)ジュニア・プログラム・オフィサーとして勤務。2012年9月よりプログラム・オフィサーとして勤務。2016年7月退団。
趣味:読書、映画鑑賞、ダイビング
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