【スタッフ・ブログ】国際NGO ワールド・ビジョン・ジャパン

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忘れられない事業地訪問~南スーダン・タンブラ州での校舎引渡式に参加して~

飛行機が着陸態勢に入り、タンブラ州の塗装されていない土の滑走路が姿をみせた時、目に飛び込んできたのは、滑走路の脇で待つ人・人・人!!! その数ざっと数百人?! おとな、子ども、お母さんに抱かれた赤ちゃんまで、1時間も出発が遅れた飛行機を炎天下の中ずっと待っていたのです。

タンブラ空港に到着

タンブラ空港に到着

タンブラ空港に集まった人々(この写真で見えるのは、ほんの一部です!)

タンブラ空港に集まった人々(この写真で見えるのは、ほんの一部です!)

4年越しに実現した事業地訪問!

ここは、南スーダンの南西部に位置する地方のタンブラ州。ワールド・ビジョン・ジャパンが、2015年から教育支援を続けてきた場所です。通常、事業地訪問は、ワールド・ビジョンのスタッフであれば定期的に行うことです。東京をベースに働く本部スタッフであっても、年に数回程度事業地を訪問し、目で見て、耳で聞いて、肌で感じて、事業の成果そして課題についてコミュニティの人々とステークホルダーと話し合い、事業がより良いものとなるように調整します。

しかし、2015年の事業開始以降、このタンブラ州には、日本人スタッフが降り立つことはありませんでした。日本政府が発表する南スーダンの危険レベルが高いため、首都ジュバまで出張することはできても、事業地のある地方には出張できない状況でした。それが今回、外務省、駐南スーダン大使館、ジャパン・プラットフォームとの話し合いを重ねた結果、約4年間の支援が終わるこのタイミングで校舎引渡式を行い、駐南スーダン特命全権大使および大使館職員の皆さまとともに、日帰りでのタンブラ州訪問が実現しました!

左から、タンブラ州知事、駐南スーダン特命全権大使、ワールド・ビジョン・南スーダン統括事務所所長、ワールド・ビジョン・ジャパンのプログラム・コーディネーター平井・千田

左から、タンブラ州知事、駐南スーダン特命全権大使、ワールド・ビジョン・南スーダン統括事務所所長、ワールド・ビジョン・ジャパンのプログラム・コーディネーター平井・千田(筆者)

冒頭でお伝えした人だかりは、2015年以降学校校舎・トイレの建設、そして、教員含む教育関係者を対象とした研修などの実施を支援してきた『日本という遠い国』の大使が初めてタンブラ州を訪問し、校舎引渡式に出席すると聞き、集まった人々なのです。田舎町のタンブラ州に、海外の大使が訪問するなど、ほぼ初めてに等しいことでした。

教育支援事業で建てた新しい学校校舎

教育支援事業で建てた新しい学校校舎

「想像」から「確信」へ

そして、私自身、これまで訪問したことがあるアフリカの国々からヒントを得て、タンブラ州の実像をずっと『想像』しながら、事業を担当してきたのですが、タンブラ州の地に降り立つのは今回が初めてです! やっと目にすることができたタンブラ州の人々、道路、住居、畑、そして支援してきた学校と子どもたち。たった数時間の滞在では、見たかったもの全てを見ることはできませんでしたが、その中でもブログを通じて、皆さまにお伝えしたいエピソードと写真がたくさんあります!

良く似合うビビットカラーのお揃いの制服を着た低学年の子どもたちによる元気いっぱいの歌のパフォーマンスには、周りのおとなたちを笑顔にするパワーがありました! その姿を見ながら、これまで続けてきた教育支援を通じて、ここにいる紛争の影響が根深く残る南スーダンに生まれた子どもたちの誰かは、笑顔にできたのではないかと、私のこれまでの想像が、少しだけ確信に近づくのです。

 

子どもたちのダンスと歌の歓迎パフォーマンス

子どもたちのダンスと歌の歓迎パフォーマンス

2013年12月、南スーダンの首都ジュバで発生した武力衝突の後、地方の各地に飛び火した暴力の影響は比較的少なかったタンブラ州。しかし、国際社会の支援が『故郷を追われ避難しなければならなかった人々』に集中したために、タンブラ州の人々は支援から取り残されそうになっていました。だからこそ、4年間の教育支援は、子どもたち、そして、おとなの未来に向かう希望の種であったらと願っています。

「良いお知らせを待っているの!」

そんなふうに、子どもたちの過去、そして未来に想いをはせて聞いていた歓迎の歌の終盤、大使、ワールド・ビジョンのスタッフ、そして私が思わず、苦笑い(?)してしまう瞬間がありました(笑)。過去4年間、11校における学校建設を含む、包括的な教育支援を続けてきたタンブラ州では、現地の教育関係者の能力強化支援もひと段落し、これまで研修を受けてきた人々が、知識とスキルを同僚に指導することができるようになり、この度無事終了を迎えるのですが…。

“We are hoping to hear the good news that you are going to build more schools! “
(私たちは、良いお知らせを待っているの! 日本がもっとたくさんの学校を建てるという良いお知らせを!)

Hear the Good Newsの振り付けは、首を傾げて耳に手をあてるこのポーズ

Hear the Good Newsの振り付けは、首を傾げて耳に手をあてるこのポーズ

そう、子どもたちは正しいのです! 南スーダンの純就学率は34.7%、成人識字率は27%と世界最悪レベルです。学校に通える子どもたちの方が少なく、教育の何もかもが、まだまだ十分ではないのです。ワールド・ビジョン・ジャパンは、今年からは、北部のセントラル・アッパーナイル州にて、緊急期の教育支援を開始しました。戦闘が激しかった地域のひとつですが、今は治安が落ち着いているため、国内外に避難していた大勢の人々が今後帰還することが見込まれている場所です。南スーダンの平和を願い帰還した人々が、ここでも希望の種を見つけることができるよう、新しい事業地の子どもたちも教育で笑顔にしたいのです。

お祝いムードの中、肝に銘じたこと

最後に、私自身が今後忘れることがないように、書き記しておきたいことがあります。当日は、温かい歓迎ムードの中、盛大に式典が行われました。地方政府職員は、男性はスーツ、女性はアフリカらしい色彩豊かなドレスに身を包み、コミュニティの人々もどこかおしゃれをしているように見えました。まだ小さな子どもも、小さなフリルがあしらわれた可愛いドレスを着ていました。

そんな雰囲気の中、式典の際中に、私の手をとって、私に注意を向けさせた女性がいました。その女性の来ていたワンピースは、腰のところが大きく破れていて、全体的に色褪せていて、正直なところ綺麗ではありませんでした。彼女は、英語が話せないけれど、訴えていることは、そのジェスチャー、そして、その力強い目線から十分に伝わります。

「私は着るものさえ十分ではないの!」

大勢の人々が集まる華やかなお祝いの場に、破れたワンピースを着て参加すること、そして『外国人』の私に大勢の人の前で話しかけることは、勇気がいることだったはずです。

「喜ぶ者といっしょに喜び、泣く者といっしょに泣きなさい」
(ローマ人への手紙12章15節)

彼女に出会ったことで、この聖書箇所が思い起こされました。みんなが笑顔だったこのお祝いムードに心が流されてはいけないのです。2015年以降、南スーダンの食糧危機は毎年深刻な状況です。十分な食べ物がなくて、栄養不良になってしまった子どもたちもいました。また、国内では、突発的な暴動によって国内避難民として逃げざるを得なかった人々もいました。命を落とした人も大勢いました。

人道支援の仕事をしていると、喜びを分かち合う多くの機会に出会います。その喜びが、私たちの仕事に取り組む原動力にもなっています。でも、その裏で、必要とされている支援を届けることができなかった人々もいることを決して忘れることなく、取り組んでいきたいと思います。

子どもたちに食糧を届けるためのクリスマス募金にご協力ください。

タンブラ州での教育支援実施のために、これまでたくさんの時間と労力を費やして尽力してきたワールド・ビジョン・南スーダン統括事務所のスタッフとともに(首都ジュバで会うことはありましたが、彼らの拠点であるタンブラ州で会える喜びがありました)

タンブラ州での教育支援実施のために、これまでたくさんの時間と労力を費やして尽力してきたワールド・ビジョン・南スーダン統括事務所のスタッフとともに(首都ジュバで会うことはありましたが、彼らの拠点であるタンブラ州で会える喜びがありました)

この記事を書いた人

古賀(千田)愛子
大学卒業後、民間企業に2年間勤務したのち、NGOのキャンペーンスタッフやインターンとして開発支援に関わる。
その後、一般社団法人での南スーダン能力開発プロジェクトのコーディネーターを経て、2015年7月にワールド・ビジョン・ジャパン入団。
南スーダンの教育支援事業とWFP(国連世界食糧計画)の食糧支援事業を担当。
2020年2月家庭の都合により退団。2021年7月に再入団。マーケティング第2部サービス開発課に所属。
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