9月14日(金)朝8:27、新宿駅南口、地下7階の大江戸線ホームからJR湘南新宿ラインのホームまでの長い乗り換えの道のり。スピーディーな足取りで縦横無尽に行き交う無言の通勤客の大群の中で、はぐれてしまっては一大事、と身を寄せ合いながら緊張の面持ちでゆっくりと進む、ルワンダの子どもたち3人と付き添いの大人2名、同行の日本人2人のかなり目立つ一行がいた。最年少のフィレッテちゃん(10歳)は、来日前からの足のケガが痛い様子で、裸足にサンダル履きの足を引きずりながら歩き、残りのメンバーはそのペースに合わせ、日本の都会人たちが目的地めがけてわき目も振らずに猛進する勢いから、彼女を守るように移動していた。
そもそも、ホテルの最寄り駅である西新宿5丁目の駅で満員の地下鉄に乗り込んだことも、ふだん、電車はおろか車に乗ることも特別な体験であろうルワンダの子どもたちにとっては仰天体験だったことだろう。見も知らぬ他人に体を寄せて押さなければ乗れないような満員電車に乗るようにと促す日本人スタッフ(私)を見て、15歳のオリヴィエくんは「マジっすか?」という表情を見せつつ、覚悟を決めたように乗り込んでくれた。フィレッテちゃんは、車中、今回の来日中いわば子どもたちの「お父さん」役だった男性スタッフのエドワードにぴったりとしがみつき、じっとしたまま、見知らぬ乗客たちに超接近で囲まれた「ギュウギュウ」の車中の時間が早く終わるように祈り願っているようだった。
というわけで、国際NGOワールド・ビジョン・ジャパンの30周年フィナーレイベントのために、はるばるルワンダからやって来る子どもたちと、日本の子どもたちとの交流の機会を!という計画の実行は、緊張感あふれる移動からスタートしたが、電車を乗り継ぎ、今回の訪問を受け入れてくださった横浜の捜真小学校の姿が見えると、子どもたちの目は少しずつ輝き始めた。
学校に到着すると、さっそく日本の子どもたちによる「日本紹介」。ユーラシア大陸から日本列島が分かれたところから説きほぐす日本史の詳細な説明は、にわか通訳のスタッフ(私)を慌てさせたが、ルワンダの子どもたちは、好奇心いっぱいの様子で、日本の子どもたちの発表にじっと耳を傾けていた。次にルワンダの子どもたちが自分たちのふだんの生活の様子を話し始めると、今度は日本の子どもたちが身を乗り出す。バナナが主食というのは、日本の子どもたちにとって仰天だったようだ。次のクラスでは、両国の子どもたちが「好きな遊び」「好きな食べ物」「大切なもの」を紹介し合う、という内容。言葉の壁を越えるため、あらかじめ準備しておいた絵を見せ合いながら進めた。オリヴィエくんが好きなのはサッカー。多くの日本の子どもたちもサッカーが好きなことがわかり、嬉しそう。一方で、食べ物では、日本の子どもたちが大好きな「ラーメン」とはなんだろう??と想像したり、「キャッサバ」は日本にはないことを知って仰天したり。“同じこと”と“違うこと”の両方を発見する時間となった。
先生がご案内くださった学校ツアーでは音楽や図工の「授業」があることに(大人のルワンダ人スタッフも)仰天し、理科室では生物の標本や岩石の見本に好奇心で目を輝かせた。最後の授業で盛り上がったのは、フルーツバスケット。「Apple!」「Banana!」「フルーツバスケット!」の掛け声とともに、席を目がけて滑り込みながら、子どもたちは大騒ぎ、大笑い。そこに、ルワンダと日本を隔てる距離は存在しなかった。かくして、両国の子どもたちとも、「もっと一緒の時間を過ごせたら、もっと仲良くなれる」ことを確信し、ルワンダの子どもたちは「いつかみんなが私/僕の村に来てくれたら、絶対に心をこめて大歓迎する!!!」と口を揃え、名残惜しい日本の小学校訪問の1日は幕を閉じた。学校へ向かう道のりでは故郷から遠く離れた都会の真ん中で、文字通り固まってしまうほどの緊張でカチコチだったルワンダの子どもたちが、日本の子どもたちとの交流で、すっかり打ち解け、足が痛かったはずのフィレッテちゃんに至っては、お昼休みの隙間時間を見つけて、日本の子どもたちと一緒にサッカーをしようと校舎の外へ走り出すほどの豹変ぶりにスタッフは仰天した。元気があふれ出すきかっけとなった特効薬は、紛れもなく「子ども同士」の力だった。
今回、ルワンダの子どもたちを受け入れてくださったのは、学年ごとに1人ずつ、バングラデシュ、モンゴル、インドなど6人の子どもたちのチャイルド・スポンサーとしてご支援くださっている捜真小学校。支援しているチャイルドのことは「もう1人のクラスメート」と呼び、校内の各所に写真を掲示し、ふだんから世界の子どもたちと積極的に繋がり、ご支援くださっている学校だ。今回の訪問を準備したグローバル教育担当スタッフの松本は、「子どもたちは、ふだん月に一度の献金を送る相手として思い出す存在が、写真から出てきたように感じたのではないかと思います。一緒にお弁当を食べたり、サッカーが好きなことが共通していたり、フルーツバスケットで一緒に笑い転げたり、という時間の共有を通して、よい意味で“なんだ、特別じゃなくて、同じなんじゃん”と感じたのではないでしょうか」と語る。一方で、オリヴィエくんが毎朝5:00に起きて30分~1時間は水汲みに費やしていることを「水があれば家族の役に立つし、いろんなものがきれいになるから、大事で好きなこと」と語るのを聞いたことは、ふだん水道が当たり前で、大変なことはできるだけ避け、楽な生活を追い求める風潮がある日本の子どもたちの感覚からすると、仰天だったかもしれない。
この日は、ルワンダの子どもたちにとっても、貴重で嬉しい1日になった。ルワンダの子どもたちは、この学校の子どもたちがチャイルド・スポンサーという“支援者”であることを知っていた。でも、そこに存在するのが支援する、支援を受ける、という上下関係なのではなく、友だちを想い、家族を想うのと同じ、人としての思いやりの気持ちなのだと感じたのではないだろうか。だから、友人として、いつか自分たちの村に招きたい、感謝をこめて歓迎したい、という気持ちになったのではないかと思う。自分たちと同じ目線の小学生“チャイルド・スポンサー”と過ごした時間は、日本に約5万人いらっしゃる“チャイルド・スポンサー”という存在への安心と信頼を育んだ。自分と違うところもあるけれど、同じところもたくさんあって、友だちになれることがわかった“チャイルド・スポンサー”に心をこめて感謝を伝えたい。その気持ちが3日後の9月17日、ワールド・ビジョン・ジャパン30周年フィナーレイベントに足を運んでくださった500人以上の来場者を前に、堂々と夢を語り、朗々と詩を披露した晴れの大舞台へとつながった。舞台で発表する勇姿に、遠い異国への来日と大都会での体験による緊張でカチコチになっていた3日前の姿は、片鱗さえ感じられなかった。
浅野 恵子
↓ルワンダの子どもたちの晴れ舞台を見る↓
*ルワンダの子どもたちによる日本の小学校訪問について、ネットメディアBuzzFeedが報じてくださいました。ぜひご覧ください。
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【関連ページ】
・ルワンダ:子どもたちはこんな支援地域で暮らしています
・【開催報告】30周年フィナーレイベント~つながろう、子どもたちのために~(ダイジェスト動画あり)
・30周年を記念して各界の方々からお寄せいただいた記念メッセージ
・【スタッフ・ブログ】「今、私にできること」~あなたの「え!?」が聞きたくて(グローバル教育担当:松本スタッフ)
この記事を書いた人
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